異世界召喚されたらハズレだと舌打ちされて捨てられました。死にたくないから全力で生きる!

中洲める

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17話 ちゃんと習おう

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 集まってきた騎士さんたちをナイアさんが散らして、ようやく一息ついた。
「一旦、勇者の力はしまっておいてください」
「すみません。使うつもりはなかったんです……」
 チートさん、ほんと空気読まない。
「まずは普通の戦い方を覚えてください」
「はい……」

 ナイアさんを相手に剣の振り方を教えてもらう。
 バスケ部で多少の運動はしていたけれど、剣なんて初めて。
 なのにチートさんはしっかりと仕事をしてくれる。

「なんてことだ、才能なんて言葉では言い表せません……」
「なんか、申し訳ない」

 ほんの三十分ほど基礎を教えてもらっただけで俺の体はあっさりとそれを物にした。

「……ふむ、もう実戦でもいいかもしれません」
 ナイアさんは態度こそ平然としていたけれど、その目の奥が驚きに揺れている気がする。
 けれどそれを気にするより、俺がナイアさんの言葉にびっくりしてしまう。
「え!? 早くない?」
「実戦のほうが、あなたの成長を見るには早いと思いまして。ルーデン!」
「はい!」
 俺が何かを言い返す前に、ナイアさんが顔をあげて周辺を見回し、ルーデンさんを呼ぶ。

「タクマと打ち合い、してみませんか?」
「喜んで!」
「え、ルーデンさん超強いじゃん。無理!」
 魔の森で先陣を切り魔獣を一番多く倒していた腕利きの剣士。
 純粋な剣技だけなら自分より上だってナイアさんだって認めてたじゃん!?

「さぁ、タクマ。やろう!」
「なんでそんなにやる気に満ちてるの!? 俺、素人!」
「またまた、ご冗談を。さっきのを見ててそんな風に思えるわけないよ」
 そうしてやる気満々で剣を構える。
 ナイアさんを見れば、どうぞというように少し下がって俺を見ていた。

「怪我したら、こっそり治せばいいか……」
 引けない雰囲気に、俺は剣を構えルーデンさんの前に立つ。

 持っているのは練習用の木剣のはずなのに、空気が研ぎ澄まされていく。

 どちらともなく踏み出した。
 風が頬をかすめる。呼吸が重なる。
 体が動き出すと、時間が伸びたように感じた。

 ルーデンさんが剣を振る動作がはっきりと見える。
 どの軌跡で刃先が流れ、どう避けばいいか分かった。
 振り下ろされた剣を弾き、出来た隙に打ち込む。

 ルーデンさんは俺の剣を避け、死角へステップして剣を振り下ろす。

 そうして何度も剣を合わせる。

 木剣が打ち合う音が訓練場に響く。

 なんだこれ、すごく楽しい。
 思い通りに体が反応して、握った剣が自分の手のように自在に動く。
 気持ちいい……!

 俺は知らずに笑っていて、ルーデンさんも笑っていた。

 楽しくて、楽しくて、ずっと剣を振って……。

「そこまで!」
 木剣を振り下ろそうとしたその時。
 ナイアさんの声が聞こえて反射的に手を止める。
 それはルーデンさんも同じで、俺たちの剣は打ち合う寸前で停止していた。
「今日はここまでにしましょう」
 柔らかい声色に、俺は大きく息を吐き出す。
 張り詰めていた空気がほどけて、呼吸をするたび肺の奥まで冷たい空気が流れ込み体が冷やされていく。
 思っていた以上に疲労していたのか、どっと倦怠感が体を包んだ。

 汗が噴き出してくるのを感じる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ははははは! タクマ、お前すごいな! ……こういうの、刺激になる。すごく楽しかった」
 快活に笑うルーデンさん。
 優しい人なのは知っていたけど、戦闘狂でもあるんだなぁ。
 そんなギャップもこの人の魅力なんだ。
 流れ出た汗を袖で拭ったルーデンさんは、剣を下ろし、掌を服で拭った後俺に差し出した。
 それを握り返して握手をする。

 握った掌は硬く、ナイアさんと同じように努力をした格好良い手だった。
 俺も、こんな手になりたい。
 チートだけじゃなくて、俺自身の力で強くなりたい。
 ナイアさんや、ルーデンさんみたいになりたい。

「またやろう!」
「はい!」

 俺の声に訓練場のあちこちから「俺もやりたい!」「今度は私とも鍛錬してください」などと声がかかる。

「じゃあ……」
「タクマ、今日はもう日が落ちます。初日ですからこのくらいにしましょう」
 もっとやりたいって思ったけどナイアさんに止められてしまった。
 言われてずいぶん暗くなっていることに気づいた。

「あれ、もう夕方?」
「二時間ほど、打ち合っていましたよ」
「え、そんなに!? ……時間の感覚、全然なかった」
 あんなに動き続けたのに、打ち合いをしている最中は疲労を感じることもなかった。
 今凄く疲れてるけど……。
 喉が渇いたなんて思ってたら、ナイアさんが水筒を渡してくれたのでそれに口をつける。
 冷たい水が体に染みて心地よい。
「初めてであのルーデンと互角に打ち合うなんて。勇者とは恐ろしい物ですね」
「俺もそう思う……」
 チートがなかったら俺なんて一回も打ち合えなかったと思うし。

「今後は好きな時に来て自由に鍛錬してください。ただし、勇者の力を使った訓練がしたい時は私を伴ってください」
「うん!」
 剣を返し、練習場を後にする。

 後ろからはたくさんの騎士さんたちの好意的な視線が向けられて、またなと声がかかる。

 俺は一度立ち止まり振り向いた。

「またよろしくお願いします!」

 大きな声で頭を下げた。

 すると一層大きな声が返ってくる。

「騎士さんたち、いい人ばっかりだなぁ。俺、グラフィカに来られてよかった」
 自然と笑顔になってしまう。
 感謝を込めてナイアさんを見上げたら、なぜか渋い顔をしていた。

「本当に、異世界の方は人たらしばかりなのですかね」
 皮肉っぽく言いながらも、その声の奥に微かな笑みが滲んでいた。

「俺は違うと思うよ?」
「それこそ『無自覚チート』というやつですよ」
「え、褒めてる?」
「さて、どうでしょう」
 目元だけが、ほんの少し笑っていた。

 たぶん、褒めてない。

 分かってるけど、ナイアさんの目は優しかった。
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