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ヒトリの笑顔
しおりを挟む「ぅぅああ……」
星が輝く夜空の下、ヒトリの小さな女の子が泣きながら歩く。
「お母さん……」
少女の周りには真っ赤な炎。
「お母さん……」
そして、動かずに横たわる村民。
「ああぁぁ……」
いつの間にか出なくなった涙を気にすることなく、少女は歩き続ける。
生き残ってしまったことを後悔する。
何故、生きているのか。
何故、誰も生きていないのか。
今からどこに行けばいい。
母も父もいないこの世界で。
愛のない世界で、どう生きろというのか。
すると、前から気配を感じ、少女は歩みを止める。
敵の軍人か。
それでもいい。
いっそのこと楽にしてくれ。
途方もなく歩き続ける力は既に果てている。
少女は逃げることもなく、立ち止まったまま前を見つめた。腫れた目で、ずっと。
炎から見えてきたのは軍靴。
たったヒトリの軍人。
味方の、軍人。
「……お前、一人か」
若い男もまた、生きる気力を無くした目をしていた。
「みんな、死んだよ……」
きっとこの軍人も私と一緒。
どうして自分だけ生き残ってしまったのか、悔やんでる人。
この軍人を見れば分かる。
傷ついた肌から血を流し、破れた軍服。武器も持たずにただヒトリで歩いているなんておかしい。
この国は負ける。
もう、無理だ。
少女は崩れるように座り込んだ。
歩き疲れた。
炎に焼かれて楽になろう。
「……し…………ぃ……」
しばらく水を飲んでいない、乾ききった唇は動く。近くで聞かないとなにを言っているか分からない声で。
軍人は少女の襟元を掴み、引きずり、再び歩き出した。
少女はなにが起きたのか理解できず、目をぱちくりと瞬きを繰り返す。そして慌てるように後ろを振り返ろうとするが、体に力が入らず手足をジタバタとしただけで終わった。
「軍人、さん」
「…………」
己の事だと分かっているだろうに、軍人はなんの反応も見せない。ひたすら少女を引きずったまま歩いている。
「軍人さん……軍人さん!」
出せるだけの声を出した。
すると、ようやく軍人の足が止まる。
「なんだ」
襟元を掴む手は離さないようだ。
死んでいるような目は少女を見下ろす。
「どこ行くの?」
「…………」
「もう生きていたくないの」
「…………」
「だから、ここに置いてから行ってよ。ここは私が育った村なの。死ぬならここで死にたいの!」
顔をクシャクシャに歪ませ、両手で覆った。それでも大きな双眸からは涙は出ない。
「だからどうした」
軍人は苛立ちを隠せない。死んだような目に映る炎が怒りの炎のようにゆらりと揺れる。
そして、再び前へ歩き出した。
「そんなに死にたいんなら、何故俺と出会う前に死んでないんだ」
屍を気にせずに軍人は歩く為、文字通りに屍を越える。少女は引きずられながら、何人もの屍を背中で感じた。
「今生きているということは、お前にはまだ生への執着がある」
少女の心に突き刺さる言葉。
顔を覆う手に力が篭る。
「勝手に決めないでよ!」
今さっき会ったばかりの貴方になにが分かるの、と。
すると、ふわっと体が浮く感覚を全身で感じる。いや、本当に浮いているのだ。
軍人は軽々と少女を持ち上げ、そして草むらに投げつけた。そこは火の手が届いていない安全な場所。
少女は慌てて周りを見渡すと、まだ炎に包まれていない場所がちらほらあった。村の端まだ来たようだ。しかし軍人の背後には炎がチラチラと見える。
「なら、今ここで生か死か選べ」
静かに少女を見下ろす。
少女は黙ったまま俯いた。
遠くから燃える音がする。全てを燃やす音が。あんなに近くに聞こえていたのに。
そして少女は立ち上がり、軍人の横を通り走り出した。炎に向かって、今出せる速さで近づいていく。
軍人は最後まで静かに見守った。
「ぁぁああああああああ!!!」
少女は叫んだ。
パチパチと燃える音が少しずつ大きく聞こえてくる。煙の臭いも少しずつ強くなる。
戻ってくる、息苦しさ。
体が重い。
そして走る為に動かしていたのにゆっくりと歩くようになり、いつしか足は止まっていた。
分かっていた。
火が届かない安全な場所にいたから、体は死を身近に感じなくなり、生きたいと希望を持つようになっていたことを。
まだ火から離れているのに、熱い。目の前には死があることを全身で感じる。
「怖い……」
少女は呟いた。
「死にたくない……」
焼かれたくない。
炎が怖い。
恐怖から声が震える。
涙が、一筋だけ流れた。
「死にたくないよおおおお!!」
クルッと身を翻し、少女は軍人に向かって走り出す。
泣き喚きながら、少女は軍人の元に辿り着くと、思い切りしがみ付いた。力のある限り、軍人に抱きつく。
軍人は抱きしめ返すことはせず、静かに頭の上に手を乗せた。
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