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第一章 おわってはじまる
第十話 「しんでたまるものか」
しおりを挟むこれは夢だ。
なかなか覚めない、酷い悪夢。
俺はそう信じたかった。
「では次は…、貴様の番だ。息子よ!!」
俺はラバンの前に近づき、再び座り込む。
俺は、馬鹿だ。
大馬鹿だ。
本当に何も出来ずに、ただ守られた。
俺は、また繰り返すのか?
前世の続きを?
「心配するな。死というものは一瞬だ。痛さなんて、感じる暇もない」
また、死ぬ。
守られてなお、死ぬ。
槍の突きで、死ぬ。
悪魔に嘲笑われながら、死ぬ。
前世の最後のように、死ぬ。
心を壊されて、死ぬ。
何も出来ないまま、死ーーーー
「ーー決して、諦め、るなっ!!エバンっ!!!」
…………………………………。
何も出来ずに死ぬ、だと?
俺は今日でそれが最も愚かなことだと知った。
考えろ、そうだ。諦めるな。
きっとまだ、何かできる。
俺はこのとき、最も速く脳を動かした気がした。
俺のできる、この状況を打開できる可能性のある唯一のこと。
可能なこと、今までの人生で培ったもの。
俺が得たもの。
授かったもの、鍛治師の技。
技……、スキルっっ!!
「何か、最後に死ぬ前に言い残すことはあるか?私は優しいからな。遺言くらいは聞いてやるが?」
「ーーーーーわけないだろ」
「……?」
俺は、悪魔に言ってやった。
「死ぬわけねえっつってんだろうが!!このクソ悪魔がっ!!!!」
俺はラバンを中心に、使うことはないだろうとずっと思っていたユニークスキルを発動させた。
右手を突き出し、手のひらに発動合図の印を浮き出させる。
「ーー異次元鍛冶場、作成。展開開始っ!!」
俺は初めて、異空間に鍛冶場を作り出す。
漆黒の稲妻が走り、瞬く間に黒い四角形の空間が展開されていく。
「貴様、何を……!?」
バールが異空間内に足を踏み入れようとすると、鍛冶場が入室許可をしていないと認識した異物を弾き出す。
バールはそこで初めて驚愕した顔を見せる。
「……これは何だ!あの子供のスキルか!?」
バールは槍で黒い立方体を攻撃するが、その攻撃はすり抜ける。
スキルは無事発動した。
その場に別次元の大きな立方体の空間を作り、
俺とラバンは一時的にそこに逃げ入ることに成功した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は、なぜ今までこのスキルを試しておかなかった?
早く使っていれば、こんな事にはならなかった。
暗い。
明かりをつけられるが、今はそれどころではない。
俺は横たわるラバンの方を見やる。
ああ、まずい。このままでは、ラバンが!
何をしたらいい?
止血か?ダメだやり方がわからない!
俺は、ラバンの役に立たなくてはならないのに!
この鍛冶場がどれだけの時間保っていられるのかもわからない。
魔法適正やスキル云々ではなく、まず自分が無能すぎることにようやく気が付いた。
「今、悲観的なことを、考えているだろう?」
突然、ラバンが口を開いた。
「俺、には、わかるぜ。お前の考えてることなんてな。俺には、どうしたらいいのか、わからないって」
ラバンはそのまま喋り続ける。
「お前、のひだ、り肩。痛い、よな?だ、大丈夫だ。聖騎士団、の中には、腕利きの治癒師が、いるから、な」
……ラバン、もう、しゃべらなくてもーー
「お前、は、俺の息子だ。昔、からお前は、不幸になること、ばかりを考えて、いたな。そんなに、苦しまなくたって、いいんだ」
……………。
「ミア、も、言って、いたぞ?お前、は、自分の、思うままに、自由、に生きて、ほしい。それが、俺、たちの、願い、だっ!」
……………お、とう、さん。
「平凡な鍛治師、にでもなっ、て、平和な、生活を送ってほしいんだ。俺たちの、ように、ならなくったって、いいんだ。戦いなんて、しても意味、がないだけなの、だから」
俺は、肩を貫かれたときさえ耐えたのに、何年ぶりになるのかはわからない涙を、流した。
「お前は、決して今まで、何もしていないことなんて、なかっ、たぞ!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心は、熱く、燃えるようなものを感じた。
「や、くそく、してくれ。お前は、もう、生きる、ことを、諦めるな。どんな時だって、死に、急ぐ、真似はするな、わかっ、た、か?」
「…ああっ!わかった、約束する!俺は決して諦めない、この残酷な世界に、抗う。どんな時だって、生きる、ため、に、行動する!」
俺は涙を流しながら、そう答える。
「ーーーーーーありがとう。俺は、その、言葉が、聞き、たかったんだ」
「だから、見守っていてくれ。必ず、心を照らしてくれた恩は、必ず返す!!俺のそばで、ずっと熱く、燃えるような心で、生きていて……………お父さん?」
「……………………………………」
「う、嘘だよな?ラバン?へ、返事してくれ、よ!!まだ、俺はまだ、お父さんに対して何も礼ができてない!!俺は、おれは、まだなにもーーーー!!」
この日、ラバン・ベイカーの
燃える心を持つ父親の、魂に灯っていた炎は
消えて、なくなってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだ?この四角い物体は?
何故今頃でてきた?あの子供のユニークスキルか?
あと少しで、苦しみから解放してやれたものを」
バールは突然の黒い箱の出現に嫌悪を抱いていた。
魔槍は役に立たず、この黒い箱が別の空間にあるかのようにすり抜けてしまうのだ。
「……まあよいか。当初の目的は達成でき、おまけであの親子と逢えたのだ。それで良しとしてやろう。案外楽にこれを手に入れることもできたしなあ?」
バールはそう言って、ポケットの中から膨大な魔力を含んだ宝石を取り出した。
「では、帰還するとしよう。我が主人の下へ……」
「そうか、では帰るならそれをここに置いていってくれると助かるんだが」
ザシュッ
一陣の風が、走る。
バールの宝石を持っていた腕が、突如として何者かに斬られ、鈍い音を立てながら落ちた。
切り落とした者、それはすぐそこの坂から上がってきたようだ。
大変色艶のある茶色の髪に、心に安らぎを与えんとばかりの優しい緑の瞳。
整った顔に、すらりとした細身。だか、それは決して弱さを感じさせない。
穏やかさと凛々しさを兼ね備えた風格。
純白の上品な服を着用し、一本の規格外な聖なる力を放つ剣を手に下げた青年が、バールの前に立っている。
「私はアルセルダ王国聖騎士団所属、
風の聖騎士、クラウス・オーグナー。
君がこの騒ぎの元凶かな?」
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