レイとアイラの異世界雪山生活

霧ちゃん→霧聖羅

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盲点だったの

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「うわぁ……。なんで、今まで気づかなかったんだろ」

 畑でしゃがみこんだあたしの前にあるのは、大豆になるまで育てる予定だった、ついさっきまでサヤの中身がペッタンコだった枝豆だ。
まさか植えた後に、再度”ファーム”スキルを使うことで、更に成長を促進できるなんて思わなかった……
今までに無駄にした日数を思って、ガックリと項垂れた。効果があるのは、目の前のプックリと膨れた枝豆のサヤが証明してる。

「これ、レイちゃんに言われなかった気付かなかったなぁ……」

 なによりも、自分のスキルなのに上手く使えていなかったってことがとても悔しい。他の人に疑問を投げかけられて、はじめて試すなんてアホでも出来るもの。
あたしってば、思った以上にアホだったのね……



 ”ファーム”の再使用を試してみようと思ったのは、お昼ごはんの時にレイちゃんから投げかけられた質問が発端。

「そういえばさ、アイラは畑を結構広げてるじゃない?」
「明日になったら、キャベツやトマトも採れるわよ」
「え!? ほんと? 野菜類が充実してきて嬉しいなぁ……」

 明日になったら採れる予定のよく見る野菜の名前を上げると、レイちゃんは嬉しそうに顔をほころばせる。
うんうん。収穫後の食事が楽しみだわ。
頭の中であれこれ考えていそうな様子を見ながら頷いていると、ハッと表情を引き締めてからレイちゃんは心配そうに眉を寄せた。

「いや、それも嬉しいんだけど、あんまり沢山育てるのもアイラの体力が心配。無理してない?」
「無理……は、してないわね」

 基本的に、種か苗を作った時と、植える時の二回しかスキルを使っていない。むしろ現状は、成長を促進するために掛けている”グロース”と”魔力水”のための魔力のほうが厳しいくらいだ。
そう伝えると、レイちゃんは狐につままれたような表情になって首を傾げた。

「えう?? お姉ちゃんがハーブを育ててた時にも、意外と水やり以外の作業をしてた記憶があるんだけど……」
「水やり意外って、何をやってたのかしら?」

 ガーデニング的なことはしたことがないけど、ハーブ類ならいくつか育てたことがある。あたしがやってたのは、庭の一角に植えて水をやるだけ。
今とやってることは変わらない。

「一応、虫がついたり病気になることもあるみたいで、ちょこちょこ弄ってた……と思う。ただ、美味しく食べる方に夢中だったから、詳しくはないんだけど――」

 レイちゃんはそう言って、苦笑を浮かべた。

「それって、今と同じかんじ?」
「だねぇ」

 クスクスと笑い合ってから、レイちゃんは話を続ける。

「まあ、そういう記憶があったから、アイラが毎日スキルを使ってると思って心配してたんだよね」

 杞憂で良かったと笑うレイちゃんの晴れやかな表情とは裏腹に、あたしの心の中は穏やかじゃない。
だって、食べ物のことよ?
食べ物関連のことだったら、あたしよりもレイちゃんの方が詳しいんじゃない?
そもそも、あたしが育てたことがあるのって、ハーブの中でも育てやすいっていうものだけ。しかも、よく思い出してみると、双子の弟の方が面倒を見てたような気もする。ヤバい、ちょっと自信がなくなってきたわ……

「あたし、さっき作ってもらった苗を植えるついでに、ちょっと試してみるわ」
「??」

 何を? と言わんばかりの表情で首を傾げるレイちゃんには笑顔を返す。
ダメで元々、イケたらラッキー!
うん。この方針で行こう。
これが一番害がない。



 ってな訳で、冒頭につながるんだけど……
なんだか、自分にガッカリぷーよ。
いちごの苗を見つけて浮かれて、収穫までの日数に落ち込んでたせいで、他にも作れる果物があることにも気づけてなかったし。その上、服を作る方にばっかり頭がいってて、布団のことなんて考えてなかったし。
もう、視野が狭すぎてダメダメだわ……!

 ちょっぴりやさぐれつつ、新しくレイちゃんが作ってくれた苗を植え付ける。
新しい苗は塩キウイ・クランフラワー・ベリーフラワーの三つ。
塩キウイは名前から想像がつく通り、塩蔦との掛け合わせ。葉っぱが塩の結晶でキウイの実が生るお得な植物ね。
後の二つはどちらもオニオンフラワーとの掛け合わせ。クランフラワーはクランベリーと、ベリーフラワーは木苺だ。どちらも花が終わった後にクランベリーや木苺の実が生るようになったらしい。これも、一粒で二度美味しい系かしら?
でも、花を摘んだら実がならないような気もするし、要確認ね。

「アイラー?」
「はーい?」
「汗を流したいから、お湯ちょうだい」
「了解。すぐ行くわ」

 途中でお茶を飲んで体力を回復しながらスキルを使っていたものだから、いつの間にかレイちゃんの鍛錬が終わってしまったらしい。
まだ、スキルを使っておきたい苗はあるけど、ここで一旦お終いにして、後で続きをやればいいわね。
あたしは、使ってた道具を片付けてお風呂に向かう。

「レイちゃん、あたしはこれから寝るつもりだけど、何かしておくことってある?」

 お風呂にお湯を張ってから訊ねると、レイちゃんは「う~ん」と言いつつ首をひねる。

「あ、負担にならない程度に『魔力水』っていうのがもらえると嬉しい」
「どれくらい?」
「とりあえず、沢山」

 随分とふわっとした希望だと首を傾げつつ、魔力の含有量についても確認してみると、こっちはどうやらレベル1相当。
何に使うのか不思議に思いつつ、レイちゃんの”データストレージ”にジャバジャバジャー。

「寝る前にお手間おかけしました」
「これくらいなら、お安い御用です」

 丁寧に頭を下げられたので、それに習ったお礼返し。
面白いことなんて何一つやってないのに、二人して同時に吹き出す。

「それじゃ、アイラは初の羽根布団体験だね」
「ふふふー♪ レイちゃんもお昼寝する?」
「むぅ……。魅力的なお誘いだけど、やることが山積みだからなぁ……」

 まぁ、なにか心積りはあるだろうと思いつつお誘いしてみたけど、やっぱり予定があるらしい。

 あたしは脱衣所でレイちゃんの着替えを洗ってから、お昼寝タイム。
まだ、敷布団がイマイチだけど、ちゃんとした掛け布団とベッドがこんなに寝心地が良いなんて思わなかった。
早いところ、敷布団の改良も考えなくちゃ。
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