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二章 立志
だって敵だからね
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賊のリーダーの男は塩水による拷問で呆気なく口を割った。
「俺達のアジトに騎士風の男が数人訪ねてきたんだ。この街道を通る商隊を襲えってよ」
その男の言葉を聞いたマリアンヌが頷きながら言った。
「前から迫ってくる騎馬隊と、こいつらがグルなのはほぼ確定だね!」
「へへっ! そうだぜ? 俺達に手を出したお前ら、タダで済むと思うなよ?」
騎士の話題が出た所で、急に強気になったリーダーの男を見て、カールが深いため息をついた。それはもう、心底呆れたという表情で。
「騎士と言うからには貴族の手の者だろう。それが賊と繋がっていたなどの証拠を残すものか。貴様達は全員口封じされるに決まっているだろう?」
自らも貴族故に、その汚い世界をよく知っている。敵を蹴落とす為ならばどんな手段も厭わない。そんな人間が跋扈しているのが貴族の社会というものだ。
そんなカールの言葉には説得力がある。チューヤ達仲間はもちろん、その言葉を信じたくない賊の男ですら納得してしまう程に。
そこへチューヤが、味方ですら身震いするような凶悪な笑みを浮かべながら近付いていく。
「よお。その騎士どもとはどういう手筈になってたのか吐きやがれ。俺達に協力すればワンチャン生き残れるかも知れねえが、あっちに義理立てしても消されるだけだそうだぜぇ?」
しかし男は中々答えない。盗賊が捕縛されたら、死罪以外にない事を知っているからだ。だが、隣にいた少女が何かが決壊したように口を開く。
「アンタ達を森に追い込んで、騎士様達を待って……そして共同で攻撃する予定だった! でも何でかすぐ見つかっちゃって! あっという間に壊滅しちゃって……うっ、うぅ……」
少女は嗚咽混じりにそう叫ぶ。
「あたいは、好きで盗賊になった訳じゃない! 父ちゃん母ちゃんをこいつらに殺されて……無理矢理雑用で働かされ、拒めば酷い目に遭わされ、大きくなってからは身体だって……」
少女はついに、はらはらと涙を零しながら項垂れる。
「てめえ……そりゃマジか?」
据わった目をしたチューヤが、底冷えするような低いトーンの声でリーダーの男を問い詰めた。
「し、知らねえ……」
男は明らかに視線を泳がせながら否定の言葉を口にする。しかしそれは、その場にいた誰もが嘘だと分かるような、薄っぺらい否定の言葉だった。
「……」
無言でチューヤは『シンシア』を抜く。その剣身は油が滴り落ちるような光沢で輝き、見ているだけでも斬られてしまいそうな、そんな殺気を放出していた。
直接剣を向けられたリーダーの男のみならず、横にいた少女も動いたら斬られる。そんな恐怖で身を竦ませていた。
「やっぱてめえらはクソだな」
スッとチューヤが剣を横に薙いだ。リーダーの男の首がゴロリと転がり落ち、盛大に血飛沫が舞う。
「こんな所で汚い噴水を上げるんじゃない」
カールが噴水のように血飛沫を上げる首の切り口に氷結魔法を放ち、血を止めた。
「ねえチューヤ? まだその子がホントの事言ってるとは限らなかったんじゃないかな?」
やや咎めるような口調でスージィが言う。
「そうだねえ。仮にチューヤが手を下さなくても、コイツは極刑だった訳だし、チューヤが手を汚す事はなかったかもね」
スージィに同意するように、マリアンヌもチューヤを見ながら言った。
どうせ生き延びる運命などなかった盗賊だ。隣の少女にしても、生き延びる為の口から出まかせかも知れない。
しかしチューヤはあっさりと言い放つ。
「どっちでも同じなら、俺がやっても同じだ。それに、ソイツが嘘ついてたってんなら、ソイツも同じようにブッ殺す。お前ら、模擬戦でデヴィッドのヤツが俺達を殺しに来てたのを忘れたのか?」
チューヤの思考は至極単純だ。迫っている騎馬隊は、十中八九デヴィッドの手の者だろう。
デヴィッドは自分達を殺すつもりだった。ならば、デヴィッドの騎馬隊も、それと契約を結んで自分達を襲って来たこの盗賊も、紛れもなく殺すべき敵だ。
敵は自分達の大事なものを躊躇なく奪っていく。命、財産、家族、仲間……だから自分も躊躇なく敵を屠るのだ。
「ふん。脳筋は単純で羨ましい事だ……だが、私達が養成学校で学んだ事は、人を殺す方法だという事を忘れるべきではない」
いちいち棘のある言い方ではあるが、カールはチューヤの行動に関して全面的に認めているようだった。それは善悪や正義などという観念にとらわれるものではなく、守る為には当然の事。そして自分達はその術を学ぶために養成学校の門を叩いたという事実。
「分かってるよ。でもチューヤは本当は優しい人だ。その子を殺せるとは思えない。だから、その時はボクが……」
マリアンヌはマリアンヌで、それなりの覚悟をしていたようだ。その様子を見ていたジルが、場の緊張を和ませる発言をする。
「まあ、嘘か真か、ここで騎馬隊を待ち受けてみようじゃないか。その子は私が引き取ろう。フフフ……磨けば光りそうだしねえ」
