【2部まで完結!】使い捨てっ子世にはばかる!?~妹が最強の魔王になるかもしれない~

うろたんけ

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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い

「それよりちょっとダンジョン壊してくる」

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翌朝。

夜が明ける頃に勇者様は家を訪ねてきました。

私たちは起きて顔を洗い、荷物の準備も済ませています。

兄は
「ソイル、お兄ちゃんに任せて。安心して待っててね」

と、とても真面目な顔で言っています。

私はそんな兄に少し申し訳無さを感じながらも意を決して声を出しました。

「ゆ、ゆうしゃ、さま。わた、私も連れて、ください」

なんとか絞り出した声は勇者様に届いたんでしょうか、それ以上は声を出せず、俯いてしまいました。

なんだか体が震えます。

顔をあげるのが怖いです。

どうか勇者様聞き入れてください。

兄もきっとたくさん驚いて、もしかしたら怒っているかもしれません。

ですがそんな兄より先に答えたのは勇者様でした。


「ん?もとよりそのつもりだよ」

「ど、どういうことですか!」

勇者様の答えに「よかった」そう思うよりも先にすごい声の兄が勇者様に食ってかかりました。

ハッと顔をあげると今にも掴みかかりそうです。

「俺は妹を助けるためなら何でもすると言いました!

それは妹を助けるためだ!多分勇者様の旅は多忙なだけじゃなく危険も伴うはずです。

そんな場所に妹も初めから連れていくつもりだった?そんなのだめに決まってます!」
   
声を荒げる兄に勇者様は困ったように頬を掻いています。

「でもソイルちゃんが体調崩したときに助けられるのは僕だけだよ?」

ごもっともな意見に私は大賛成ですが、兄は引き下がりません。

「ぅ、そ、それはそうですが、でも旅は危険では?」

「うーん、自分で言うのも何だけど世界最強の一角、赤塔の勇者である僕のそばより安全なところはないと思うけどなぁ」

勇者というのは世界最強の称号ですから、確かに説得力はあります。

「で、でも。相手が百人の盗賊だったとしたら勇者様といえど妹を守りながら戦うなんて難しいのでは」

 うっ、その状況はさすがに危なそうです。ってそんな大盗賊と対峙するんですか?もはや苦し紛れの反論になってきている気がします。

「うーん、それを言っちゃうとこの町にいても魔物とかに襲われるかもしれないよ。

かもしれないを膨らませてもいいことなんてないと思うな」


屁理屈になってきた兄にたしなめるように答えました。

勇者様が大人でよかったです。

兄が怒られるかもしれない、そのことだけが心配でしたから。

そして当たり前のことのように付け足します。

「ま、百人程度の盗賊に後れを取るなんてことは有りえないけどね。

僕といい勝負をしたきゃ同じ勇者三人くらいつれてこなきゃ」


勇者様三人分の力?!その言葉にある、謎の迫力に兄も負けたようです。

勇者様のおかげで兄と一緒にいられます。

ということで村長にも挨拶を済ませ、村を離れて道を歩いています。

少しのあいだは徒歩での移動のようです。
と言っても二日もあれば町にはつくから大丈夫だよと言っていました。

兄は私を心配して二日も野宿は危険だと騒いでいましたが。

そして村を出てすぐ勇者様は向かうところがあると言って道をそれて森に入っていきました。

いきなり冒険が始まりそうな雰囲気に私は内心ドキドキです。

「勇者様、俺だけならともかくソイルもいるのにいきなり森だなんて危険です!」

「この先のダンジョンに用があってね。実は僕勇者だから世界平和のためにしなきゃいけないこともあるんだ」

ダンジョンに行って何をするんでしょう?

ギャーギャー騒ぐ兄の横で私は大人しく歩きます。

ところで会話ですが、さっきはなんとか声を絞り出しましたがやっぱりあんまり知らない人が近くにいると声が出ません。

そんな私の思考を読み取ったかのように勇者様はときどきこちらを向いて答えてくれます。

「ダンジョンは危険だからね。乱立しているとはいえ僕たち勇者や冒険者はダンジョンを破壊するのも仕事の内なんだよ」

なるほど、だからダンジョンにいくんですね。そしてそのダンジョンは恐らく身投げの穴と呼ばれているダンジョンです。

なんでも入口から少し歩くと大穴があって、どこまで続いているかもわからないほど深い穴だそうです。

落ちればまず死んでしまうからついた名前が「身投げの穴」。

想像するだけで足がすくみますね。

村長さんが以前言っていましたが、死ぬために飛び降りてしまう人もいるから、毎年行方不明者が出て困るって言っていたような気がします。

しかしどうしてダンジョンを破壊することが世界平和につながるんでしょうか?

強い人のことはわかりません。

兄はそんなところは気にしていないようで、ダンジョンという響きに張り切っています。

まさか、ダンジョンに潜るつもりでしょうか?

兄は少し丈夫な服と手足の防具、そしてマントを纏い、腰に剣術で使う兄用に作られた少しこぶりなロングソードを持った、旅を始めた男の子のような格好なんですけど。

もちろん私も兄と似たような格好なので初心者丸出しの格好に少し恥ずかしいところではあります。

私は当然ダンジョンの前とかで待つものかと思っていましたが、実際のところどうなんでしょうか。

「心配かい?」

気遣ってくれているのか、心を読んでいるのかわかりませんが勇者様がまた私の気持ちを見透かしたように声をかけてくれます。

どうにか頷くと、足を止め何やら考え込んでいます。

「ロット!」

森から何が飛び出してきてもやっつけるぞと意気込んでいた兄に何かを投げました。

え、剣!しかも抜身ですよ!?

「わっ!!……短剣、ですか?」

兄も驚いたようですがなんとか持ち手をキャッチしました。ナイスプレー!

そしてその後勇者様から短剣をしまうホルダーのようなものを渡されます。ん?ホルダーあるならそれにしまって渡しましょうよ!

しかし兄はそんなことには気づいていないようで、渡された短剣をまじまじと眺めていました。

兄の手にはちょうど良く、とても似合っています。

特に刃の部分に埋め込まれている宝石のようなものがとてもきれいです。

「それあげるよ」

それだけいうとまた歩みを始めました。
全く悪気なさそうなところが質悪いですね。

仕方なく私も兄もそれに続く形で歩き出しました。
兄は私に近寄るとこっそりと言います。

「ソイル、お兄ちゃんには剣があるからとりあえずこれは護身用として持っててくれ。勇者様には内緒だよ」

勇者様に少し悪い気はしましたが、普段危ないからと武器を持たせてもらえない私はなんだかドキドキして、大事に懐にしまい込んでしまいました。


それが後に後悔することとは知らず。
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