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脅迫

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「ウフフッ…」

弓は口唇の周りを舌でペロリと舐め回した。


「仙石さん…社内の女性から人気がある理由がとってもよく分かったわ…


私を自分のモノにしようと思えば、何度もチャンスがあったのに…


あんなに綺麗な奥様・・・・・・・・・だから…きっと操を立てても後悔が無いのでしょうね…」





………!!!


大きく目を見開く優也…


そして…今、お店の外にチラリと見えた人影は…



「…ふうっ…」


彼は大きくため息を吐いた。


座っている椅子の背に深くもたれて右手でネクタイを少し緩めながらゆっくりと口を開く…




「で…輝夜先生…


妻を…プラティナをご存知だということは…

魔界の……」



「魔界…⁉︎

ああ…この世界の平行世界のことね。

うーん…⁉︎」




弓は少し考える素振りを見せたが…



「そうね…

半分は正解で…

半分は『ブッブー!!』ってところかしら…


ウフフッ…」


「はあ…⁉︎」



無邪気に笑う弓に少し拍子抜けして肩を落とす優也…

しかし気を取り直して…


「…輝夜先生…一体…あなたの目的は…⁉︎」



優也の言葉に急に表情を変えた弓は自分のスマートフォンを取り出した。


そして優也に向かって数枚の写真を見せた…


その写真とは数時間前に自分と優也が二人でホテルに入っていく瞬間をおそらく第三者のアングルが捉えたモノだった。



ニヤリと笑う弓に優也は毅然とした表情で…


「なるほど…僕を脅そうってコトですね。」


「人聞きが悪いわ…

ただ私の言う事を聞いて欲しいだけよ…」



「…残念ですが…

僕はこう言ったやり方をする方の言うことを聞く耳は持っておりません。

人の弱みにつけ込んで行うことにろくなことは無いからです。

もし…誰にも誇れるようなことをやって欲しい。手を貸して欲しいと仰るならその時はまた考えさせて頂きます。


…では…僕はこれで…」


「ま、待って……!!」


会計の伝票を持った優也の手を慌てて掴む弓。



彼女の目は確かに優也の…


月光と同じ瑠璃色の輝きに釘付けになり…


身動きが取れない程…心を奪われていた。


「輝夜…先生…⁉︎」


優也から名を呼ばれ、『はっ!!』と我に返ると弓は優也の顔を直視できずに目を逸らす…



「そうですね…私が間違っていました。


アポ…いえ…仙石優也さん…


今はまだ…全てを話せないけれど…

あなたに伝えられる時が来たら…その時は…」



「…分かりました。ただ…あなたがお金や権力目当てで僕に近づいたのではないことは理解出来ました。」




弓の瞳を見つめてニッコリと微笑む優也に彼女は…




やはり…間違っていなかった…

アポロン王は転生していた!!

それも人間として…

しかもその妻は…魔界の…ううっ…

なんていう運命のイタズラ……






「で…では…今日のところは失礼します…」



そそくさと逃げるように店を出て行く弓を優也は目で追いかけることもせずに少し伸びてしまったうどんをまたすすり出した…

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