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甘いものは正義
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結局、美味しいご飯と、レイちゃんが浮かべた心底ホッとした表情で、あっというっまに体力を使いすぎて連続で倒れたことを許してしまった。
我ながら、甘いわね。
またやらないように、しっかり釘は刺さないと。そう思って、色々言ってしまったんだけど……なんか、ちゃんと届いた気がしない。
あたしが寝ている間、ずーっと起きるのを待って徹夜をしていたというレイちゃんを布団に押し込み、あたしは畑作業に取り掛かる。
昨日、収穫をしていないのも手伝って、収穫物の量が多い。
二十株も収穫すると、体力がカツカツになってしまうものだから、ご飯を食べたばっかりなのに一休みして、竹茶とクッキーをモグモグ。
甘いお菓子は、やっぱり癒やされるわ……
大分体力も回復したからと、改めて収穫の続きに取り掛かったものの十五株で息が切れた。
これはまずい。雪原草なんて、植えるんじゃなかった……!
一気に三十株も植えちゃったもんだから、今のあたしが苦労してるのよね?
過去のあたしのバカバカバカ!
次にやる時は、もうちょっと数を考えなくちゃ……
済んでしまったことはもう仕方がないので、スッパリと諦める。早々に、収穫作業から植物魔法で成長を促進させる方に作業を切り替えて、魔力を回復させるためにお風呂に入る。
「うう~! 生き返るぅ~!!」
熱めのお湯に肩まで浸かると、ついつい声を出しちゃうのよね。でも、気持ちいいんだから仕方ない。お湯の中で思い切り伸びをして、ダラダラするこの幸福感。生きててよかったって感じよね。
そういえば、石鹸は作ってもらったけど、シャンプーをお願いするのを忘れてたっけ……
後でレイちゃんにお願いしないと。出来ることならリンスも欲しい。
こうやって欲しい物があれこれ頭に浮かぶたびに、日本って物に溢れていたんだとつくづく思う。実際には、石鹸やシャンプーなんて無くても身ぎれいにすることも出来るのに、それらがないとスッキリしない。今の状況に陥って思うのは、なんて贅沢な環境だったんだろうってこと。
ただ、用意に欲しい物が手に入る環境が、果たして幸福だったのかって言うと……ちょっと微妙な気もしてきてる。苦労して手に入れたものの方が、なんだかキラキラして見えるのよね。多分、色々な補正があった上での錯覚なんだろうけど。
お風呂から上がったら、まずは湯上がりの一杯!
――って言っても、竹の葉茶なんだけどね。なにはともあれ、気分を一新、体力ドーピングで畑仕事を再開する。
ハーブに取り掛かろうってところで、体力がヤバくなって竹茶を追加したのはレイちゃんには内緒だ。絶対、「無理しちゃだめ!」って自分のことを棚に上げて言い出すに決まってるもの。……あたしもか!
一人でノリツッコミをしつつ収穫を終えて、再度お風呂でサッパリしてから居間に戻る。畑仕事はどうしても汚れちゃうし、魔力も回復できるから一石二鳥。
仮眠をとる時に、魔力水を作って溜めておけばいざという時の備えにもなるし、魔法の熟練度もアップしていい感じなのよね。
自分育成ゲーム、楽しい!
居間に戻って真っ先に始めたのは、やりかけだったらカラムシの糸作り。こっちは、スービットの毛で作ったものよりも薄い生地を作るために細く紡ぐ。
毛織物の方は厚手の生地を作るつもりだけど、カラムシの方は薄手の生地にして下着や手ぬぐいを作る予定。下着があんまりにも厚手だと着心地が悪いものね……
下着として使う分は、サイズを合わせて編んだほうが着心地がいいかな?
普段着ているジャージやTシャツも、ニット生地で作られてる。ニット生地って、要は毛糸ではなく普通の糸で編んだ生地のこと。
そう考えれば、手で編めないこともないはずだ。むしろ、手で編むなら最初から体に合わせて作れる。……そっちの方が、糸が節約できていいかも。
なにはともあれ、下着で作るとしたらババシャツや股引的な暖を取るためのものを優先しなきゃ。
うん。まずは、二人分の長袖の上下を作って、それから防寒用の下着を作る。
他のものは、後回し!
方針を決めたら、長袖の上下を作るための生地づくりを開始。
カタン シャッ トントントン
綜絖枠を持ち上げると出来る糸の間に、シャトルを通す。
カタン シャッ トントントン
次は綜絖枠を下ろし、生じた糸の間にさっきとは反対側へ。
機織りって、この動作の繰り返し。
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
三種類の音が、リズミカルに繰り返されているうちに、少しづつ生地が織り上がっていく。
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
は!?
織っている間に、いつの間にか無心になっていたみたい。ふと気付いたら、レイちゃんが私の作業をじっと見守っていた。
「生地が出来ていくのって、なんか、面白いね」
「そうね……。今、軽く、トランス状態に入ってたわ」
「すごい熱中してた。声かけても気付かないんだもの」
レイちゃんにクスクスと笑われて、頬に熱が集まる。
うわ。今のあたし、絶対に真っ赤な顔してるわ。
恥ずかしいったら……!
動揺のあまり、思わず頬に手をあてて俯いたけど、次のレイちゃんの言葉でそんな気持ちは吹き飛んだ。
「あのね、アイラ。昨日のお詫びに作ってあったデザートがあるんだけど、食べる?」
「食べるわ」
食べないなんて選択肢、ある訳がない!
コクコクと頷くあたしに嬉しそうな笑みを向けたレイちゃんは、食料貯蔵庫からとろける甘さのミルクプリンを持ってきた。
許す!
