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病院に行こう

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結局、その場ではどうしようかという答えは出なかった。当然だ、こんなこと簡単には決められない。

わかったことは両親とタクミの両親それぞれ昔からの知り合いでおそらく互いにそう言った関係だったことがある。

そして僕たちが生まれた病院名。
隣の加古市にある加古総合病院という大きな病院の産婦人科のようだ。

あまり行く機会のない隣町だけど自転車でも行けない距離ではなかった。
2時間も漕いでいれば着くはずだ。

病院の写真などいくつか手がかりになりそうなものは丁寧に抜き取り預かった。

その中でも気になった写真があり、そこに写っていたのは同時にその病院で働いていたであろう人たちと母さんたちが写っているもよだった。

その表情はみんな幸せそうに緩んでいるが1人縮こまっている人もいた。

小柄で若く、少し小太りなその看護師はどことなくボーイッシュな若さが感じられた。
何かミスでもしたのだろうか?

もしかして僕たち家族同士が不倫しあっていて、それを目撃してしまったため口止めされているとか。

なんて、そんなわけないか。
それにしても他人のめでたい席で辛そうな顔をしないで欲しかった。
 


次の日からはまた学校が始まり、部活を終えて帰ってくる頃にはクタクタになった僕たちは互いに病院のことは頭にありながらも話題には出さずに日が過ぎていく。

そして次の日曜日、今度はタクミの家で計画を練った。

もちろんゲームをするという名目で。
ゲームの方はたっぷり夕方まで実際にやっていたので親たちにとっては疑いようのない事実だろう。

数時間はやっていたがあくまでカモフラージュだ。とタクミが言っていた。

そしてこの日のタイムリミット1時間前にバタバタと夏休みの計画を立てていく。


「この病院に着いたらまず何する?」

そしてあらかた道の確認や持ち物を決め切った僕はそう聞いた。

「そうだなぁ。とりあえず写真の人たちに会おう。写真まで撮ってくれてんだからきっと見せたら何かわかるって」

「特にこの人とかね」

写真の中で唯一浮かない顔の女性を指さした。

目を向けたタクミも納得した様子だ。

「それでもし、俺たちの最悪の想像通りだったらどうする?

「……」

沈黙を返すしか無かった。もし、本当に僕たちの両親が浮気をしていたら。

そして僕たちが浮気から生まれた、隠された存在だったら。

僕はその時どうなるんだろう。怒るんだろうか、泣いてしまうんだろうか、そもそも耐えられるのだろうか。

もしかしたら、このまま知らなかったままの方がいいんじゃないだろうか。

その方が幸せに生きられるんじゃ。

「俺は多分泣くだろうな、そんで怒る。んでな、多分許す。だって……」

ニヤリと笑うタクミがたくましく見えた。

「そうだね。うん、真実を知った上で、受け止めよう。その覚悟を頑張って持たなきゃね」

タクミだけにいいカッコさせられない、そんなちっぽけな意地だけで僕もそう答えた。

来週には夏休みだ。
暑い夏に、なりそうだ。
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