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秘密にしてきた事が…優也の口から語られたことに驚きを隠せない二人…

何よりこの状況で言い淀んでいること自体が大筋で認めている証拠である。




ああ…仕方ない…


ここは全てを打ち明けて協力を…


私達がベローズの悪行から月の民を守ろうとしている事とは別の真の目的にアポロン王…ううん…優也様はお気付きなのだろうか…

だとしたら…我々が黙って優也様を利用しようとしている事に内心、ご立腹であるだろうな。


きっとご内儀…ヴァルプルギス様がおられるから感情を抑えておられるに違いない。


しかし…何とかしてご協力頂かないと…
あの方の身に危険が…


と、とにかく…ここは…

もう一度…女の武器を使ってでも…






ユミルは覚悟を決め、顔をあげると…





「…大丈夫かい⁉︎」



「えっ⁉︎」



ユミルの鼻先のすぐ前で優也が心配そうに彼女の顔を覗きこんでいた…



「色仕掛けや誘拐まがいのことをしてまで僕を月まで連れてくるのにはよほどの理由があるのでしょう…⁉︎

君達がわざわざベローズを追いかけなくても、今の時代の月面の支配者に理由を話して気をつけるように告げて任せれば良い話だよね。

そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?

…でないと、力を貸すことも出来ないよ…」


「そ、それは…」

唇を噛んで言葉を選ぶユミル……

彼女がふと、隣にいるネザーに視線をやると、彼女は真顔で黙って首を横に振った。


『もう…この人は誤魔化せない…

誤魔化してはいけない…』


彼女の瞳はそう語っていた。


「は…はい。あの……」



言葉に詰まりながら、重苦しい口調で彼女は話し始めた…



「優也様……

私は確かにあらゆる手段を使っても貴方様をこちらにお連れしたかった…

しかし…信じて頂きたいのは、私達は決してあなたを騙して利用しようとした訳では無いのです…

いいえ…むしろ出来るだけ貴方様にご迷惑をおかけしないように…

深くお関わりにならないようにするつもりでおりました…


月の民である我々の…に…



いくらアポロン王の転生されたお姿とはいえ、人間であるあなたや転生後もあなたのお側にいて尽くされておられるアルテミス様…

いえ、ヴァルプルギス様でしたね。失礼致しました…


仲睦まじいお二人が末長く幸せに過ごされますよう私達は心から願っております。


先程も申し上げましたように私達の全てを信じて頂くことは到底、無理な話だと言うことは重々承知しております。


ですが…


ここは一つ、細かい事には目を瞑って頂いて…

私達にご協力しては頂けないでしょうか…⁉︎


用件が済みましたら速やかに人間界まで送らせて頂き、二度と関わらないことをお約束させて頂きます。


そして…私達に出来うる限りのお詫びとお礼をさせて頂こうと考えております。


如何ですか…⁉︎



やはり私達のような者の言葉は信用に値しないとお考えであらせられますでしょうか?」



ユミルが重い口調で絞り出した言葉を噛みしめた優也はヴァルプルギスにアイコンタクトを贈ると彼女は少し困惑したような微笑を浮かべ、フッと笑った。



ヴァルプルギスの表情を見て同じように微笑を浮かべながら優也は…


「分かりました…

君達には君達の都合もあるだろうし…
野暮な詮索はしないようにするよ。


ただし…誰かが傷つくような事があれば…


僕は部外者かもしれないけれど遠慮なく介入させてもらう事になるかもしれない。

…それでも良いかな⁉︎」



優也の言葉にユミルとネザーは深く頷いた。


…ガクン!!


「おおっと⁉︎」

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