レイとアイラの異世界雪山生活

霧ちゃん→霧聖羅

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農作物と魔法

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 朝六時。寝ぼけ眼をこすりつつモゾモゾと布団の中を抜け出す。
後ろでゴゾ語粗音がするから、珍しくアイラも起き出したみたいだ。
いつも通りに”エリアライト”で明かりを灯して、”ホット”を二度がけしてからワラ靴を履く。意外と履き心地が良くて、最近はスニーカーよりもこっちのほうが履く機会が多いんだよね。予備も作って欲しいってお願いしなくちゃ……
アイラの靴を用意してあげて、入り口から移動して軽く体を伸ばす。
うん。眠気はまだあるけど、まずまずの目覚めかな。

「おはよ、アイラ」
「おはよ、レイちゃん。昨日は遅かったんじゃないの?」
「……ちょっとだけ」

 夜の八時頃には眠ってしまったアイラと違って、十時過ぎまで起きていたけど……特別遅くもない、はずだ。
思わず視線をそらした私を疑わしそうに見てから、彼女はため息を吐きつつ昨日の成果を訊ねてきた。

「アイラが寝たあと? 錬金術であれこれ道具をしているうちにレベルが上って、新しく出来ることのお試しを少しして寝たよ。まだ、あと二つ試してないから、今日やろうかと思ってる」
「いやいや、そっちじゃなくって、体力は増えたのかって方」
「おおう、そっちか! ……増えてるね」

 確認してみると、寝る前よりも間違いなく増えてる。
三百超えてるよ、三百!

「それじゃ、あたしの仮説は正しそうね」

 アイラは満足げに頷くと、ご機嫌な様子で畑へ向かった。

「今日の朝ごはん、ピタパンでよろしく~♪」
「あ、そっちはまだ”ホット”かけてない……」
「すぐに戻るから平気!」

 アイラは言葉通り、ご飯の用意をしているうちに畑から戻ってきた。
それにしてもわざわざ指定するなんて、ピタパンのどこが気に入ったんだろう?
不思議に思って訊ねてみると、衝撃的な答えが返ってきた。

「だって、ピタパンを食べると体力が回復するんだもの」
「まさかの効率重視!? 味は? 味はどうでもいいの!?」
「味がいいのに越したことはないけど……。そもそも、レイちゃんのご飯の味に文句はないもの。ピタパンもイマイチって言ってたけど、私としては十分美味しいと思うし……」
「えー……」
「あたし的には、レイちゃんのご飯って、お店ご飯に近い感覚。だから、逆にこれくらいだと家庭的に感じるわよ?」

 私のご飯がお店レベル……?
褒めてもらえるのは嬉しいけど、過分な評価だと思う。
だって、学生が自分の食欲を満たすために作ってる食事だし。あんまり褒められすぎると、本職の人に申し訳ない。
……なーんて言っても、アイラに褒められるのは嬉しくて仕方がない。ついつい、頬が緩んでしまう。

「それはそれとしてね、レイちゃん」
「うん?」

 ふと思い出したようにアイラが呟く。

「明々後日くらいに、何種類か収穫できそう」
「収穫?」
「小松菜とか植えたでしょ。アレ、三日後くらいに採れそう」
「……なんか、早くない?」

 葉物野菜の育ちがいくら早くても、流石にちょっとおかしいんじゃない?
首を傾げていると、アイラは更に言い募る。

「まあ、魔法のある世界だからみたいよ。なにせ、”ウォーター”で出した濃縮魔力水と植物魔法の”グロウ”を使ったら、収穫予定日が二日づつ早まったんだもの」
「なんか、魔法ってすごいねぇ」
「ビックリしちゃうわよね」

 うんうん、あははと笑いを交わしあい、直後に二人して歎息する。
だって、ほら。地球じゃありえなかったことが起こるたびにビックリするのって、ちょっと疲れちゃうよね……
後で改めて聞いてみたら、どうやら水魔法と植物魔法のレベルも関係しているらしい。その可能性に思い当たって、植物魔法のレベルを急いで上げたんだと聞いて、素直に関心。
私、そんな仮定をして行動したことってないよ……
植物の育成に土魔法はどうだろうと訊ねてみると、彼女からは肥料を作れるようになってほしいと言われてしまった。
肥料。肥料ね……
それって、錬金術で作れるもんだろうか?
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