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夫が私に望んだのは、死という永遠の別れでした──。
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夫と結婚し三年になるが、彼との仲はすっかり冷え切って居た。
そんな夫が、珍しく私の誕生日を祝ってくれると言う。
「峠を越えた先にある店が美味い料理を出すんだ。そこでディナーでもどうかと思ってな。」
彼に食事を誘われるなどもう久しくなかったから、私は驚きつつもこれは夫婦仲が修復される兆しかと思った。
だが、それはすぐに怒りの感情へと変わった。
と言うのも…夫とこの家のメイドが馬車の中で密会し、ある話をして居るのを聞いてしまったからだ─。
「明日の誕生日があいつの命日だ。この馬車には細工をしておいたから、峠の舗装されて居ない道を行けば車輪が外れそのまま谷底に真っ逆さま─。」
「奥様は良いとして、御者も死んでしまうのでは?」
「構わないさ、どうせ手綱を握る事になるのはあいつが実家から連れて来た使用人だ。幼馴染だか何だか知らんが、あの態度の悪い男は前から気に入らなかったし二人まとめて消えて貰う。」
「あなたはどうなさるの?」
「俺は用があると嘘を付き、あいつの後から行く事にする。追いつく事には、あいつらは谷底で死んで居るだろうな。だから君は俺と共に馬車に乗ればいい。それで二人で楽しいディナーと行こうじゃないか。」
「まぁ、楽しみ!」
思えばこの二人はやけに距離が近かったが…どうやら愛人関係にあった様だ。
しかし、何と恐ろしい企みを思いつくのか─。
二人の会話に、私は驚きと恐怖でその場に崩れ落ちそうになった。
しかし、そんな私を支えてくれる者が─。
それは先程二人の話に出て来た私の従者で、幼馴染でもある彼だった。
「あの人、私の死を望んで居るわ!私と離縁するのではなく、私を殺す事で私と永遠の別れをと考えて居るのよ!?」
「…落ち着いて。大丈夫、俺が君を死なせはしない。」
そう言って、彼は涙する私を慰めてくれるのだった─。
そして次の日、私は誕生日を迎えた。
すると夫は、昨日話して居た通り用があるから私に先に店に行けと言う。
「…分かったわ。じゃあ、気を付けて来てね─。」
「お前もな。」
そう言って、夫は笑顔で私に手を振った。
そして私は、幼馴染が御者となった馬車に揺られ峠に差し掛かった。
峠の道は数日前の大雨で酷く荒れ居て…車輪が外れたら、確かに大事故に繋がる様な状態だった。
しかし馬車は無事に峠を越え、店に辿り付く事が出来た。
そして、後は夫が来るのを待つのみとなったが…彼はいつまで経ってもやって来なかった。
すると、ここに来る途中の馬車が谷底に落ちた…乗って居た男女二人は命を落としたようだと店に来た客が騒いで居る。
そしてそれはどうやら、私の夫とメイドの様だった。
「何故あの二人が!?」
すると、傍で控えて居た幼馴染がこう言った。
「昔、俺が馬車の車輪を直した事があるのを覚えて居ますか?あなたを虐めて居た令嬢が、あなたを迎えに来た馬車の車輪に細工をし…それに気づいた俺がその場で処置をしました。そして俺は、その際その令嬢にどうやって細工を施したか追及した事を─。」
「えぇ、確かにそう言う事があったわね。…まさかあなた─!」
「今回も、同じ様なやり方で車輪を直しておきました。反対に…彼が乗るつもりだったもう一台の馬車には、その令嬢がしたのと同じような細工を─。」
それを聞いた私は、思わず絶句してしまった。
彼は私を守る為なら何だってしてくれたが、そこまでの事を─?
