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師匠と弟子

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「老師様ですか…成程…

あのお方なら『ヴァルハラ』という言葉についても馬車についての事もご存知かもしれませんね…

理解りました。早速…明日船を出してご相談にまいりましょう…


サブリナさんはご一緒して頂けるのですか…⁉︎」


「はい…私のような者…老師はお忘れになっておられるかもしれませんが、一度面識がございますので事情を話せばおそらくは思い出して頂けるのではないかと…」



「フフ…老師様は気難しい方かも知れませんが、一度認めた方にはお優しいですよ…

何でも…人の器の大きさを感じ取られるとか…

優也様やあなたをお認めになり、自分の非を詫びられたそうではないですか…


老師様を訪ねてくる人の中にはその卓越した能力を利用しようとする輩も少なくないですから…

私の知る限りでは他にそんな方はおられないです。」



「そう言って頂けると少し気持ちが楽になります。

またこちらが勝手なお願いに上がるので王女様に取り成して頂こうと思っていました。

厚かましい考えですよね…本当にすみません…」



「いえ…私も老師様と一緒であなたの器が小さな物では無い事は理解っているつもりです。

私も久しくお会いできていないのでご挨拶する良い機会となりそうです…」


終始笑顔を見せていたジーニャ王女だったが…


「これが優也様についてのいいニュースを老師様にご報告させてもらう機会になったのなら良かったのですが…

最後は少し伏目がちに本音を漏らした。








———コジレ島。

人間界の距離でバビロナ南海岸から数十キロ…

遠浅の美しい珊瑚礁と密林に囲まれた無人島…



その中腹にある洞窟の中にナイト老師は棲んでいた。


わざわざ船を出して会いに行かなければいけないのは老師が島全体に張り巡らせた結界のせいであった。


その理由……老師は自分以外の存在を受け入れがたい人物であった。


それは彼自身の種族のルーツに由来するものなのかも知れない。


そう考えると彼は周りを受け入れられないのではなく、あえて自然の摂理のまま…自分の力でことわりじ曲げる事を嫌っているようにも考えられた…






洞窟を奥へと進んでいくと…


光るコケの明かりが湿った岩肌に反射して中は想像以上に明るかった。


やがて…目の前に小さな人影が現れた…

その人物は洞窟の中とは思えない…
美しい丁度品に囲まれ…赤に金の刺繍のペルシャ絨毯の上に座っていた。



「お久しぶりでございます…老師様…」


声を揃えるように挨拶をし、頭を下げる二人。




「おお…ジーニャか…

そっちは…なんじゃ…あの時の嬢ではないか…

二人揃って一体どうしたのじゃ……⁉︎」


伏目がちにジーニャは語り始めた…


「はい……老師様……実は……」
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