ジルのその表情は、目尻が下がり、舌なめずりせんばかりだった。その顔を見た少女は、自分を抱きしめながらひたすら怯えていた。
「俺達のアジトに騎士風の男が数人訪ねてきたんだ。この街道を通る商隊を襲えってよ」
その男の言葉を聞いたマリアンヌが頷きながら言った。
「前から迫ってくる騎馬隊と、こいつらがグルなのはほぼ確定だね!」
「へへっ! そうだぜ? 俺達に手を出したお前ら、タダで済むと思うなよ?」
騎士の話題が出た所で、急に強気になったリーダーの男を見て、カールが深いため息をついた。それはもう、心底呆れたという表情で。
「騎士と言うからには貴族の手の者だろう。それが賊と繋がっていたなどの証拠を残すものか。貴様達は全員口封じされるに決まっているだろう?」
自らも貴族故に、その汚い世界をよく知っている。敵を蹴落とす為ならばどんな手段も厭わない。そんな人間が跋扈しているのが貴族の社会というものだ。
そんなカールの言葉には説得力がある。チューヤ達仲間はもちろん、その言葉を信じたくない賊の男ですら納得してしまう程に。
そこへチューヤが、味方ですら身震いするような凶悪な笑みを浮かべながら近付いていく。
「よお。その騎士どもとはどういう手筈になってたのか吐きやがれ。俺達に協力すればワンチャン生き残れるかも知れねえが、あっちに義理立てしても消されるだけだそうだぜぇ?」
しかし男は中々答えない。盗賊が捕縛されたら、死罪以外にない事を知っているからだ。だが、隣にいた少女が何かが決壊したように口を開く。
「アンタ達を森に追い込んで、騎士様達を待って……そして共同で攻撃する予定だった! でも何でかすぐ見つかっちゃって! あっという間に壊滅しちゃって……うっ、うぅ……」
少女は嗚咽混じりにそう叫ぶ。
「あたいは、好きで盗賊になった訳じゃない! 父ちゃん母ちゃんをこいつらに殺されて……無理矢理雑用で働かされ、拒めば酷い目に遭わされ、大きくなってからは身体だって……」
少女はついに、はらはらと涙を零しながら項垂れる。
「てめえ……そりゃマジか?」
据わった目をしたチューヤが、底冷えするような低いトーンの声でリーダーの男を問い詰めた。
「し、知らねえ……」
男は明らかに視線を泳がせながら否定の言葉を口にする。しかしそれは、その場にいた誰もが嘘だと分かるような、薄っぺらい否定の言葉だった。
「……」
無言でチューヤは『シンシア』を抜く。その剣身は油が滴り落ちるような光沢で輝き、見ているだけでも斬られてしまいそうな、そんな殺気を放出していた。
直接剣を向けられたリーダーの男のみならず、横にいた少女も動いたら斬られる。そんな恐怖で身を竦ませていた。
「やっぱてめえらはクソだな」
スッとチューヤが剣を横に薙いだ。リーダーの男の首がゴロリと転がり落ち、盛大に血飛沫が舞う。
「こんな所で汚い噴水を上げるんじゃない」
カールが噴水のように血飛沫を上げる首の切り口に氷結魔法を放ち、血を止めた。
「ねえチューヤ? まだその子がホントの事言ってるとは限らなかったんじゃないかな?」
やや咎めるような口調でスージィが言う。
「そうだねえ。仮にチューヤが手を下さなくても、コイツは極刑だった訳だし、チューヤが手を汚す事はなかったかもね」
スージィに同意するように、マリアンヌもチューヤを見ながら言った。
どうせ生き延びる運命などなかった盗賊だ。隣の少女にしても、生き延びる為の口から出まかせかも知れない。
しかしチューヤはあっさりと言い放つ。
「どっちでも同じなら、俺がやっても同じだ。それに、ソイツが嘘ついてたってんなら、ソイツも同じようにブッ殺す。お前ら、模擬戦でデヴィッドのヤツが俺達を殺しに来てたのを忘れたのか?」
チューヤの思考は至極単純だ。迫っている騎馬隊は、十中八九デヴィッドの手の者だろう。
デヴィッドは自分達を殺すつもりだった。ならば、デヴィッドの騎馬隊も、それと契約を結んで自分達を襲って来たこの盗賊も、紛れもなく殺すべき敵だ。
敵は自分達の大事なものを躊躇なく奪っていく。命、財産、家族、仲間……だから自分も躊躇なく敵を屠るのだ。
「ふん。脳筋は単純で羨ましい事だ……だが、私達が養成学校で学んだ事は、人を殺す方法だという事を忘れるべきではない」
いちいち棘のある言い方ではあるが、カールはチューヤの行動に関して全面的に認めているようだった。それは善悪や正義などという観念にとらわれるものではなく、守る為には当然の事。そして自分達はその術を学ぶために養成学校の門を叩いたという事実。
「分かってるよ。でもチューヤは本当は優しい人だ。その子を殺せるとは思えない。だから、その時はボクが……」
マリアンヌはマリアンヌで、それなりの覚悟をしていたようだ。その様子を見ていたジルが、場の緊張を和ませる発言をする。
「まあ、嘘か真か、ここで騎馬隊を待ち受けてみようじゃないか。その子は私が引き取ろう。フフフ……磨けば光りそうだしねえ」
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