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三章 ギルド
それぞれの家族
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「ねえミラちゃん。今晩ボクとやってみない? その闇夜の模擬戦ってやつ」
「あ! 昨夜のチューヤさんには歯が立たないって思いましたけど、面白そうだとは思いました!」
マリアンヌに誘われたミラが、さもやりたそうにマンセルを見つめる。それを受けたマンセルが肩を竦める。
「仕方ないでしょうな。旦那様方のお役に立つのもお役目の一つでしょう」
そう言って苦笑した。あくまでもこの屋敷の使用人のトップはマンセルなので、ミラも勝手は出来ないのだろう。
「やった! それではマリアンヌ様、今夜はよろしくお願いしますね!」
「うん、こちらこそ!」
小柄で可愛らしい二人のやり取りは、物騒な内容とは裏腹にとても微笑ましい。しかしそんな雰囲気を現実に引き戻したのがカールだった。
「ところで、お前達の家族はどうする事になったのだ?」
「ああ、それなら――」
初めに答えたのはスージィだった。元々彼女の両親はスクーデリアの王都で小さいながらも商店を営んでいた。商売のノウハウも持っているため、暫くはパーソン商会のもとで仕事をするらしい。あくまで暫定という事らしいが。
「暫定っていうのは、目途が立ったら独立してもいいですよって事ね。ほんと、ジルさんには何から何まで良くしてもらって」
そう言って感謝の言葉を述べるスージィ。そしてマリアンヌが続く。
「ボクのお母さんは身寄りのない子供を育てている孤児院で働かせてもらえる事になったよ! ウチの弟や妹もそこで寝泊まり出来るんだって」
マリアンヌの言う孤児院とは、ジルの商会が運営しているものだ。寄付金だよりの他の孤児院とは違い、資金面での心配はないし、最小限ではあるが生活面も問題ないのだという。
「でもそれじゃあジルさんにメリットがねえんじゃねえの?」
聞いた限りではまるっきりの慈善事業に聞こえてしまうため、心配になったチューヤがそこを訊ねた。
「あー、それね、うん。パーソン商会はこういう事業もやってますよーっていうイメージ戦略もあるし、孤児たちを勉強させて、将来的に商会に役立つ人材を育成するっていう先行投資みたいな側面もあるっぽいんだ」
「ほ~? さすが、ただでは起きないって感じだな。師匠のセンパイは」
「うん、そだね」
言葉を交わしていたのはチューヤとマリアンヌだが。他の二人も納得したのか頷いている。
「で、オメーはどうなんだよ」
そこでチューヤがカールに話を向けた。その事にカールはやや驚いたようで、見開いたブルーの瞳をチューヤに向ける。何しろ両親を失い、育ての親を失った彼を、カールの両親は支援しようとしてきた。しかし彼は頑として拒み続けてきたのだから、自分の両親などに興味はないと思っていたのだ。
「……父は貴族が亡命するという形を取るようだ。なので数日後、ミナルディ王と会う為に出立なされる。チューヤ。お前にも会いたがっていたぞ」
それを聞いたチューヤはいつもの癖で頭を掻きながらソッポを向き、視線はそのまま逸らしながら答えた。
「……セッティングしてくれ」
「……? お前……?」
思いもよらないチューヤの言葉に、カールも信じられないといった顔だ。
「勘違いすんな。俺は別にオメーの親父さんを恨んでる訳じゃねえ。今回の事じゃ迷惑を掛けちまったからな。詫びの一言でも言っとかねえと、死んだ親父やお袋があの世で怒ってるかもしれねえだろ」
「ふ、そうか」
まるで照れ隠し。誰もがそう思うチューヤの表情を見て、カールが薄い笑みを浮かべた。
「けっ!」
そして不貞腐れるチューヤだった。
「あ! 昨夜のチューヤさんには歯が立たないって思いましたけど、面白そうだとは思いました!」
マリアンヌに誘われたミラが、さもやりたそうにマンセルを見つめる。それを受けたマンセルが肩を竦める。
「仕方ないでしょうな。旦那様方のお役に立つのもお役目の一つでしょう」
そう言って苦笑した。あくまでもこの屋敷の使用人のトップはマンセルなので、ミラも勝手は出来ないのだろう。
「やった! それではマリアンヌ様、今夜はよろしくお願いしますね!」
「うん、こちらこそ!」
小柄で可愛らしい二人のやり取りは、物騒な内容とは裏腹にとても微笑ましい。しかしそんな雰囲気を現実に引き戻したのがカールだった。
「ところで、お前達の家族はどうする事になったのだ?」
「ああ、それなら――」
初めに答えたのはスージィだった。元々彼女の両親はスクーデリアの王都で小さいながらも商店を営んでいた。商売のノウハウも持っているため、暫くはパーソン商会のもとで仕事をするらしい。あくまで暫定という事らしいが。
「暫定っていうのは、目途が立ったら独立してもいいですよって事ね。ほんと、ジルさんには何から何まで良くしてもらって」
そう言って感謝の言葉を述べるスージィ。そしてマリアンヌが続く。
「ボクのお母さんは身寄りのない子供を育てている孤児院で働かせてもらえる事になったよ! ウチの弟や妹もそこで寝泊まり出来るんだって」
マリアンヌの言う孤児院とは、ジルの商会が運営しているものだ。寄付金だよりの他の孤児院とは違い、資金面での心配はないし、最小限ではあるが生活面も問題ないのだという。
「でもそれじゃあジルさんにメリットがねえんじゃねえの?」
聞いた限りではまるっきりの慈善事業に聞こえてしまうため、心配になったチューヤがそこを訊ねた。
「あー、それね、うん。パーソン商会はこういう事業もやってますよーっていうイメージ戦略もあるし、孤児たちを勉強させて、将来的に商会に役立つ人材を育成するっていう先行投資みたいな側面もあるっぽいんだ」
「ほ~? さすが、ただでは起きないって感じだな。師匠のセンパイは」
「うん、そだね」
言葉を交わしていたのはチューヤとマリアンヌだが。他の二人も納得したのか頷いている。
「で、オメーはどうなんだよ」
そこでチューヤがカールに話を向けた。その事にカールはやや驚いたようで、見開いたブルーの瞳をチューヤに向ける。何しろ両親を失い、育ての親を失った彼を、カールの両親は支援しようとしてきた。しかし彼は頑として拒み続けてきたのだから、自分の両親などに興味はないと思っていたのだ。
「……父は貴族が亡命するという形を取るようだ。なので数日後、ミナルディ王と会う為に出立なされる。チューヤ。お前にも会いたがっていたぞ」
それを聞いたチューヤはいつもの癖で頭を掻きながらソッポを向き、視線はそのまま逸らしながら答えた。
「……セッティングしてくれ」
「……? お前……?」
思いもよらないチューヤの言葉に、カールも信じられないといった顔だ。
「勘違いすんな。俺は別にオメーの親父さんを恨んでる訳じゃねえ。今回の事じゃ迷惑を掛けちまったからな。詫びの一言でも言っとかねえと、死んだ親父やお袋があの世で怒ってるかもしれねえだろ」
「ふ、そうか」
まるで照れ隠し。誰もがそう思うチューヤの表情を見て、カールが薄い笑みを浮かべた。
「けっ!」
そして不貞腐れるチューヤだった。
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