アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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二章 立志

ミナルディ入国

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 キャラバンの先頭を行く騎兵のリンダが、関所で数分間の手続きをする。
 ジルの商会の馬車が国境を跨いで商売をする事はすでに日常の一部であるらしく、関所の役人もそれほど深く追求する事もないし、積荷を検める事も極めて事務的だ。それだけパーソン商会がミナルディ、スクーデリア双方から信用されているという事だろう。
 関所を越えて街道を小一時間程進むと、ミナルディ最初の宿場町がある。それまでの道程は、街道の両側は長閑な農耕地で、麦や野菜の畑が広がっている。見晴らしは悪くないため伏兵を置くには不向きな地形が続く。逆に言えば、平坦な地形故に大部隊を展開しやすい。

「大丈夫、ボクのつくもでも見えないよ」

 念のため、魔眼に魔力を込めて周辺の反応を探っていたマリアンヌが太鼓判を押す。

「となると、宿で就寝中を狙うか、宿を出立したあとを襲撃するか、だな。ミナルディに入って一晩疲れを取り、安心しきっている所を狙うならいいタイミングだ」

 そんなカールの言葉に頷きながらも、チューヤが続けた。

「まあそうなんだがよ。俺達はスクーデリアから見ればお尋ね者だぜ? あの国が変わらない限り、ずっと警戒しながら生きていかなきゃなんねえんだよ。どこに行ったって同じさ」
「……チューヤ君の言う通りかも知れないね。ミナルディの傭兵組合は、国外からも仕事を請け負っている。つまり、スクーデリアのが私達をターゲットにした依頼も出来る訳だ。まあ、そんな依頼は組合が拒否するだろうが……」

 チューヤの言葉はお先真っ暗に思えたが、それに輪をかけてジルの発言は気が重くなるものだった。
 彼女の発言はあくまでも公式には、という事であり、金に糸目をつけなければ、組合を通さずに傭兵を集めて襲撃する、という手段も可能だという事である。となれば、ミナルディ国内にも敵はいる可能性は捨てきれない。

「そんな訳でさ、ジルさん」
「なにかな?」

 チューヤの眼差しは真剣そのもの。その表情を見たジルは、彼が腹を決めた事を悟った。そしてそれは、おそらく自分の望みとは別の道を進むものだという事も。

、次の宿場町でキャラバンを離れるよ」
「理由を聞いても?」

 ジルはチューヤの答えなど分かっていた。この子達を囲っている以上、ミナルディに名を馳せるパーソン商会にトラブルを呼び込むのは確定事項だろう。彼はそれを嫌ったのだ。師匠であるシンディも、同じことをするだろうな、と苦笑してしまう。もっとも、他でもないそのシンディから託された子達だ。多少のトラブルなど覚悟の上なのだが。

「もう十分世話ンなったからな! お陰で路銀も浮いたし、こっからは自分のケツは自分で拭くって」

 そしてチューヤは、、と言った。あくまでも個人の決断である事を強調している。他のメンバーの決断は尊重するという事だ。

「そうか。私個人としては非常に残念なのだがね……他の三人はどうするんだい?」
「ボクはチューヤと一緒にいくよ! 恩返ししなくちゃ!」
「……」

 マリアンヌの返事も大方予想通りだったのか、ジルは薄く笑いながらカールへと視線を移し、無言で答えを促した。

「私も次の街を拠点にして活動するつもりだ。国境付近の街なら、スクーデリアの情報も入りやすいだろう」
「あたしも他の三人と一緒よ」

 カールが答えると、スージィもすかさずそれに同調した。
 
「はぁ……もう少し頼ってくれてもいいんだがね。まあ、君達の信念を尊重しよう。ただし、私からの餞別は受け取ってもらうぞ?」
「「「「餞別?」」」」
「ふふ……楽しみにしたまえ」




 そして一行はミナルディ最初の街に入る。

「君達も一緒に来てくれ」

 街に入ると、ジルは宿には直行せずに、馬車内の護衛二人を連れてこの街にあるというパーソン商会の支店へと向かった。チューヤ達四人もジルに従って同行している。

「この街はピットアインと言ってね。スクーデリアとの交易の拠点だ。それなりに大きな街だろう? 私の商会も、支店の規模では一、二を争うものを置いているんだ」

 そう言うと、石造りの三階建ての建物の前で立ち止まる。

「さ、入ろうか」

 護衛の二人は扉の前で待っているように指示を出され、ジルと四人が支店の中に入る。

「君達はここでくつろいでいてくれたまえ。あ、そこの君! この四人は私の客人だ。なにか飲み物でも出してくれないか」

 ジルは商談に使う四人掛けのソファに座るように勧めると、従業員らしき女性に声を掛けた。そしてそのまま奥へと行ってしまう。そして女性従業員が持ってきたジュースを飲みながら待つ事数十分。

「皆様、わたくしはパーソン商会ピットアイン支店長のクルーと申します。会長はこの後少々打ち合わせがございますので、わたくしの部下がご案内させていただきます」
「「「「は?」」」」

 慇懃な態度で話しかけてきた中年男性。そしてその傍らには二十代半ば程の器量によい女性が立っており、会釈をしてきた。

「それでは皆様、参りましょうか」

 あーもすーも無く、といった感じで、四人はその女性の後を付いて行く。

「こちらの物件になります。生憎と家具一式揃っている状態で四人が不足なく住まわれる物件となりますと、本日はこちらしかご用意出来ませんで……」
「「「「……?」」」」

 その『物件』とはちょっとした金持ちでも住んでいそうな二階建ての屋敷だった。バストイレ、キッチンにダイニング、その他に個室が六部屋。そこそこ広い庭と物置小屋。敷地は高さ二メートル程の塀に囲まれている。

「ハウスキーパーが一名常駐しておりますので、すぐにでもお住まいいただけますよ?」
「「「「いやいやいや」」」」

 はっきり言って豪邸だ。こんな家をあてがわれても家賃を支払う当てもない。四人はひたすら困惑するばかりだ。
 
「すでにチューヤ様、カール様、マリアンヌ様、スージィ様の共同名義となっておりますので、たった今よりお好きに使っていただいて構いません」

 そう言いながら、引率の女性従業員は、門にあるボタンを押した。
 すると、屋敷の中からメイド服に身を包んだ少女が出てきた。歳の頃は十二、三歳だろうか。くりりとした目鼻立ちの愛らしい少女だ。

「新しいご主人様ですね! お待ちしておりました。わたしはこのお屋敷にお勤めしているミラです!」
「「「「あ、ハイ……」」」」

 なし崩し的に豪邸をあてがわれて、四人はどう反応してよいのか分からず、途方に暮れるのだった。

 
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