アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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三章 ギルド

秘密のクロスボウ

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 スージィの魔法で作った的を、更にカールが強化する。それを三百メートルの距離か木端微塵に破壊したマリアンヌのクロスボウ。その威力に一同は驚きを隠せない。ボルトに纏魔てんまを施したチューヤは確信していたようだが。

「二つほど問題がある」

 試射の衝撃が落ち着いた頃、ジルが指を二本立てて口を開いた。全員の視線が彼女に集中すると、まずはマリアンヌに問いかける。

「今は二発撃った訳だが、体内の魔力消費はどうかな?」
「う~ん……つくもの発動と身体強化。それだけにしては消費が激しい気がするかな?」
「ふむ。連射は出来そうかい?」
「いや、ちょっと厳しいかも。ボルトを撃ち切ったら逃げてもいいなら大丈夫だけど、そう言う訳にはいかないからね!」

 そんなマリアンヌの言葉に頷いて、ジルはクロスボウの秘密について説明を始めた。
 通常弓だろうがクロスボウだろうが、矢は重力の影響を受けるため、遠くの的を狙うには山なりに撃つ必要がある。いくら強力な弓でもだ。しかしこのクロスボウは水平に撃っても三百メートル先の的を撃ち抜いてしまう。

「その秘密はコレさ」

 ジルはクロスボウの台座の底面の一部をカパリと外した。そこにはチューヤの『シンシア』の柄に埋め込まれているのと似たような、石が埋め込まれていた。

「これは発射されるボルトに風の魔法を付与し、より速く、より遠くまで飛ばす為の魔法の石さ。文字通りのね」

 弓弦を引く為のハンドルを回すと、そこから使用者の魔力を石に充填する仕組みになっているようで、ただでさえ身体強化を施さなければ引けないような強力なクロスボウなのに、さらに風魔法の為の魔力を要求される。

「何とも燃費の悪ぃ武器だなおい」

 説明を聞いたチューヤが呆れ顔だ。しかし大量の魔力を必要とする纏魔を使うチューヤの口から出た事で、周囲の視線は冷たい。お前が言うな、である。

「しかし、コンセプトはいいだろう?」

 ジルが言うように、強力な威力、そしてそこから発射されるボルトには魔法のアシスト。これで超長距離からの狙撃を可能とする武器が出来た訳だ。

「だけど、その遠くの的が見える者があまりにも少ない。マリアンヌ君のような魔眼持ちなら可能だろうが、中々レアなスキルだからね」
「ジルさんが言う問題の一つが魔力消費の事なら、使いどころをしっかり見極めて乱発するなって事だよね」

 まさにマリアンヌの為にあるような武器である事は間違いない。しかし、四人の中では魔力量は一番少ないマリアンヌだけに使いどころが難しい。

「うむ。それが分かっているならいいだろう。そしてもう一つは――」

 ジルは指を一本立てて、今度はチューヤを見る。

「普通に使っても変異種相手なら十分すぎる程の威力があるクロスボウだが、魔族を相手にするのは厳しいのかい?」
「ああ。さっきも言ったが、纏魔を施した石礫じゃいくらかダメージを与えるのがやっとだった」
「纏魔状態でもか……」

 チューヤの答えを聞いたジルは、腕組みをしてしばし思案に耽る。

「問題というのはその纏魔だ。ボルトに纏魔を施すと言っても、いつもの戦闘でそれが出来ると思えない。それに纏魔を施したとして、そのボルトは使い捨てだな」
「あー……そうなるな。纏魔状態を維持できるような裏技があればいいんだけどな」

 チューヤが持つ『シンシア』のように、纏魔を前提に魔法石が埋め込まれたものでもない限り、普通は衝撃に耐えきれずに砕け散ってしまう。これが精巧に作られたボルトともなると、そう簡単に大量生産とはいかない。無闇やたらと使い捨てにする訳にいかない事情がある。

「ボルトの量産は金を掛ければ出来ない事はない。しかしそれを作れる職人が限られているのでな。納期は期待できないと思ってくれたまえ」
「そっか、じゃあ俺が出来る事は纏魔させたボルトが、その状態をどれくらい維持できるかの検証くらいか」

 アストレイズの面々は職人には伝手がないのでそこはジルに任せるしかない。そうなるとチューヤの言う通り、出来る事はそれくらいだ。

「ちょっと待って。マリ、それ一本貸してくれる?」

 そこでスージィが声を上げた。マリアンヌからボルトを一本受け取ると、長さや重さ、形状を吟味するかのように、じっくりとそれを見始めた。

「うん。これなら……」

 スージィはそう呟くと、手のひらに黄色い魔法陣を展開した。
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