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”鉱物魔法”と姫ベッド

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 アイラが眠ってから一時間が経った。
いつもなら起きてくる時間なのに、一向に起きてくる気配がない。心配になって寝室に覗きに行ってみると、泣きながら眠ってた。
いたたまれなくて、そっと扉を閉じてそのまま一人で居間に戻る。

「……どうしよう」

 どうしたらいいのか思いつかないし、何かをして気を紛らわそうにも、アイラが泣きながら寝ている姿がチラついて手を付けることさえ出来ない。
結局私がやったのは、寝室の前に椅子を持っていってそこで待機することだった。
”ヒート”の有効時間が過ぎて周囲が寒くなってきたことで、やっと我に返り、居間に戻ってすぐに掘りごたつ(予定)の中に素材を放り込んで”錬金術”を開始する。

 作るのは、天蓋付きのいわゆるお姫様ベッド。手持ちの材料の関係から鉄製だけど、その分、ちょっと可愛く見えるように作ることにする。
結局、アイラが見えない場所で泣きながら寝てるから落ち着かないんだから、見える場所につれてきてしまおうという作戦です。
天蓋付きにしたのは、丸見え状態だと起きた後に気まずい思いをしそうだから。今は余分な布がないので、布のかわりに雪原草のわらを垂らす予定。
ちょっと、見た目はナンでアレだけど……実用性重視ってことでオネガイシマス。
出来上がったベッドを念の為に”検索”先生で確認してみると、問題が発覚した。

 ・天蓋付きベッド
  材質:鉄
  品質:普及品 上級
  強化可能回数:二回
  外観は可愛らしく仕上げられた、鉄製のベッド。
  マットレスがないので眠ることは出来ない。
  まだまだ、品質向上の余地が大きく残されている。
  鉱物魔法で改良が可能。

  品質の普及品って、可もなく不可もなくって感じだっけ?
まあ、普通に使えそうならいいかなと思いつつ、折角なので”鉱石魔法”での強化ってのを試してみようと思う。魔法で改良ができんだったら、ちょっとお手軽だよね。

 早速、”鉱物魔法”で、私が唯一使える”ハードニング”を使用。
”土魔法”にも同じ名前の魔法があるけど、こっちは鉄の類に限定されている魔法らしい。いわゆる、金属って思う物質全般ってイメージなんだと思う。
いつの間にか使えるようになってた”鉱物魔法”だけど、きっと”土魔法”の”ハードニング”のつもりで、無意識に使ってたからなんじゃないかと思う。
無事に魔法を掛け終わってから”検索”先生で確認すると、品質が劣化品一級に、強化可能回数の星が半分だけ黒くなって、『鉱物魔法での強化があと一回可能』に変更されていた。
え!? 改良じゃなくて、改悪されてる!?

 ・天蓋付きベッド
  材質:鉄
  品質:劣化品 上級
  強化可能回数:一回
  外観は可愛らしく仕上げられた、鉄製のベッド。
  鉱物魔法で硬化させてしまったため、柔軟性が失われた。
  使用には注意が必要だが、すぐに壊れることはない。
  鉱物魔法で改良が可能。

 少し悩んで、もう一度。
なんと、劣化品が粗悪品に格下げになりました。
え? なんで??
改良できるってなってるのに、粗悪品になっちゃってるの??
仕方がないので、もう一つ作ってそちらを使うことにする。
アイラを寝かせるのに改悪品を使う気にはならないし、そっちは材料に戻しておく。
寝台には、マットレスのかわりに藁戸を置いた。サイズ感も丁度いいし、特に凹凸のない板状だからうまい具合にハマってくれて一安心。
ちょっと可笑しくなったのが、お姫様ベッドが一気に和風の畳ベッド変わってしまったこと。これ、簀垂れで囲ったら完全にお姫様から離れちゃうよね。



 寝室で昏々と眠り続けているアイラを、使っていた寝具ごと回収してきてベッドに乗せる。眠るアイラが、今は涙を流していないことにホッとしながら目隠し代わりの藁カーテンを閉じた。
……なんか、ほぼ見えてるんだけど仕方ないよね。
とりあえず、アイラの尊厳を守るために、出来る範囲で頑張ったのが分かればいいと思います。

 アイラを居間に移動してきたことでちょっと落ち着いたので、ご飯の用意に取り掛かる。
もしかしたら、ご飯の匂いで起きてくるかもしれないし、花粉米もきちんと炊いておこう。起きてこなかったら、ピタパンで代用です。
ピタパンの残ってる分を早く消費して、新しく美味しい軽食を作る予定。……なんだけど、あと五回分か。ちょっぴり遠く感じるなぁ……

 夕飯に用意するスープ系でちょっと悩んで、またしても白菜を使う。
白菜の汁物、大好物なんだよね。なので、ついつい作っちゃうんだけど、今度はサラダも作ろうかな。
なにはともあれ、今日の白菜スープは水を殆ど使わずに作る方針。白菜から出る水分に鳥系のジョンスープの素と塩コショウ、それからほんのちょっぴりのオレガノ。
オレガノを入れると、ピリッとした胡椒の匂いに甘い香りが加わってほんわか柔らかなお味になるんだよね。
メインのお肉は、アイラが試食のときに残したスーフォスの肩肉。ちょっと、マトンっぽい独特な匂いがしたのが辛かったっぽい。
塩コショウと、オレガノを刻んだものを肉全体に擦り込んでから、フライパンでオニオンフラワーと一緒に炒めて終了。”浮遊諸島”では肉も生で食べれるから、焼き加減はレア気味です。
美味しく出来たけど、アイラは起きてこなかった。

 一人寂しく、スーフォスとオニオンフラワーの炒めものと一緒にピタパンを食べて飢えを凌ぐ。
わびしい……
家では、いつも一人で食べてたんだけど、やたらと寂しく感じる。ウチは客商売だったから、親と一緒にご飯を食べるのって定休日くらいだったんだよね。
この頃はいつも、アイラが元気に感想を言いながら食べてくれてたから、余計に寂しく感じるのかな。
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