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【19話】
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……まぁ、テンプレよね。
騒ぎも国王陛下のお言葉で一段落ついたし、フォッグ伯爵夫妻も諦めてくれたように見えたから油断した。
踊る前に1人で大丈夫だからとグレイもシルバーも置いてきた私の落ち度よね。
でも、言っていい?
「女性用ラバトリーの前に居るなんてとんだ変態だわ」
あら、声に出ちゃったわ。
ラバトリーとはトイレの事。
そう、今私はトイレから出てきたところで、カクタス様に呼び止められたのだ。
私の呟きが聞こえたハズなのに、聞こえなかった振りを決め込んだらしいカクタス様は、何気ない様子で声をかけてきた。
「久し振りだな。ミモザ」
カクタス様は会えて嬉しいといった笑顔で話しかけてくる。
「失礼ですが、婚約者以外の方に名前を呼び捨てで呼ばれたくないのでやめて頂けますか?」
それと、怖いからそれ以上近づかないで。
私達の距離は、腕を伸ばしても触れない程の距離しか開いていない。
「…それは申し訳ない。久し振りに会えたから、つい気が緩んでしまったようだ」
確かに久し振りだけど、あの日、貴方は私の名前すら呼んではくれなかったわ。
「とても綺麗になったな」
熱を帯びているような目が気持ち悪い。
貴族令嬢にあるまじき行為だけど、走って逃げちゃ駄目かしら?
「あの時は…その、お前が眩しくて…いや、今でも光輝くように美人だ!」
私を誉めて、何を企んでいるの?
ああ、フォッグ伯爵夫人にタラシ込めば何とかなるとでも言われたのかしら?
「その…あの時は俺も子供だったから酷い言葉を言ってしまったが…」
グレイのおかげで少しだけ勇気が持てた私が“逃げていてもしょうがないから向き合わなければ”と思った矢先。
「何と言うか、なぜ池に飛び込んだんだ?まるで俺が突き落としたみたいじゃないか。その後だって嫌味のように引き籠ったりなんかして、俺の心証は悪くなる一方だったんだぞ」
は?
「言いたくはないが、子供の戯言に“私は傷ついています”と言わんばかりに引き籠るなんてやりすぎだろう?」
決定的だった…。
そんな風に言われるとは思わなかった。
言い訳ばかりで謝罪も無し?
上から目線でお前呼ばわり?
私はあなたに突き飛ばされたから池に落ちたんです!
こんな自己中男だったなんて!
いい加減腹が立ってきた!
きっと、今が反撃の時だわ!
「失礼ですが、どちら様でしょうか?お久し振りと申されても、わたくしには貴方様に全く見覚えがありませんの。どなたかとお間違えではなくて?」
私がそう言うと、カクタス様は驚いたように目を見開いてばつが悪そうに名乗った。
「…カクタスだ。カクタス・フォッグ。8年前に、婚約者として顔合わせをしただろう?」
いいえ。
婚約者候補としてよ?
事実をねじ曲げないで。
「婚約者として?そんな事実はありませんわ」
「覚えていないのか?手を繋いで庭を散策しただろう?」
「わたくしは確かに8年前に同い年の異性とお会いしました。ですが…」
「それだ!それ「“お前みたいなブスと結婚なんて絶対にごめんだ”と言われて、池に突き落とされた思い出しかございませんの」…っ」
「あれが婚約の儀式だとしたら、女性は命懸けで婚約するのだと、幼心に戦慄しましたわ」
「そ、それは…振り払ったらお前が勝手に飛び込んだんだろう!」
まだ、言うか。
「…随分と都合良く記憶を改竄されましたこと。わたくしは、繋いでいた手を振り払われた後、突き飛ばされたから池に落ちたんです。あの日以来、わたくしは婚約というものだけでなく、人が怖くて堪りませんの」
両親でさえ拒絶する程のショックだった。
「グレイのおかげで、漸く人並みに生活出来るようになったのです」
私はカクタス様に言われた事も、された事も忘れてはいない。
いまだに悪夢に魘されているのは本当の事。
「二度と話し掛けないで下さいまし。では、失礼致しますわ」
貴方とはこれで本当に縁が切れるのね。
“さようなら”
騒ぎも国王陛下のお言葉で一段落ついたし、フォッグ伯爵夫妻も諦めてくれたように見えたから油断した。
踊る前に1人で大丈夫だからとグレイもシルバーも置いてきた私の落ち度よね。
でも、言っていい?
