秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
12 / 80
第一夜

★生産施設

しおりを挟む
 リリンはイカ下足君から聞いた情報をすぐにでも試したそうな素振りを見せたものの、私のレベル上げの方を優先する事にしたようだった。

「いいのかね?」
「んー……。生産はアルと一緒にやれるようになってからの楽しみに取っておく。」

 そう答えた彼女の表情に嘘は見えなかったので、私はそれで納得する事にした。
確かにそれも一理ある。
一緒に試行錯誤するのもまた、楽しみの一つだ。
私達はせっせとクエストを受けては達成する事を繰り返し、レベルを上げて行った。
 クエストを請けるための移動の合間に話し合って、リリンが体力回復用の『調理』だからと、私の生産スキルは精神力を回復するアイテムを作成できる『調薬』を取得する事に決まった。
 探索スキルは、彼女は『食材採集』と『糸採取』で、私は『薬材採集』と『解体』に。
解体に関しては、ゲーム外で行う事が出来る物の、現実のものとの差異に対応できないという判断で取得の決断をした。
実際に取得してみると、LV1では『植物解体』と言う物でウサギの解体は出来ないと分かって落胆したのだが……。
ただ、このスキルを使う事で、薬草やハーブと言う大雑把な分類にされていた代物の仕分けが出来たのでこれはこれで良いと言う評価に落ち着いた。
 戦闘系は、彼女が前衛を努めると言って『杖術』と『盾術』を取り、私は『回避』を選択。
魔法スキルに関しては、『火』と『水』の魔法を彼女に取得して貰い、私は『風』の魔法を取得する事になった。



「やっと、生産に入れるね~♪」
「うむ。」

 彼女のネコ尻尾は、機嫌のよさを示してゆらゆらと楽しげに揺れている。

「君は本当に、物を作るのが好きなのだな。」
「だって……ゲームの中でとはいえ、自分の作ったものを喜んで使って貰えるのって嬉しいじゃない?」

 その時の事を想像したのか、口元がニマニマと緩んでいる。
他のゲームの時もそうだったが、彼女は本当にそういった楽しみ方が好きなのだ。
自分の世界で私はモノ作りを生業としているものの、そういう感情を抱いた事がなかった為、初めは戸惑ったものだが、今は少しだけその気持ちが分かってきたような気がする。
だからこそ、心の底から嬉しげな様子で物作りに対する情熱を語る彼女の姿が、素直に可愛らしいと感じられた。

「君の、そういう所に私はとても惹かれるのだな。」

 思わずポロリと、そんな言葉が口から飛び出した。
頭の中で思うだけにしておこうと思っていたのに。
案の定、その言葉を聞いた彼女は顔を赤らめて尻尾をピンと空に向かって突き立てた。
私は、足の止まってしまった彼女をドサクサに紛れて横抱きにすると、生産施設のある場所へと足を向ける。途中でハッと我に返った彼女に降ろすよう言われたが、聞こえないふりでやり過ごした。




 生産施設は、町の北西寄りの門にほど近い場所にある巨大な建物の中にあって、周りの建物と比べると少し異質にみえる。
この施設を使用する際の決まりごとは、入場する際の利用料100Gで1時間の間だけ中の施設を使用でき、利用時間を過ぎた分は後で追加徴収されると言うものだった。
成程、これなら思いの外早く作業が終わっても余分に取られる金額が少なくてすむ上に、施設側としても取っぱぐれないと言う訳らしい。
私達は入り口で利用料の100Gを支払うと中の施設へと向かう。
 建物の中には、生産スキルの種類に併せた大部屋が幾つか用意されており、それぞれの入口で必要になる各種小道具の販売がされている。
リリンは調理施設の入り口でフライパンを購入すると、品物と一緒に紙を一枚受け取った。

「それは?」

 何か書いてあるように見えたので訊ねてみると、彼女はその紙をピラピラさせながら笑顔を浮かべた。

「これはね、レシピ。」
「レシピ……かね?」
「生産用の道具を買うと、道具に応じたレシピを1枚くれるの。」
「ほう。」
「なんか、ランダムらしくてね?最初に買った奴は『目玉焼き』のレシピが付いてきたんだけど、今度のは『シュタールラビットソテー』だって。」
「『調薬』で作れるのはハーブティとなっているのだが、同じ場所で作業できるのかね?」
「問題ございません。」

 私の疑問の答えは、リリンではなく目の前の販売員NPCからもたらされた。
言われるままに大きなヤカンを購入すると、リリンが貰ったものと同じ様な紙が渡される。


☆生ハーブティの淹れ方☆
材料 生ハーブ1束 / お湯 4L / 水筒 20個


 サッと目を通してみると、材料に含まれている水筒が足りないので買い足す事にした。
カップ一杯分の飲み物が入るサイズの水筒は、100個1セットで100Gで、一つ当たりの金額に直すと随分と安い。この1セットの購入で5回分作れる様だ。
念の為、ヤカンの方の情報も確認してみると、今購入した夜間は10回しか使用できない事が分かった。
ゲームではよくある消耗品の扱いかと納得すると、リリンの後に着いて調理室の中へと進んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...