「全ては愛するあなたを守る為です。ですが…あなたは、そんな俺が恐ろしいですか?ならば、どうぞ憲兵に─」
「い、嫌よ!それは…それはしたくない。だってそうしたらあなたとお別れする事に─。あなたの一族はずっと私の一族に仕えてくれて、あなたも私が死ぬまで傍に居ると誓ってくれたじゃない!家同士の約束であの人と無理やり結婚させられる事になり、泣く私にそう約束してくれたでしょう!だから…そんなあなたを今度は私が守るわ─。」
元々、彼も私もあの二人に殺される所だった。
でも不幸中の幸いか、この事は私と彼以外知らないのだ。
「皆が騒いで居る通り…これは道がぬかるんだ事による事故よ。あの二人は不幸な事故で死んだのです。そう言う事です。」
私がそう言い切れば彼は一瞬目を見開いたが…あなたの言葉が自分にとっての真実だと言い、それ以上は何も言わなかった。
その後…私はディナーを食べる事無く、夫の葬儀について親族と話をする為に家へと戻った。
その際、もう馬車も遺体も回収された峠道を通ったが…そこは真っ暗で崖の下は何も見えなかった。
真実は、この闇の中に永遠に隠されたままでいい…。
あの人が、私の死という永遠の別れなどと恐ろしい事を望んだ様に…私もこの秘密が、永遠に私と彼の心の中に留められる事を静かに望むのだった─。
そんな夫が、珍しく私の誕生日を祝ってくれると言う。
「峠を越えた先にある店が美味い料理を出すんだ。そこでディナーでもどうかと思ってな。」
彼に食事を誘われるなどもう久しくなかったから、私は驚きつつもこれは夫婦仲が修復される兆しかと思った。
だが、それはすぐに怒りの感情へと変わった。
と言うのも…夫とこの家のメイドが馬車の中で密会し、ある話をして居るのを聞いてしまったからだ─。
「明日の誕生日があいつの命日だ。この馬車には細工をしておいたから、峠の舗装されて居ない道を行けば車輪が外れそのまま谷底に真っ逆さま─。」
「奥様は良いとして、御者も死んでしまうのでは?」
「構わないさ、どうせ手綱を握る事になるのはあいつが実家から連れて来た使用人だ。幼馴染だか何だか知らんが、あの態度の悪い男は前から気に入らなかったし二人まとめて消えて貰う。」
「あなたはどうなさるの?」
「俺は用があると嘘を付き、あいつの後から行く事にする。追いつく事には、あいつらは谷底で死んで居るだろうな。だから君は俺と共に馬車に乗ればいい。それで二人で楽しいディナーと行こうじゃないか。」
「まぁ、楽しみ!」
思えばこの二人はやけに距離が近かったが…どうやら愛人関係にあった様だ。
しかし、何と恐ろしい企みを思いつくのか─。
二人の会話に、私は驚きと恐怖でその場に崩れ落ちそうになった。
しかし、そんな私を支えてくれる者が─。
それは先程二人の話に出て来た私の従者で、幼馴染でもある彼だった。
「あの人、私の死を望んで居るわ!私と離縁するのではなく、私を殺す事で私と永遠の別れをと考えて居るのよ!?」
「…落ち着いて。大丈夫、俺が君を死なせはしない。」
そう言って、彼は涙する私を慰めてくれるのだった─。
そして次の日、私は誕生日を迎えた。
すると夫は、昨日話して居た通り用があるから私に先に店に行けと言う。
「…分かったわ。じゃあ、気を付けて来てね─。」
「お前もな。」
そう言って、夫は笑顔で私に手を振った。
そして私は、幼馴染が御者となった馬車に揺られ峠に差し掛かった。
峠の道は数日前の大雨で酷く荒れ居て…車輪が外れたら、確かに大事故に繋がる様な状態だった。
しかし馬車は無事に峠を越え、店に辿り付く事が出来た。
そして、後は夫が来るのを待つのみとなったが…彼はいつまで経ってもやって来なかった。
すると、ここに来る途中の馬車が谷底に落ちた…乗って居た男女二人は命を落としたようだと店に来た客が騒いで居る。
そしてそれはどうやら、私の夫とメイドの様だった。
「何故あの二人が!?」
すると、傍で控えて居た幼馴染がこう言った。
「昔、俺が馬車の車輪を直した事があるのを覚えて居ますか?あなたを虐めて居た令嬢が、あなたを迎えに来た馬車の車輪に細工をし…それに気づいた俺がその場で処置をしました。そして俺は、その際その令嬢にどうやって細工を施したか追及した事を─。」
「えぇ、確かにそう言う事があったわね。…まさかあなた─!」
「今回も、同じ様なやり方で車輪を直しておきました。反対に…彼が乗るつもりだったもう一台の馬車には、その令嬢がしたのと同じような細工を─。」
それを聞いた私は、思わず絶句してしまった。
彼は私を守る為なら何だってしてくれたが、そこまでの事を─?
「全ては愛するあなたを守る為です。ですが…あなたは、そんな俺が恐ろしいですか?ならば、どうぞ憲兵に─」
「い、嫌よ!それは…それはしたくない。だってそうしたらあなたとお別れする事に─。あなたの一族はずっと私の一族に仕えてくれて、あなたも私が死ぬまで傍に居ると誓ってくれたじゃない!家同士の約束であの人と無理やり結婚させられる事になり、泣く私にそう約束してくれたでしょう!だから…そんなあなたを今度は私が守るわ─。」
元々、彼も私もあの二人に殺される所だった。
でも不幸中の幸いか、この事は私と彼以外知らないのだ。
「皆が騒いで居る通り…これは道がぬかるんだ事による事故よ。あの二人は不幸な事故で死んだのです。そう言う事です。」
私がそう言い切れば彼は一瞬目を見開いたが…あなたの言葉が自分にとっての真実だと言い、それ以上は何も言わなかった。
その後…私はディナーを食べる事無く、夫の葬儀について親族と話をする為に家へと戻った。
その際、もう馬車も遺体も回収された峠道を通ったが…そこは真っ暗で崖の下は何も見えなかった。
真実は、この闇の中に永遠に隠されたままでいい…。
あの人が、私の死という永遠の別れなどと恐ろしい事を望んだ様に…私もこの秘密が、永遠に私と彼の心の中に留められる事を静かに望むのだった─。
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