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三章 ギルド
殲滅再び
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「バカな……お前は本当に人間か」
スクーデリア王国の王都の周囲には四つの衛星都市が存在する。
イオ。ガニメデ。エウロパ。カリスト。王都の四方を守る為に作られた都市で、それぞれ堅固な防御壁と精強な守備隊が守っている。その中の一つ、カリストは突如現れた魔族が率いる変異種の大群によって壊滅し、魔族はそこで破壊と虐殺の限りを尽くした。
当然、王都の喉元を押さえられたスクーデリア王国もすぐさまカリスト奪還のための軍を編成し、カリストへと攻め込んだ。
しかし魔法戦士を主力としたスクーデリア軍は、魔法を無効化する魔族に苦戦する。そこでスクーデリア上層部は最強のカードを切った。
「あン? こんな美人が人間に見えないってのかい?」
緩くウェーブがかかったブロンドの髪。色気のあるやや垂れた目。肩に羽織る白いローブ。手には一振りの長剣が握られている。
そう、彼女こそスクーデリア王国の切り札、シンディである。
「見た目の話をしているのではない!」
既に身体中傷だらけで血塗れの男が激高して飛び掛かろうとする。しかしそれは最初の一歩を踏み出しただけで、あっけなく止められてしまった。
「ふん。頭の悪い男だね。アンタはアタシに近付く事さえ出来やしないのさ。まだ分からないのかい?」
「ぐああああ!」
二人の間には十メートル程も距離があった。しかしシンディは一歩も動く事なくその場で剣を振るった。にもかかわらず、相手の男はどんどん身体を切り刻まれていった。
「どうだい? この連接剣からは逃げられないのさ」
シンディが持つ剣は連接剣と呼ばれる非常に珍しいものだ。剣身が多数の節によって分割され、ワイヤーで繋がれて一つの剣になっている。一たび振るえば節が分かたれて鞭のようになる。つまり鋭い刃の付いた鞭で切り刻んでいるようなものだ。
更に言えば、この連接剣はシンディのために作られたものだ。つまり、この刃は魔力を纏っている。
「はあっ! はあっ! くそっ!」
男は苦し紛れに――というには巨大な火球を放った。
「ふん」
しかしその巨大な火球は、刃を戻した連接剣の一閃でかき消えてしまった。
「く、くそ……バケモノめ」
「アンタみたいな角生やしたヤツに言われたくないね」
再びシンディは連接剣を伸ばし、両手でガードする男を切り刻みながら一歩、また一歩と間合いを詰めていった。
「言いな。アンタみたいな魔族は何人、どこにいる? 目的はなんだい?」
「ふ、ふふ。知れた事。我等の目的は人間の殲滅! そして報復!」
切り刻まれながらも不敵な笑みを浮かべて男は言い放った。
「そして隣国ミナルディでも同志が立ち上がった。今頃は――」
「ああ、その魔族ならアタシの優秀な弟子がブッ倒したよ」
「ばかな!」
魔族の男が信じられないといった表情で膝から崩れる。自分達魔族が人間に敗れるなど信じられない。しかし現に、目の前の女一人に自分は手も足も出ずにいる。しかも仲間をやったのはこの女の弟子だという。
「ふ、ふふ、ふはははは! どうやら簡単にはいかないようだな! しかし我等はただの先遣隊! より強大な力を持った同志がまた来るであろう!」
「む?」
魔族の男が高らかに叫ぶと、身体全体が薄っすらと輝き始めた。シンディは咄嗟に左手を魔族に向けて掲げる。瞬時に黄色い魔法陣が魔族を包む。その数十二。
その魔法陣の輝きが増すと、分厚い土のドームが次々と魔族を閉じ込めていった。いわばこれはシェルターだ。しかしそれを自分を守る為に使わずに、周囲に被害が及ばぬように魔族を完全に包み込んでしまう為に使う。