全面的に許すわ!!
だって、甘いものは正義だもの……!
我ながら、甘いわね。
またやらないように、しっかり釘は刺さないと。そう思って、色々言ってしまったんだけど……なんか、ちゃんと届いた気がしない。
あたしが寝ている間、ずーっと起きるのを待って徹夜をしていたというレイちゃんを布団に押し込み、あたしは畑作業に取り掛かる。
昨日、収穫をしていないのも手伝って、収穫物の量が多い。
二十株も収穫すると、体力がカツカツになってしまうものだから、ご飯を食べたばっかりなのに一休みして、竹茶とクッキーをモグモグ。
甘いお菓子は、やっぱり癒やされるわ……
大分体力も回復したからと、改めて収穫の続きに取り掛かったものの十五株で息が切れた。
これはまずい。雪原草なんて、植えるんじゃなかった……!
一気に三十株も植えちゃったもんだから、今のあたしが苦労してるのよね?
過去のあたしのバカバカバカ!
次にやる時は、もうちょっと数を考えなくちゃ……
済んでしまったことはもう仕方がないので、スッパリと諦める。早々に、収穫作業から植物魔法で成長を促進させる方に作業を切り替えて、魔力を回復させるためにお風呂に入る。
「うう~! 生き返るぅ~!!」
熱めのお湯に肩まで浸かると、ついつい声を出しちゃうのよね。でも、気持ちいいんだから仕方ない。お湯の中で思い切り伸びをして、ダラダラするこの幸福感。生きててよかったって感じよね。
そういえば、石鹸は作ってもらったけど、シャンプーをお願いするのを忘れてたっけ……
後でレイちゃんにお願いしないと。出来ることならリンスも欲しい。
こうやって欲しい物があれこれ頭に浮かぶたびに、日本って物に溢れていたんだとつくづく思う。実際には、石鹸やシャンプーなんて無くても身ぎれいにすることも出来るのに、それらがないとスッキリしない。今の状況に陥って思うのは、なんて贅沢な環境だったんだろうってこと。
ただ、用意に欲しい物が手に入る環境が、果たして幸福だったのかって言うと……ちょっと微妙な気もしてきてる。苦労して手に入れたものの方が、なんだかキラキラして見えるのよね。多分、色々な補正があった上での錯覚なんだろうけど。
お風呂から上がったら、まずは湯上がりの一杯!
――って言っても、竹の葉茶なんだけどね。なにはともあれ、気分を一新、体力ドーピングで畑仕事を再開する。
ハーブに取り掛かろうってところで、体力がヤバくなって竹茶を追加したのはレイちゃんには内緒だ。絶対、「無理しちゃだめ!」って自分のことを棚に上げて言い出すに決まってるもの。……あたしもか!
一人でノリツッコミをしつつ収穫を終えて、再度お風呂でサッパリしてから居間に戻る。畑仕事はどうしても汚れちゃうし、魔力も回復できるから一石二鳥。
仮眠をとる時に、魔力水を作って溜めておけばいざという時の備えにもなるし、魔法の熟練度もアップしていい感じなのよね。
自分育成ゲーム、楽しい!
居間に戻って真っ先に始めたのは、やりかけだったらカラムシの糸作り。こっちは、スービットの毛で作ったものよりも薄い生地を作るために細く紡ぐ。
毛織物の方は厚手の生地を作るつもりだけど、カラムシの方は薄手の生地にして下着や手ぬぐいを作る予定。下着があんまりにも厚手だと着心地が悪いものね……
下着として使う分は、サイズを合わせて編んだほうが着心地がいいかな?
普段着ているジャージやTシャツも、ニット生地で作られてる。ニット生地って、要は毛糸ではなく普通の糸で編んだ生地のこと。
そう考えれば、手で編めないこともないはずだ。むしろ、手で編むなら最初から体に合わせて作れる。……そっちの方が、糸が節約できていいかも。
なにはともあれ、下着で作るとしたらババシャツや股引的な暖を取るためのものを優先しなきゃ。
うん。まずは、二人分の長袖の上下を作って、それから防寒用の下着を作る。
他のものは、後回し!
方針を決めたら、長袖の上下を作るための生地づくりを開始。
カタン シャッ トントントン
綜絖枠を持ち上げると出来る糸の間に、シャトルを通す。
カタン シャッ トントントン
次は綜絖枠を下ろし、生じた糸の間にさっきとは反対側へ。
機織りって、この動作の繰り返し。
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
三種類の音が、リズミカルに繰り返されているうちに、少しづつ生地が織り上がっていく。
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
カタン シャッ トントントン
は!?
織っている間に、いつの間にか無心になっていたみたい。ふと気付いたら、レイちゃんが私の作業をじっと見守っていた。
「生地が出来ていくのって、なんか、面白いね」
「そうね……。今、軽く、トランス状態に入ってたわ」
「すごい熱中してた。声かけても気付かないんだもの」
レイちゃんにクスクスと笑われて、頬に熱が集まる。
うわ。今のあたし、絶対に真っ赤な顔してるわ。
恥ずかしいったら……!
動揺のあまり、思わず頬に手をあてて俯いたけど、次のレイちゃんの言葉でそんな気持ちは吹き飛んだ。
「あのね、アイラ。昨日のお詫びに作ってあったデザートがあるんだけど、食べる?」
「食べるわ」
食べないなんて選択肢、ある訳がない!
コクコクと頷くあたしに嬉しそうな笑みを向けたレイちゃんは、食料貯蔵庫からとろける甘さのミルクプリンを持ってきた。
許す!
全面的に許すわ!!
だって、甘いものは正義だもの……!
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