秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
14 / 80
第一夜

★たけ

しおりを挟む
 初めて作って見たハーブティの味は何とも悲惨なものだった。
リリンは「あー、なるほどねー」と呟きながら飲んでいるが、こんなものを彼女に飲ませるのはちょっと許容できない。

「うーん……。砂糖とか入れて見たら少し飲みやすくなるかも?」
「成程。」

 中空を見上げながら、改善案を上げてくれた彼女の言葉にのってみる事にした。
甘味を追加するのは確かに悪くないかもしれない。
手持ちのハーブはあと2束だ。
1束は砂糖を追加して……、良さそうだったら追加を、もう少し改善できそうならば他の手を考えてみる事にしよう。

 まずはヤカンに水を入れ、火に掛ける。
ところで、この水を入れる為の道具(?)というか、『水道』という名称の施設が私の世界にある湯浴みの為の魔導具と少し似通っていて、その類似性が面白かった。
地球世界には魔法がないそうだから、何かの仕掛けでこういったものが作れるのだろう。
魔法があまり流通しない様にと情報規制をされている私の国でも、こういったものがあると生活が便利になるのかもしれないな、とふと思う。
仕組みが分かればあちらでも作れそうだが……。
気が向いたら、インターネットで仕組みを調べてみるのも良いかもしれない。

 ぼんやりと考えごとをしている間に湯が沸いた。
火を消して、ハーブを1束そのまま投入して数分待つ。
作業はたったこれだけだ。
 その数分の間、せっせとラビットソテーを作るリリンを眺めて過ごす事にする。
料理をするのがよっぽど楽しいのか、口元に笑みを浮かべながら耳とピコピョコ。尻尾をゆらゆらさせている彼女の姿はいくら見て居ても見飽きない。
何と可愛いのだろう。
だが、同じ姿の女性がいたと仮定してみても、そちらには何の感情も湧かないのはどういう事なのか?
 ハーブを取り出す時間になって、ヤカンからしんなりしたソレを取り出すと、砂糖を入れる。
この砂糖。砂糖というのは、甘味料の一種だそうだ。
私の世界で甘味料の類は、割と高額な嗜好品になっている。
私の住まう町は、少し特殊な環境である為入手は簡単である物のそれでも、調味料として一般的に普及する程に流通している訳ではないのだ。
それが、このゲーム内では『施設内で自由に使える』様になっていると言うのは、地球世界では嗜好品では無く一般的に流通している調味料という位置づけだと言う事を示している様に思われる。
国が違えば物も違う。
等と言うらしいが、世界が違えばもっと違うと言う事なのだと、思い知らされた気分だ。
 味見をしながら砂糖を足してみると、少しえぐ味や草臭さはあるもののなんとか飲める味になってくれた。これなら、リリンに飲ませても問題ないだろう。
そこそこ満足できるものになったので、小分けにスイトウと言う入れ物に入れていく。

「そう言えば、リリン?」
「ん? どしたー??」
「君の世界で液体を持ち運ぶのには、こういったスイトウと言う物が主流なのかね?」
「んんんんん? どういう意味??」

 コレは困った。私の訊ね方が悪かったらしく、彼女に聞きたい事が伝わらなかったらしい。
首を傾げる彼女に、意図する事を伝えようと試みる。

「私の世界では、水を入れて運ぶのは木製の樽や皮製の袋なのだが、これはどちらでもない様に見えるのだ。」
「おおう! そういう方向かぁ!」

 彼女はポンと手を打つと、私の手の中の筒に目を向けた。

「アルが買ったのは、竹の水筒みたいなんだけど……。竹ってアルの世界にはあるかな??」
「たけ……?」

 たけと言うと、アレだ。
私が両手を使って、高さを示して見せると、彼女は不思議そうにソレを見詰めた後、吹き出した。

「違う違う! アルのソレは、『丈』だよ~!」
「たけ……『丈』?」
「そう。主に、縦方向の長さを表す言葉だよ。高さって言い変えてもいいかな?」
「ふむ……。『丈』の理解は間違っていなかった訳かね?」
「うん。『丈』の理解は間違ってないね……。」

 また、笑いの発作が襲ってきたのか、口元を押さえながら彼女は肩を揺らした。
スイトウとやらの高さで間違いは無いらしい。
となると、彼女の口にした『たけ』と言うのは……??

「む……? もしや、『たけ』と言うのは、この入れ物の材料か材質の事かね?」
「せいかーい!」

 リリンは良く出来ましたとばかりに、笑みを浮かべると背伸びをして私の頭をポンポンと軽く叩いた。


くち……
唇が近い。


一瞬、それに引き寄せられそうになったものの、咄嗟に思いとどまった。
急にそのような事をして、嫌われてしまったら泣くに泣けない。
そうでなくても、彼女は先程から不意に抱きついてきたりするから、危険なのだ。
私の理性が少し悲鳴を上げ始めてるのだが、涙を呑んで気を引き締める。

「その水筒の材料が『竹』なの。」
「……『竹』?」
「うん。ちょっと幾つか貸してね?」

 彼女はそう言って、スイトウを3つ程手に取ると、1本の棒になるような具合に立てて見せた。

「こんな具合に生えてる植物なんだけど……。多分、木の一種?」
「ほう。中は最初から空洞なのかね?」
「そうだよー! だから、昔から水を入れるのに使ってたみたい。他にも色んな雑貨が作れるらしいよ?」

 『竹』から作れるという小物を、指折り数えている彼女の姿があんまりにも可愛らしすぎて、ついつい手が伸びてしまう。
そのまま、胸の中に閉じ込めると「きゅぅ?」とリリンは目を丸くして呟いた。
キョトンと見詰めるその表情がもう、堪らなく愛おしい。
思わず頬ずりをすると、彼女は「くすぐったいよ?」と、クスクス笑い出した。


理性?
彼は長い旅に出たようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...