「く、一矢も報いる事が出来んとはな!」
十二段重ねのドームの中から、漸く聴きとれるほどの大きさの魔族の声が響く。やがて、ズズンという爆発音が地響きとなって足下から伝わってくる。
「まあ、チューヤからの情報がなけりゃ危なかったけどね。弟子達に感謝だよ」
十二段重ねのうち八段目までが魔族の爆発によって破壊されていたの確認したシンディは、情報をくれた弟子達に感謝する。そして戦いが終わった事を確認した上で、このカリスト解放軍の指揮官が近付いていった。
「終わったのか。恐ろしい敵だったな」
「ええ。魔族には魔法使いなんざ雑兵同然です。しっかり報告願いますよ? 指揮官殿」
魔法使いをエリートと考えるスクーデリア王国の在り方に、嫌悪感を隠そうともしないシンディの物言いに指揮官は苦笑するしかない。
「ああ、分かった。それと、変異種の掃討はまだ時間が掛かりそうだ。もう暫くこのカリストに駐屯せねばならん」
「はぁ、そうですか。自分はもう王都に戻りますよ? 教師の仕事がありますんで」
「本気か?」
「ええ。変異種の討伐なんて、軍の仕事の内でしょう」
暗に変異種を片付けるまでは一緒に戦えという指揮官の話だが、シンディは彼に目も合わせずに空を見ながら対応していた。確かにシンディは対魔族の切り札として投入されたが、守るべき存在が何もない、もぬけの殻状態のカリストの街で変異種討伐を手伝うような義理はない。
そしてあの『殲滅』がこうまで言うからには、彼女を翻意させるのは難しい事を悟る指揮官。しかしその指揮官に、思わぬ幸運――いや、不幸が空から舞い降りてきた。
シンディが見上げていた空から、一羽の鳥が舞い降りてきた。それはシンディが差し出した腕に泊まる。足には手紙が括りつけられていた。
「ふむ……指揮官殿。どうやら帰還するのはもう暫く先になりそうですね。街の復興は後回しです」
シンディはそう言いながら手紙を指揮官に手渡した。
「魔獣……だと?」
指揮官の表情が無くなった。その手紙はジルがシンディに向けて認めたものだった。
スクーデリア王国の王都の周囲には四つの衛星都市が存在する。
イオ。ガニメデ。エウロパ。カリスト。王都の四方を守る為に作られた都市で、それぞれ堅固な防御壁と精強な守備隊が守っている。その中の一つ、カリストは突如現れた魔族が率いる変異種の大群によって壊滅し、魔族はそこで破壊と虐殺の限りを尽くした。
当然、王都の喉元を押さえられたスクーデリア王国もすぐさまカリスト奪還のための軍を編成し、カリストへと攻め込んだ。
しかし魔法戦士を主力としたスクーデリア軍は、魔法を無効化する魔族に苦戦する。そこでスクーデリア上層部は最強のカードを切った。
「あン? こんな美人が人間に見えないってのかい?」
緩くウェーブがかかったブロンドの髪。色気のあるやや垂れた目。肩に羽織る白いローブ。手には一振りの長剣が握られている。
そう、彼女こそスクーデリア王国の切り札、シンディである。
「見た目の話をしているのではない!」
既に身体中傷だらけで血塗れの男が激高して飛び掛かろうとする。しかしそれは最初の一歩を踏み出しただけで、あっけなく止められてしまった。
「ふん。頭の悪い男だね。アンタはアタシに近付く事さえ出来やしないのさ。まだ分からないのかい?」
「ぐああああ!」
二人の間には十メートル程も距離があった。しかしシンディは一歩も動く事なくその場で剣を振るった。にもかかわらず、相手の男はどんどん身体を切り刻まれていった。
「どうだい? この連接剣からは逃げられないのさ」
シンディが持つ剣は連接剣と呼ばれる非常に珍しいものだ。剣身が多数の節によって分割され、ワイヤーで繋がれて一つの剣になっている。一たび振るえば節が分かたれて鞭のようになる。つまり鋭い刃の付いた鞭で切り刻んでいるようなものだ。
