飴と飴

ゆきむら。

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クラスメート・デスゲーム

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 それは突然に始まった。
『ミナサンッ!デスゲームハ、ゴゾンジデスカ?』
 私が教卓の真ん前の席で本を読んでいると、いきなり機械的な声が教卓から聞こえた。私の幻聴ではないっぽい。現に、周りのクラスメートも一斉に教卓を見つめている。教卓の上には、溌剌はつらつとした黄色のウサギ人形がいた。ところどころ継ぎ接ぎで布が縫われており、よく使い込まれている。
『イマカラ「クラスメート・デスゲーム」ヲハジメマス!』
 私達が理解するのを待たず、ウサギは淡々と説明をしていく。
『ルールハカンタン。クラスメートノアクジヲ、タンニンニホウコクスルノデス!ソシテ、サイゴマデイキノコレタカタニハ、ゴホウビガアリマス!』
 ぱんぱかぱーん、という謎の効果音と共に、ウサギは手を叩いて喜ぶ真似をした。しかし次の瞬間、ウサギは、にたりと不気味な笑みを浮かべた。
『タダシ、ホウコクサレタカタハ、ソノバデオナクナリデス♪』
 ウサギの言葉に、誰も何も言わずとも息を呑む気配がした。命がかかっているということか。
『デハッ!デスゲーム、タノシンデクダサイ!』
 ウサギはそう言うと、教室から出ようとした。しかしそれは叶わず、クラスメートの1人・六道杏樹がウサギの耳をひっ掴み、自分の顔の辺りまで持ち上げた。
「はぁ?そんな勝手な。アタシらは何もしてないっつーの!悪い子なんていない。だから、このゲームは意味ないわ!誰もチクらないもの!」
 その言葉に、ウサギは口角を少し上げた。
『ダレモホウコクシナイバアイハ、ゼンインオナクナリデス。モチロン、ウソノホウコクヲシタカタモ、オナクナリデスヨ♪』
 ウサギはそこまで言うと、煙のように消えてしまった。教室に沈黙が落ちる。私はノートを取り出して、今までのルールをまとめることにした。
【・最後まで残った人にはご褒美。
 ・誰も報告しなければ、全員死ぬ。
 ・嘘の報告もアウト。その場で死ぬ。
 ・報告された人は、その場で死ぬ。
 ・報告することは、あくまでクラスメートの悪事。】
 このぐらいか。私はノートのページを破ると、畳んでポケットに入れた。そして、教室をザッと見渡した。40人程度か。皆が皆、怯えもあるが、瞳の奥には確かに執着心を宿していた。小さな悪事も見逃さぬように、という執着を―――。
 10分後。クラスメートの薮崎廉が、徐に立ち上がり、教室の扉に手をかけた。すると、六道が薮崎の肩に手を置く。
「どこに行くわけ?まさかホウコク?」
 薮崎は六道の手を邪険に退けると、そのまま教室を出てしまった。
「何なの、アイツ。」
 薮崎は六道が目を付けていた、元不良のイケメンだ。いつもなら、べたべたな黄色い声で話しかけるのに。そんなくだらないことを考えていると、私の隣の席の関口麻友子が、苦しみだした。
「うっ……ぐ……ふっ…ん…」
 関口は、口からボタボタと血を垂れ流す。すると、だんだん首に切り込みが入っていき、最後には私の足元にゴロンと頭が転がってきた。体も血を噴き出しながら、私の体にもたれかかってくる。
「いっ……いやぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁ!!!」
 誰かの叫び声を合図に、教室は阿鼻叫喚に包まれた。私は静かに、関口の体を持ち上げた。意外と重く、肩にずしりと確かな重みが伝わってくる。叫び声をあげる人々を他所に、私はスタスタと後ろへ歩いていくと、関口のロッカーから関口の通学鞄を取り出した。流石男たらし。鞄のチャックには、無造作に挟まった男子の連絡先や、ラブホテルの割引券などが引っかかっている。私はその鞄を手に持つと、頭のない関口の体を折りたたみ、上手くロッカーへ詰め込んだ。首の切断面からは、相変わらず血が滴っている。腰から2等分するように畳まれた彼女は、だらんと足をロッカーの淵から垂らし、ぴくりとも動かない。これでいい。そう思って私が振り向くと、クラスメート達は呆然としたように私を見ていた。その中の1人である馬渕智也が、ふるふると微かに震える人差し指を私に向けた。
「な…なに……してんだよ……」
 私はその言葉に、微笑むだけで何も言わないことにした。私の本心は隠し切る。そしてクラスメートを蹴落とす。そう、私一人だけ…生き残るため。
 その後も次々と死んでゆき、今では30人。死んだ10人の体は、それぞれのロッカーに収まっている。先程外に出て見回りをしてきたが、担任とクラスメートの他に人はおらず、恐らく何か異世界とやらに飛ばされたと見た。だから実質教室は密室、閉鎖空間だ。教室の空気がピリピリ緊張し、肌が痛い。でもそれが今では心地よかった。
 そして今日も尻尾を出す『おばかさん』を見つけ、蹴落とす。これだけ悪事があるということは、私達はブラックリストに載っているはずだ。ブラックリストの人数が増えすぎたから、私達がクラス替えで全員同じクラスになり、デスゲームという名の口減らしを使い、破滅へ追い込んでいる。私はふっと笑った。面白い。絶対生き残って、史上最低最悪の殺人鬼になってやる。さぁ…密告だ。密告の時間だ。そう思って教室の中を見回した。
 その時やっと気がついた。自分以外のロッカーに、クラスメート達が収まっている。ということは、もうクラスメートは0人だ。私はその光景を見つめて高笑いをした。そしてふと、担任の顔が頭に浮かんだ。担任もある種よね?私はすたすたと歩き出すと、担任の元へ向かった。先生も殺ってやるわ。最後の生き残りになるまで終わらない…いや、わ。だから殺すの。密告するの。



彼女はその後、『史上最悪の殺人鬼』としてこの世に名を馳せた。彼女の名前は―――
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