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二章 立志
伏兵
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額を付き合わせながら睨み合っているチューヤとカールを、ジルが生温かく見守る。
マリアンヌとスージィは、もはや通常の光景なので特に止めるような事はしない。しかし、同乗している二人の護衛はハラハラしているようだ。
「お、おい、あんたら……」
「こんな馬車の中でおっぱじめるのは勘弁してくれよ?」
護衛達は四人の戦闘を目撃した訳ではないが、少なくともこの中の一人は、大型の変異種を綺麗な状態で仕留めてしまう技量を持っているのは明らかだ。そんな人間が馬車の中で暴れたら……
「大丈夫だよ! この二人はこんなになっても、無節操に馬車の中で暴れるような真似は――」
マリアンヌが、護衛の二人にこんな事は日常茶飯事である事を告げようとするが、途中で言葉を途切れさせた。
「みんな静かに!」
そして周囲を黙らせ、耳に手を当てて聞き耳を立てる仕草を見せた。
シンディの屋敷を旅だってから、マリアンヌは出来る限り視覚、聴覚の強化の為に魔力を割いていた。言うまでもなく警戒の為である。
それは変異種への警戒でもあり、それ以外への警戒でもあったのだが。
「まだかなり先だけど、馬の蹄の音がたくさんする。それに、金属がぶつかり合うような音もするから、多分金属甲冑じゃないかな?」
そんなマリアンヌの言葉に、一同が思い浮かべたのは騎兵。
そして騎兵という事は。
「どこぞの貴族の手の者か……」
貴族出身のカールが唸るようにそう言えば、それにチューヤがからかうように続けた。
「デヴィッドのヤツじゃねえの?」
「「ああ~……」」
それにスージィとマリアンヌがもの凄く嫌そうな顔で溜息をついた。
――バサバサバサッ
そんな時だ。
ジルが煙管を吸うために開け放っている馬車の窓から、一羽の鳥が飛び込んで来た。そしてその鳥はチューヤの剣の柄尻へと舞い降りた。
「ああ、それはシンディの使い魔だね。まあ、伝達用のヤツさ。何か手紙とかは?」
ジルにそう言われてチューヤが鳥を見ると、足首に紙が括りつけられていた。
それを解き、チューヤが読み上げる。
そこに書かれていたのは僅か一行。
「構わねえからぶっ潰せ……だそうだ」
その文面に流石のチューヤも苦笑を隠し切れない。それにカールが納得の表情で答える。
「師匠がそう言うからには、やはり迫っているのは敵なのだろうな」
離れた王都にいるシンディがなぜ状況を察しているのか、そしてなぜこの馬車にいる事を知っているのかなど、誰も疑問を挟まない。
僅かな期間、スージィに至っては殆ど一緒にいる事が無かったにも拘らず、四人はシンディに対して絶対的な信頼感を寄せていた。その様子を、ジルが心底嬉しそうな表情で見守っていた。
そして表情を引き締め口を開いた。
「君達を無事にミナルディまで送り届けるのが私の役目だ。最大限、力を振るわせてもらうよ」
その時、マリアンヌが叫ぶ。
「前方右! かなりの人数が潜んでいるよ!」
街道を挟んで左は森。右は麦畑。その麦畑に何者かが集団で潜んでいるという。
「森に入りましょう」
そう言ったのはスージィだ。
「逃げるってのかい?」
「いえいえ。人目に付かない方が何かと都合が良いのではありませんか?」
目付きを鋭くしたジルに、スージィは笑みを浮かべながらそう言ってのけた。
マリアンヌとスージィは、もはや通常の光景なので特に止めるような事はしない。しかし、同乗している二人の護衛はハラハラしているようだ。
「お、おい、あんたら……」
「こんな馬車の中でおっぱじめるのは勘弁してくれよ?」
護衛達は四人の戦闘を目撃した訳ではないが、少なくともこの中の一人は、大型の変異種を綺麗な状態で仕留めてしまう技量を持っているのは明らかだ。そんな人間が馬車の中で暴れたら……
「大丈夫だよ! この二人はこんなになっても、無節操に馬車の中で暴れるような真似は――」
マリアンヌが、護衛の二人にこんな事は日常茶飯事である事を告げようとするが、途中で言葉を途切れさせた。
「みんな静かに!」
そして周囲を黙らせ、耳に手を当てて聞き耳を立てる仕草を見せた。
シンディの屋敷を旅だってから、マリアンヌは出来る限り視覚、聴覚の強化の為に魔力を割いていた。言うまでもなく警戒の為である。
それは変異種への警戒でもあり、それ以外への警戒でもあったのだが。
「まだかなり先だけど、馬の蹄の音がたくさんする。それに、金属がぶつかり合うような音もするから、多分金属甲冑じゃないかな?」
そんなマリアンヌの言葉に、一同が思い浮かべたのは騎兵。
そして騎兵という事は。
「どこぞの貴族の手の者か……」
貴族出身のカールが唸るようにそう言えば、それにチューヤがからかうように続けた。
「デヴィッドのヤツじゃねえの?」
「「ああ~……」」
それにスージィとマリアンヌがもの凄く嫌そうな顔で溜息をついた。
――バサバサバサッ
そんな時だ。
ジルが煙管を吸うために開け放っている馬車の窓から、一羽の鳥が飛び込んで来た。そしてその鳥はチューヤの剣の柄尻へと舞い降りた。
「ああ、それはシンディの使い魔だね。まあ、伝達用のヤツさ。何か手紙とかは?」
ジルにそう言われてチューヤが鳥を見ると、足首に紙が括りつけられていた。
それを解き、チューヤが読み上げる。
そこに書かれていたのは僅か一行。
「構わねえからぶっ潰せ……だそうだ」
その文面に流石のチューヤも苦笑を隠し切れない。それにカールが納得の表情で答える。
「師匠がそう言うからには、やはり迫っているのは敵なのだろうな」
離れた王都にいるシンディがなぜ状況を察しているのか、そしてなぜこの馬車にいる事を知っているのかなど、誰も疑問を挟まない。
僅かな期間、スージィに至っては殆ど一緒にいる事が無かったにも拘らず、四人はシンディに対して絶対的な信頼感を寄せていた。その様子を、ジルが心底嬉しそうな表情で見守っていた。
そして表情を引き締め口を開いた。
「君達を無事にミナルディまで送り届けるのが私の役目だ。最大限、力を振るわせてもらうよ」
その時、マリアンヌが叫ぶ。
「前方右! かなりの人数が潜んでいるよ!」
街道を挟んで左は森。右は麦畑。その麦畑に何者かが集団で潜んでいるという。
「森に入りましょう」
そう言ったのはスージィだ。
「逃げるってのかい?」
「いえいえ。人目に付かない方が何かと都合が良いのではありませんか?」
目付きを鋭くしたジルに、スージィは笑みを浮かべながらそう言ってのけた。
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