死に際の母へ

うろたんけ

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電話

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「なあ、電話鳴ってるよ」

私の友人、リュウの電話がさっきからうるさかった。

同じ番号、スマホのディスプレイには『クソ親』と書かれていた。

おそらくリュウの母親だろう。

リュウと母親は母子家庭でそして、とても仲が悪かった。それは昔からの母親の育て方によるものが大きいと思われる。

母子家庭だから立派に育てないと、そんな意識があったに違いない。

それに反発するように高校には家を飛び出し働きに出ていた。

母親が住むところとは少し離れた小さな町工場で働いていた。

そんなリュウと私、そしてヤスの3人で呑みをしている。それがさっきから電話で遮られている。

そしてリュウは取らない。

痺れを切らしたヤスが少しイライラした様子でリュウに言うと

「いいんだ、そんなの」

と言うだけ。
リュウ曰く親とはもう縁を切っているつもりだそうだ。

そしてリュウから言うべきことはない。よって取らなくてもいいらしい。

全く理解できない言い訳だが、それでもリュウと母親との問題なので私は何も言わない。

ところがヤスはそうではなかったようで

「もういい、俺がとってお前に変わる」

とスマホを持ち上げると電話に出てしまった。

咄嗟のことに唖然とするリュウをよそに会話が始まる。

「もしもし」

流石に私たちも大人なので電話先の相手に当たることはなく口調は切り替わった。そしてしばらくヤスが電話で話をすると

「え?いや、俺はリュウ君の友達のものです。本人に変わりますよ。……リュウ、なんか親戚の方らしいぞ」

リュウの顔が困惑に変わった。しばらく電話で話したリュウだったがどんどん表情が暗くなっていくのがわかる。

それどころか青ざめているんじゃないだろうか。そして電話を切ると私たちの方に顔を向けた。


「あの人、倒れて危篤なんだって」

きっとリュウは頭真っ白になっているんだろう。

あれだけ嫌いだと言っていた親であってもなんだかんだ大切だったと言うわけだ。
リュウの言葉に驚いた私とヤスだったが、すぐにヤスがハッとしたように言った。

「リュウ、病院行かないと!」

その言葉に頷くかと思われたリュウだったが、その首を横に振る。

あくまで嫌いな人、縁を切った人というスタンスは変わらないらしい。しかし顔は青ざめたままである。

「僕いかないよ。あの人とはなんの関係もないんだ」

その声は震えている。
はたから、つまり私たちから見るとただ意地を張っているだけに見える。

「いつまで意地張ってんだ!それで死に目に会えなかったら一生後悔するぞ!」

ヤスも同じように感じていたようだ。そして両親を大切にしているヤスは親の危篤にまだ意地を張っているリュウに怒っている。

すぐに怒る性格で、喧嘩っ早いヤスはそのままリュウに詰め寄っていく。リュウもリュウで目を合わせようとせず押し黙ってしまう。

「リュウ、死んじゃったら一生文句言えないよ?とりあえず行こう」

私がそう言うとしぶしぶ納得した。意地を張っている時は言い訳ができると受け入れやすくなるものだ。

ヤスの運転で電話で聞いた病院へ向かう。隣町ということもあり1時間ほどで病院へ着いた。

到着するとここまで来て足取りが重いリュウを引きずるようにヤスと私は中へ入った。受付で病室を聞く。

教えてもらった病室では色々なチューブに繋がれたリュウの母親がいた。私とヤスは少し離れて見守る。

リュウはというと、そんな母親を見て引き寄せられるように歩いていく。

「……母さん」

そう呟いた。

「母さん!」

母親が反応したのだろう。死んでいなかった安心からか少し表情を和らげたリュウが母親にさらに近づき話し始めた。

それを見て私たちは病室を出てトイレ前の自販機で飲み物を買いそこの椅子に腰を下ろしてまった。


しばらくするとリュウはやってきて、母親の面倒を見ることになった、ここに連れてきてくれてありがとう。そう言って私たちと別れを告げて病室へ戻っていった。

私とヤスはよかったなと口々に言い病院を後にした。






親ってものは人にとってかなり大事なものだ。切っても簡単に切れるものではない。

リュウは縁を切ったつもりになり、母親を困らせていた長い反抗期を今日きっと終えることができたんだろう。



私は後悔するんだろうか。
母親との縁を完全に切ってしまったことを。

借金をし、私に金貸し相手に土下座までさせた母親。

世間の見る目だけが大切で見栄をはってきた母親。

なのに言い訳ばかりで仕事もきちんと見つけられなかった母親。

私は仕事を始めて、連絡先も何もかも変えて母親からの連絡手段をたった。

風の噂によると母親もお金を苦に引越ししたらしいので会おうと思ってももう会えないだろうけど。



最後に、親だから大切にしないといけないとは思えない。

私は母親が大嫌いで、この気持ちは人に変えられない。
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