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精霊の女王

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「わ、私でございます…」

「お前は王族ではないな…?精霊…?

ではバビロナが滅んだあの時の生き残りか…」


「わ、私達の事をご存知なのですか…?」

 
「話に水を差すようで申し訳ない…わらわはジュエラ王国から来たヴァルプルギスという魔法使いじゃ…そなたは一体…」


「ヴァルプルギス…風の噂で凄腕の魔法使いだと名前だけは小耳に挟んだ事がある…


わらわは…バビロナ…皆からは大いなるバビロナと呼ばれておる…〝マザー・ハーロット〟と呼ぶ者も…」

「マザー・ハーロット!」

「ヴァル…知ってるの?」

「ああ…精霊の中でも大物中の大物よ…
 
なるほど…バビロナ王朝という名は彼女から
取ったのか…

この国の繁栄は彼女と王族との深い結びつきにあったのじゃな…
わらわも彼女の名をその美しい風貌と共に耳にした事があるわ…」



…美しい風貌…

僕は彼女…マザー・ハーロットをもう一度見上げた…

…や、やはり何度見ても…

僕の守護英霊がヴァルで良かった。
彼女だったら、おそらく緊張して話も出来ないかもしれない…。



ヴァルはジーニャに向かって微笑んだ。

「彼女なら…間違いなくそなたの願いを聞き入れて
くれる筈じゃ…何なりと申してみるがよいぞ…」

「はい…」

ジーニャは胸に手を当てて自分の気持ちを落ち着かせてから彼女…マザー・ハーロットに向き合った。


「魔法のランプを手にした者は…何でも一つ願いを叶えて貰えると聞きました…
 
…私の願いを叶えて頂けますか…?」

ジーニャは深々と頭を下げた。



マザー・ハーロットはジーニャを黙って見下ろした…
まるで彼女の想いの深さを量っているかのように…


「ふむ…そなた…永い間ずっとバビロナの事を思い続けてきたのだな…

バビロナ王朝は本当に素晴らしい国だった…
自然の恵みに満ち溢れ…魔法使いと精霊が共存できる素晴らしい国…

そなたの願いは言わなくても分かる…あの頃のバビロナを取り戻したいのであろう…」

「そ、その通りです…」

驚きの表情で顔を上げてマザー・ハーロットを見上げるジーニャ…

「しかしのう…」

マザー・ハーロットは悩むような素振りを見せる…

「…本当の事を語らねばならぬな…実は…


そなた達、バビロナの生き残りの者を精霊として、再び命を与えたのはこのわらわなのじゃ…」

「えっ…!」


ジーナとジーニャは勿論、優也達も驚きのあまり言葉も出ない…


「ど、どうして私達を精霊に…?」

「わらわ達…精霊がバビロナ王朝の当時の王…ハマラビと王族の種族を超えた共存の国造りの考えに感銘してこの国は精霊と魔法使いが共に助け合い暮らす豊かな国となった…」

「おじ様…」


当時の国王のことを思い出し…ジーニャは目を伏せた。


「王は我々の為に共存のシンボルとして空中庭園を
わらわ達の棲む自然界と自分達の街との間に造ったのじゃ…その気持ちを汲んでわらわはこの空中庭園に留まり皆を陰から支えていこうと決めたのじゃ…

そして…病に倒れ…命を落とした王に変わってバビロナ王朝を…魔法使いと精霊の共存を守っていく使命感に溢れた若い王子がおったのじゃ…」

「……シャブリヤール様…」

ジーニャ達は涙を必死で堪えた…


「王子は人々の心に寄り添える優しい眼をしておった…わらわはこの王子が王となり、バビロナを更に豊かな平和な国にしてくれると確信しておった…

しかし…わらわは見誤った…

バビロナは素晴らしい王族に恵まれていても、周りの国…他国を侵略し、自分達の欲望の為に我々を利用しようとする者達にバビロナは略奪されてしまった…

王子は国の勇者に生き残った者達を託し…自分はバビロナを守るために…」

「…ううううっ…」

ジーニャとジーナは溢れてくる涙を止める事が出来ない…

優也達は立つのもやっとの二人に寄り添った。



わらわは精霊達を自然界へと戻した…
そして…追手に捕まり命を落としてしまったバビロナの生き残りの者達にせめてもの罪滅ぼしに精霊としての命を与えたのじゃ…」



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