アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

SHO

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二章 立志

シンディの先見

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「私の今までの話は全て真実だよ。だが、君達に話していない事がある」

 ジルはそう言って、四人の顔を順に見渡していく。二人の護衛は腕組みをし、目を伏せて黙って聞いている。

「カール君。君のエストック。それは私の商会が売ったものだ。そしてスージィ君。君のブーツも、マリアンヌ君のゴーグルもそうだね」
「「「!!」」」

 余りにも予想外なジルのカミングアウトに、三人は驚きを隠せない。

「そしてチューヤ君。君の持つ『シンシア』は、私が昔シンディに与えたものだ」
「なっ!?」
「君がその『シンシア』を譲り受けたという事は、君も纏魔てんまの使い手なのだろう?」
「……」

 まるで狐か狸に化かされたかのような顔のチューヤに、ジルはふっと表情を和らげた。

「私のキャラバンがこのタイミングでスクーデリア王都にいたのは全くの偶然だ。だが、どこでその話を聞きつけたのか、一月ほど前のある夜、王都の定宿にアイツが訪ねて来たんだ」

 一月ほど前と言えば、デヴィッドとの模擬戦を前に、シンディの家で特訓を始めた時期と重なる。

「その時、アイツが私にしたのが、魔眼をカモフラージュ出来るゴーグルと、魔法発動媒体としても使えるエストック。これはどっちも中々レアな品物で、取り寄せるのに一月掛かっちまった」

 その話を聞いて、カールとマリアンヌが顔を見合わせた。
 国外に脱出せざるを得ない状況を見越してのものか、それとも模擬戦で使わせるつもりだったのかは定かではないが、二人はシンディの気遣いに感謝する。

「そしてつい二日前の夜だな。エストックとゴーグルが入荷したって連絡をしようと思ってた矢先に、アイツがやって来た。『脚力増強のブーツも追加してくれ、今すぐに!』ってな」

 これはスージィの予想外の行動に、流石のシンディも焦ったという事だろう。同時に、王都に留まるのは危険であると判断したという事だ。

「まあ、筋力増強系のエンチャントが施された装備品ってのは結構タマはあるからどうにかなった。そして――」

 ジルはここで一旦煙管から煙を吸い込み、ふぅっと天井に向けて吐き出した。そして言いかけた話の続きを口にする。

「出来るなら、ミナルディへの道中、君達の面倒を見てくれないかと頼まれた」

 流石にここまで言われれば四人も理解する。ジルが現れたタイミング、気前が良すぎる申し出。それらは自分達を気遣ったシンディが手を回しての事だった。
 そこで、ここまで腕組みをしながらじっとジルの話を聞いていたチューヤが、おもむろにジルをじっと見つめた。

「な、何かな? 私はまだ独身だが……?」
「そうか」

 あまりにも真剣なチューヤの眼差しに、ジルも思わず狼狽え気味にボケて見せるが、それを何事も無かったかのようにサラリと流してチューヤは続ける。

「……師匠や、こいつらの家族は大丈夫なんスか?」
「へえ……師弟が共にお互いを心配し合うなんていいじゃないか。ま、アイツに関しちゃ心配いらないよ。アイツが守るって決めたんなら、何があっても、誰が相手でも守り抜く。そういうヤツさ」

 ジルはそう答えると、懐かしそうな色を瞳に浮かべ、王都の方角を見つめた。

「しかし! いくら師匠でも、貴族や国の圧力に耐えられるとは……!」

 カールは貴族の汚いやり口を嫌という程味わってきただけに、ジルの言葉を聞いただけでは安心できるものではない。

「それなら、何故君は逃げて来たんだい?」
「……」

 カールはジルの鋭い問いに言葉を詰まらせる事しか出来ない。
 自分達はスクーデリア王国に残ってはいけない。いては家族に迷惑がかかる。それしか考えていなかったのではないか?

「……君達を見てよく分かったよ。シンディが君達を逃がした訳を」
「「「「?」」」」

 今までのやり取りで、ジルは何が分かったと言うのか。四人は不思議そうな表情を浮かべる。

「君達は……家族や師匠に危害が及ぶような事になれば、自分の身を顧みずに戦うだろう? アイツは、それを危ぶんだのだと思うがね」

 否定できなかった。誰一人として。

「アイツは、君達の家族より、そして自分より、君達に生き延びて欲しかったんじゃないのかな?」

 ジルの諭すような言葉に、皆が俯いてしまう。自分達の無力さに苛まれるように。
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