転生鍛治師の再起〜武器で世界を乗り越える〜

南雲オウタロウ

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第一章 おわってはじまる

第七話 「バッドイベント開始」

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「おいおい…、どう、なって……」
 俺は村に帰るや否や絶句した。

 なぜなら、村が燃えているからだ。

 は?いやマジでどうなってんだ。いくらなんでもこれは洒落にならない状況だ。

 今まで平和スローライフを送ってきた村は、血と殺戮の場所と化していた。

 村には見たことのない魔物たちで溢れかえっており、皆が皆黒い鎧を身にまとっている。
 そのすべての鎧に黒い薔薇の紋章のようなものが描かれているのが見えた。

 コイツらは一体どこからきたんだ!?

「くそっ!助けてくれ!誰か助け…ガハッ!!」

「イヤ、近づかないで、どうかこの子だけでも、見逃してくださーー」

「ガアアアアアアアアアッッ!!!」

「…!おいやめ――」

 気づいたときには、目の前にいた人たちは、剣で斬り殺され、食い殺され、焼き殺されていた。

 俺は異世界に来て初めて、人の死を目の当たりにした。それも大勢の、だ。

 村の人の悲鳴、魔物たちの咆哮で村の広場は埋め尽くされている。

 ……本当に洒落になっていない。

 唇が恐怖で震える。
 そして強烈な吐き気を催し、口からそのまま…

「うええええええええええ」

 嘔吐した。

 俺は、人型の魔物や猛獣のような魔物たち惨殺される人達をただ呆然と眺めることしかできなかった。

「…クソッ!いきなり何なんだよ一体!」

 いくらなんでも急すぎる、何が起きてるって言うんだ。

 とりあえず、ここに留まっていると俺も危ない。一刻も早くここから……

 待て、俺は正気か?さっきのリザードマンと言い逃げすぎだ。
 ラバンたちの安否がわからない、今あいつらは一体どこにいる?避難はできたのか?
 いやできるはずがないだろう。ラバンは俺と同じただの鍛治師だ。こんなに魔物がいるならすでにもう…

 違う!さっきから不穏なことしか考えられてない、これじゃ前世の頃と全く変わらないじゃないか!
 不幸なことが続いて頭が少しおかしくなってきているのかもしれない。

 まだ生きている、きっとそうだ。そうだ、そう考えろ。
 異世界では、もう失敗はしたくない。

「俺が行ったところで、何が変わるのかはわからないけど、後悔はしたくない」

「ギャッ!ギャッ!」

「…!」

 すると、目の前に短剣を持った一匹のゴブリンらしき魔物が俺目掛けて攻撃してきた。

 俺はすぐさま武器庫から剣を取り出し防御する。

「くっ!」

 キンッ!という音と共に二つの剣が火花を散らす。
 大丈夫だ、コイツはあのリザードマンより強くない!

「お、らあ!」

 俺はなんとか敵の剣を押し返し、その勢いに乗って、ゴブリンの横っ腹に回し蹴りを食らわせた。

「ギャギャ!?」

 ゴブリンは吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられた。

「お前らに構ってやる体力と余裕はないんだよ…!」

 さっきの洞窟での作業の疲労が完全には回復していない。
 早くラバンやユナを見つけて一緒に逃げなければ。

 あのゴブリンが立ち上がる前に、俺は北の方向にある自分の家に向かって走り出した。

 途中で見かける民家は荒れ果てた姿になっていた。血で染められたドス黒い玄関、屋根にばら撒かれた内臓らしきもの、死と恐怖で出来上がってしまっていた。

「はぁ…はぁ…はぁ!ついたっ!」

 坂を登って少し先。
 俺はベイカー家の前に到着した。

 着いたのはいいが、周囲に誰かの気配はない。ひょっとして、もう逃げられたのか?
 俺は家の中に誰か残っていないか確認したが、リビングにも、鍛冶場にもいなかった。

 何も知らないで動いてたのは俺だけかよ……。

「…ははっ、何だよ。俺が心配する必要もなかったじゃないか。とんだ無駄足だったな!」

 俺はその場にへたり込んでしまった。

 そうだよ、何の心配もいらなかった。何故なら、彼らは俺に負ける要素なんて一つもないのだから。
 俺が来たところで何も変わらないのはわかっていた。

 何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。

「さて、早く俺も避難するか。あいつらはどこに避難して…」

 俺はこの場から離れようとして、

 ザシュッ

 「ーーーーーーーーーーあ?」

 ーーどこからか飛んできた槍に、左肩を貫かれた。

 急激に鋭い痛みを感じる。血が、俺の、肩、血、痛い、いたい?がっ!?

「ぐあああああああアアアアアアッッッ!!!」

 俺は絶叫した。
 なんだ?何が起きた?今怒ったことに理解できない、一体なぜ、肩が、血が、いたいいたいいたいいたいたいたいたいいたいたいたい。

「ぐ、ああ、あ」

 妖しい光を纏った槍が突然意思を持ったように動き出し、俺の肩から抜かれる。
 俺の左肩を貫いた槍は空中を舞、とてつもない速さで空に向かって飛んでいく。
 あれは能力を持った魔槍、か?

 俺は血が出るのが治らない傷口を抑えながら、槍が飛んでいった方向に目を向けた。

 そこには、同じく浮遊している人陰。
 いや、人ではない。人の形をした何かを俺は見つけた。

 そいつは青い髪をなびかせ、禍々しい大きな翼を持っていた。
 テールコートのような物を見に纏い、上空で暗い紫の瞳で俺を見ている。
 そして、

「何、だ。あの、ク、クソ野郎、は…!?」

 笑っている。俺をあの槍で貫いてケラケラと笑っていた。外道だ。あの笑う姿が、俺にはこの世の者ではない悪魔に見えた。

「何が……おかしい、んだよ!!てめえ!!人様の肩、抉りやがって!!一体何、がお゛がじい゛んだよ!!」

 空を飛ぶ人影の口が動き、俺の問いに答えるようにこう言った。

『人間の苦しむ姿は滑稽で仕方がないのでなあ!!』

 そいつは俺の真上でまるで全ての人間を嘲笑うかのように、高らかに笑い続ける。
 この世界に来て、俺は初めて明確な殺意をあの悪魔に向けて抱いた。

 痛い、いたい、イタイ、どう、すればっ!!
 血が!!止まらないっ!!

 追い討ちをかけるように、悪魔の持つ槍が再び妖しい紫色の強い光を放ち出し、高速で回転し出した。



 ーーまさか、またあれが飛んでくる?
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