「女性用ラバトリーの前に居るなんてとんだ変態だわ」
あら、声に出ちゃったわ。
ラバトリーとはトイレの事。
そう、今私はトイレから出てきたところで、カクタス様に呼び止められたのだ。
私の呟きが聞こえたハズなのに、聞こえなかった振りを決め込んだらしいカクタス様は、何気ない様子で声をかけてきた。
「久し振りだな。ミモザ」
カクタス様は会えて嬉しいといった笑顔で話しかけてくる。
「失礼ですが、婚約者以外の方に名前を呼び捨てで呼ばれたくないのでやめて頂けますか?」
それと、怖いからそれ以上近づかないで。
私達の距離は、腕を伸ばしても触れない程の距離しか開いていない。
「…それは申し訳ない。久し振りに会えたから、つい気が緩んでしまったようだ」
確かに久し振りだけど、あの日、貴方は私の名前すら呼んではくれなかったわ。
「とても綺麗になったな」
熱を帯びているような目が気持ち悪い。
貴族令嬢にあるまじき行為だけど、走って逃げちゃ駄目かしら?
「あの時は…その、お前が眩しくて…いや、今でも光輝くように美人だ!」
私を誉めて、何を企んでいるの?
ああ、フォッグ伯爵夫人にタラシ込めば何とかなるとでも言われたのかしら?
「その…あの時は俺も子供だったから酷い言葉を言ってしまったが…」
グレイのおかげで少しだけ勇気が持てた私が“逃げていてもしょうがないから向き合わなければ”と思った矢先。
「何と言うか、なぜ池に飛び込んだんだ?まるで俺が突き落としたみたいじゃないか。その後だって嫌味のように引き籠ったりなんかして、俺の心証は悪くなる一方だったんだぞ」
は?
「言いたくはないが、子供の戯言に“私は傷ついています”と言わんばかりに引き籠るなんてやりすぎだろう?」
決定的だった…。
そんな風に言われるとは思わなかった。
言い訳ばかりで謝罪も無し?
上から目線でお前呼ばわり?
私はあなたに突き飛ばされたから池に落ちたんです!
こんな自己中男だったなんて!
いい加減腹が立ってきた!
きっと、今が反撃の時だわ!
「失礼ですが、どちら様でしょうか?お久し振りと申されても、わたくしには貴方様に全く見覚えがありませんの。どなたかとお間違えではなくて?」
私がそう言うと、カクタス様は驚いたように目を見開いてばつが悪そうに名乗った。
「…カクタスだ。カクタス・フォッグ。8年前に、婚約者として顔合わせをしただろう?」
いいえ。
婚約者候補としてよ?
事実をねじ曲げないで。
「婚約者として?そんな事実はありませんわ」
「覚えていないのか?手を繋いで庭を散策しただろう?」
「わたくしは確かに8年前に同い年の異性とお会いしました。ですが…」
「それだ!それ「“お前みたいなブスと結婚なんて絶対にごめんだ”と言われて、池に突き落とされた思い出しかございませんの」…っ」
「あれが婚約の儀式だとしたら、女性は命懸けで婚約するのだと、幼心に戦慄しましたわ」
「そ、それは…振り払ったらお前が勝手に飛び込んだんだろう!」
まだ、言うか。
「…随分と都合良く記憶を改竄されましたこと。わたくしは、繋いでいた手を振り払われた後、突き飛ばされたから池に落ちたんです。あの日以来、わたくしは婚約というものだけでなく、人が怖くて堪りませんの」
両親でさえ拒絶する程のショックだった。
「グレイのおかげで、漸く人並みに生活出来るようになったのです」
私はカクタス様に言われた事も、された事も忘れてはいない。
いまだに悪夢に魘されているのは本当の事。
「二度と話し掛けないで下さいまし。では、失礼致しますわ」
貴方とはこれで本当に縁が切れるのね。
“さようなら”
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