更に言えば、この連接剣はシンディのために作られたものだ。つまり、この刃は魔力を纏っている。
「はあっ! はあっ! くそっ!」
男は苦し紛れに――というには巨大な火球を放った。
「ふん」
しかしその巨大な火球は、刃を戻した連接剣の一閃でかき消えてしまった。
「く、くそ……バケモノめ」
「アンタみたいな角生やしたヤツに言われたくないね」
再びシンディは連接剣を伸ばし、両手でガードする男を切り刻みながら一歩、また一歩と間合いを詰めていった。
「言いな。アンタみたいな魔族は何人、どこにいる? 目的はなんだい?」
「ふ、ふふ。知れた事。我等の目的は人間の殲滅! そして報復!」
切り刻まれながらも不敵な笑みを浮かべて男は言い放った。
「そして隣国ミナルディでも同志が立ち上がった。今頃は――」
「ああ、その魔族ならアタシの優秀な弟子がブッ倒したよ」
「ばかな!」
魔族の男が信じられないといった表情で膝から崩れる。自分達魔族が人間に敗れるなど信じられない。しかし現に、目の前の女一人に自分は手も足も出ずにいる。しかも仲間をやったのはこの女の弟子だという。
「ふ、ふふ、ふはははは! どうやら簡単にはいかないようだな! しかし我等はただの先遣隊! より強大な力を持った同志がまた来るであろう!」
「む?」
魔族の男が高らかに叫ぶと、身体全体が薄っすらと輝き始めた。シンディは咄嗟に左手を魔族に向けて掲げる。瞬時に黄色い魔法陣が魔族を包む。その数十二。
その魔法陣の輝きが増すと、分厚い土のドームが次々と魔族を閉じ込めていった。いわばこれはシェルターだ。しかしそれを自分を守る為に使わずに、周囲に被害が及ばぬように魔族を完全に包み込んでしまう為に使う。
「く、一矢も報いる事が出来んとはな!」
十二段重ねのドームの中から、漸く聴きとれるほどの大きさの魔族の声が響く。やがて、ズズンという爆発音が地響きとなって足下から伝わってくる。
「まあ、チューヤからの情報がなけりゃ危なかったけどね。弟子達に感謝だよ」
十二段重ねのうち八段目までが魔族の爆発によって破壊されていたの確認したシンディは、情報をくれた弟子達に感謝する。そして戦いが終わった事を確認した上で、このカリスト解放軍の指揮官が近付いていった。
「終わったのか。恐ろしい敵だったな」
「ええ。魔族には魔法使いなんざ雑兵同然です。しっかり報告願いますよ? 指揮官殿」
魔法使いをエリートと考えるスクーデリア王国の在り方に、嫌悪感を隠そうともしないシンディの物言いに指揮官は苦笑するしかない。
「ああ、分かった。それと、変異種の掃討はまだ時間が掛かりそうだ。もう暫くこのカリストに駐屯せねばならん」
「はぁ、そうですか。自分はもう王都に戻りますよ? 教師の仕事がありますんで」
「本気か?」
「ええ。変異種の討伐なんて、軍の仕事の内でしょう」
暗に変異種を片付けるまでは一緒に戦えという指揮官の話だが、シンディは彼に目も合わせずに空を見ながら対応していた。確かにシンディは対魔族の切り札として投入されたが、守るべき存在が何もない、もぬけの殻状態のカリストの街で変異種討伐を手伝うような義理はない。
そしてあの『殲滅』がこうまで言うからには、彼女を翻意させるのは難しい事を悟る指揮官。しかしその指揮官に、思わぬ幸運――いや、不幸が空から舞い降りてきた。
シンディが見上げていた空から、一羽の鳥が舞い降りてきた。それはシンディが差し出した腕に泊まる。足には手紙が括りつけられていた。
「ふむ……指揮官殿。どうやら帰還するのはもう暫く先になりそうですね。街の復興は後回しです」
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