上 下
66 / 200
大きくなる村と迷宮

277日目 月末作業

しおりを挟む
 マーティン魔法具工房とジョエル魔法薬工房が出店して来て初めての、月間売り上げの集計をする日。
閉店してからお姉さん方が返った後の工房で、売り上げの集計と在庫の棚卸を行う。
集計はコンカッセのお役目で、在庫管理はアッシェのお仕事になる。
私のお役目は、2人の仕事の確認だから間違えるわけにもいかないし責任重大だ。

 まずはコンカッセが集計している間に、アッシェと一緒に在庫の確認をしに地下の倉庫に向かう。
地下の倉庫はコンカッセの作った魔法具で温度と湿気が管理されている。
そのせいもあって、今の時期は少し暖かく感じる。
在庫表を持ったアッシェと二人で、種類ごとにきちんと作成日順になっているかを見ながら、数を確認していく。
在庫は全部アッシェ特製の容器に入れて保管してあるとはいえ、良い状態を保てるのは半年。
なので、作成日が古いものから出荷しないといけないので、出しやすい場所に一番古いものを置く様にしてある。

「家庭用デラックスおっけー。治療薬おっけー。高速治療薬おっけー。えーと…治療丸……おっけー。」

 アッシェは指差し確認しながら、数の確認をしていく。
魔法薬は問題なさそうだ。
魔法具の確認に移る。
こっちは結構煩雑だ。
一応は保管されている箱に用途が書かれているものの、種類も数も多いんだよね。
特に『洗浄』先生…。
ちなみに、アッシェもコンカッセも『風』の属性が使えないから『温風』や『涼風』の魔法具は作れないんだよね。作れると結構アタリそうなんだけど、ちょっと残念。
私が作ってもいいんだけど、最長で3年しかここにいる予定じゃないので今のところ保留中だ。

 魔法具の次は素材のチェックに移る。

「薬草系は問題なしですー。」
「じゃあ、次は魔法具の素材チェックだね。」
「ですぅー」

 ところでウチでは魔法具の素材は、主に魔物の骨を使っている。
使う場所は、基本頭の部分。
頭の骨は、一番魔力の馴染みが良いので探索組には優先して採って来て貰っている。
 ちなみに骨を使う理由としては生物素材の方が魔力が馴染み易いというのが一つ目。
その次の理由としては、この辺りで金属が採れないが二つ目。
見た目は格段に良くなるんだけど、買うと結構高いんだよね…。
素材が高くつくという事は、売値も高くしないといけないって事だから安く済む方を優先しちゃってる。
三つ目は、アッシェもコンカッセも生物素材の加工を同じレベルで行えるというところだ。
金属の加工はアッシェが少し苦手で、植物の加工はコンカッセの方がイマイチなんだよね。
両方とも地の属性の物なのに不思議だけど、地の属性には下位属性みたいなものがあるのかもしれない。
敢えて名称をつけるとしたら『植物』属性とか、『金属』属性とかいったかんじなんじゃないかと思う。

 他の事を考えつつも確認を終らせ、在庫と表に差異が無い事を確認すると、アッシェとお疲れのハイタッチを交わして工房に戻ると、コンカッセはアスラーダさんにお茶を淹て貰ったモノを飲みながら私達が戻ってくるのを待っていた。

「在庫は問題なかったですー」
「集計も終わった。」
「2人ともお疲れ様。」
「二人とも一服すると良い。」
「ありがとう。」
「ありがとですぅ」

 私達はアスラーダさんが追加で淹れてくれたお茶を飲みながら、集計の報告に耳を傾ける事にする。

「集計の結果は、商品全般的に売り上げは上昇を続けてる。他店舗が入ったから、売り上げが落ちるかと思っていたのに、他店舗が入った後も落ちてない。ちょっと意外。」
「あー、確かにお店に来る人も減ってはいないですー。」
「まぁ、来年にはもう1軒開店するからね。」
「そしたら、もう少し変わるですかねー?」
「もう少しだけ、落ち着くと助かる。」

 急にお客さんが増えて来ているせいもあってか、二人も結構疲れて来ているらしくてそんな事を言い出した。特に最近は2層の解放もあってか、探索者の人数が随分増えて来ているみたいだから、ちょっとだけ客層的な問題も出て来ているからそのせいもあるかもしれない。
あとは、今の主力に注いでいる分を他の物を作るのに回したいのもあるのかな?
アッシェは衣類、コンカッセは装飾品を作りたがっているから、そっちの方が強いかも。

「そういえば、来月になったらりえらせんぱいは長期休暇ですねー。」
「グラムナード、いつ行く?」
「うーん…。ちょっと遠いから往復するだけでも半月コースなんだよね…。なんか、やたらとジョエルさんが顔出すし、どうしようかと思ってるんだよ…。」

 そう、出店して来たジョエルさん。
何故だかやたらとウチの店に顔を出すんだよね…。
主にお昼の時間に。
いや、何故かって言うと語弊があるか。
ジョエルさんはコンカッセをお昼に誘う為に来てるんだから。

「ああ…。」
「りえらせんぱい目当てじゃないから、居なくても平気ですー。」

 あからさまに嫌そうな顔になるコンカッセとは対照的に、アッシェは明るく私の心配を切り捨てた。

「お姉さん達も分かってくれてるから大丈夫ですぅ。」
「ん…。なんとかする。心配せず、セリス先生に会うと良い。」
「有難いけど…良いの…?」
「いいですぅ!」
「来月の半ばから一月行ってくると良い。」
「ですですー。」
「「帰ってきたら、また1週間休みをもらえれば!」」

 最後には仲良くハモりつつ、私に長期休暇を勧めてくれる2人についつい笑ってしまう。

「分かった。じゃあ、来月の半ばから1カ月、グラムナードに行ってくるね。」
「ん。楽しんでくると良い。」
「せりすせんせーに、流行の服をお届けお願いするです―!」

 そう言いながら嬉しそうに笑う2人は凄く楽しそうだ。

これなら大丈夫そうかな?

 アスラーダさんに視線を向けると、少し何かを考えていた彼が微かに頷いた。
しおりを挟む

処理中です...