異世界召喚されたらハズレだと舌打ちされて捨てられました。死にたくないから全力で生きる!

中洲める

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番外編

55話 結婚式の招待状8(マーク視点)

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 さらに翌日、屋敷は結婚式の準備で慌ただしいが、俺たちにやることはない。
 式典用の騎士服は使用人に預けてあるから、きちんと管理して当日に出してくれるだろうし。
 クインの式典用の錬金ローブも仕立てて、一緒に管理してもらっている。
 できることといえば、明日の結婚式に備えて待機することくらい。

 クインとスレイは今日もアッシュ様とエリオット様に会いに行っていて、手が空いた俺たちは久しぶりに訓練場へ顔を出した。

「おお、マーク、ロミ! 久しぶり!」
 すぐに気づいたルーデンが駆け寄って来る。
「ルーデン久しぶり」
 俺たちの声を聞いて、同じ討伐隊だった騎士たちが集まってきた。
 どの顔も見たこともないほど明るくて、長年の脅威が解き放たれる瞬間を共に経験したこいつらなら、こんな笑顔にもなるだろう。

 やってきた騎士は俺たちを囲み、かつてのように肩を組んでくる。

「恋人と上手くやってるか?」
「別れたら教えろよ?」
「祝ってやるから」
「縁起でもねぇことを言うな!」
 冗談でも言ったらダメなことがあるだろうと、祝うと言った騎士の腹を軽く殴る。
 大げさに痛いと呻くそいつの姿に笑いが溢れた。

「クロイツはどうよ?」
「いいとこだよ。人は温かいし、俺たちにすごくよくしてくれる」
「いいなー」
「仕事ある?」
 聞かれて俺とマークは顔を見合わせた。

 今は俺たちが自主的に巡回なんかをして、治安維持を買って出ている。
 それで給金も貰っているけれど、それが正式な仕事かと言われると微妙だ。


「グラフィカも平和になって、仕事も減ったもんな」
「まぁ、俺たちが暇なのはいいことなんだがな」
「それはそうだよな」

 魔の森がなくなり、魔獣がいなくなったということは、嬉しいことだが仕事が減ったのは事実。
 現状グラフィカでは優秀な騎士が暇を持て余している状況だ。
 喜ばしいことではあるが、これはこれで困った事態でもある。

「どこか必要としてくれる土地があればいいんだが」
 明るい表情のなかほんの少し不安そうな色を乗せて、ルーデンが相談ともつかない愚痴を吐く。
「出来ればしっかりした領主様がいるとこにお仕えしたいな」
「それはある」
「俺はこのままグラフィカにいたいが、移動を考えてる奴もいるもんな」
 ろくでもない貴族が統治している領地で使いつぶされるなどごめんだと、誰かが言えば全員が頷く。
「どこがいいかな」
「やっぱクロイツじゃね?」
 冗談めかしてランドが言う。
「ばか、あそこには騎士団ないだろ」
 ルーデンがすかさず突っ込んだ。
 
「!?」

 けれど、俺はランドの言葉にその呟きに天啓を得たような気持ちになった。

「そうか、これならクロイツに、騎士団作れるんじゃね?」
「は? お前何言ってんの?」
 ロミは、「訓練生もいない土地で一から騎士を育てることがどれほど大変か、分かっているのか」と顔を歪めた。
「いや、だから、希望者連れてクロイツで騎士団作ればいいんじゃないのか?」
「!? その手があったか」
 俺の言葉にロミも目を見開く。
 現実的じゃないからと諦めていたことが、できるかもしれない。
 それにクロイツとグラフィカは提携関係にある。
 グラフィカの騎士団員をクロイツへ移籍させるのは、閣下の許可さえあれば問題ない。

 これが叶えば、すぐに動ける騎士団の基盤が作れる。

「俺、ちょっと閣下に相談してくる。ロミ、お前は希望者がいれば名簿作っといてくれ」
「わかった!」
 ロミの返事を背中で聞きながら、俺は走り出した。

 こんなにも胸が高鳴るのは久しぶりだ。

 アッシュ様にご恩返しができるかもしれない。

 そんな希望を胸に、閣下への面会を申し出た。

 すぐに執務室へ通してもらい、閣下とナイア様、それからアッシュ様へ話をした。


 クロイツに新たな騎士団を――その提案に、アッシュ様は少し驚いたように目を瞬いた。
 そして穏やかに笑い、静かに語り始められた。

 アッシュ様のご両親である前クロイツ男爵夫夫は、護衛もつけず、自らの手で馬車を操って各地を巡っていたという。
 実に行動的で、他の貴族では考えられない身軽さだった。

 形式を重んじる貴族社会では眉をひそめられることもあったが、彼らにとって何より大切なのは救いを求める人々のもとへ一刻も早く駆けつけることだった。

 その姿勢が民の心を掴んだ。

 クロイツの家紋が入った箱付きの馬車の姿を見かければ幸運が訪れる――そう噂されるほど、クロイツ男爵家は庶民に慕われていた。

 盗賊でさえ「箱付きの馬車」だけは襲わなかったという。
 手を出せば、民たちの怒りを買うと恐れたからだ。そんな話を、行商人たちはよく笑い話にしていた。

 やがてクロイツ家の馬車は「箱付きの銀馬車」という愛称で呼ばれるようになる。
 それは、家の紋章に刻まれた銀色の花びらを持つ薬花にちなむ名だった。

 その名が語る通り、彼らの旅路はいつも癒しと希望の象徴であり続けた。



 けれど、アッシュ様のご両親は盗賊に襲われ殺されてしまった。

「油断していたといえば、そうなんだけど。何代もずっとそうやって問題なくやってきたから、うちでは当然だったんだよね」
 アッシュ様は少し悔しそうに視線を伏せ、運が悪かったと呟く。
 閣下がそっとアッシュ様を抱き寄せた。

 二人の姿を見て、改めて思った。

 あの時――アッシュ様がいなければ、俺たちは今ここに立っていられなかった。
 だからこそ、俺は誓いたい。

「俺は、あなたたち――民の命を救う錬金術師を守りたいです。そのための力が欲しい」
 もしかしたら、いずれまたこんなことが起きてしまうかもしれない。

 国の生命線を担う錬金術師たちを守る騎士団。
 それを、俺たちの手で……。

 アッシュ様がそっと微笑み、「僕からもお願いするよ」と閣下を見上げる。
 閣下は少し驚いたように笑い、静かに頷いた。

 許可を得たと理解したアッシュ様は俺を真っすぐ見つめる。
「マーク、君の決断を嬉しく思うよ。ありがとう」
「いいえ。これから俺たちは、『クロイツ子爵家当主』にのみ仕える騎士になりたいです」
「うん、許可します。よろしくね」
「俺からは、クロイツへの移住希望者がいれば許可し、支援しよう」
 閣下の言葉に、俺は深く頭を下げた。
「はい、ありがとうございます」

 こうして、クロイツ騎士団は正式な許可を得て設立が決定した。
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