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輝影の支配者
828日目 溝の正体
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その日の口伝を聞き終えると、信じたくない様な内容を聞かされ続けて疲労困憊といった様子のアスラーダさんを引きずる様にして、部屋へと引き取った。
部屋に戻ると、ソファに頭を抱えて座りこんでしまった彼にお茶を用意して、食事の支度に向かう。
アスラーダさんが頭を抱えてしまいたくなる気持ちは分かる。
分かるけど……。
深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、調理道具を用意して材料を刻んで行く。
暫くすると彼もやって来て、一緒にご飯の用意を手伝ってくれる。
ただ、それだけだったんだけど。
これといった会話をする訳で無くても、なんだか気分が落ち着いた。
私も思ったより衝撃を受けていたらしい。
彼と違って、フーガさんからの口伝の内容にではなく、アスタールさんが話してくれていなかったアレこれに対してだけど。
食事が終って、2人でソファに座る頃には、会話をする余裕が生まれた。
口伝の内容については、後回しで、少し気を引き立てる話題を暫く交わす。
「明日は、トーラスが来るんだったか。」
「ミーシャお養母さんも来るって言ってたけど……、大丈夫なのかなぁ……。」
「いや、身重だし置いてくるだろう?」
「……そうだといいんだけど。」
アトモスを発つときの彼女の顔を思い出すと、ちょっと自信が無いかも。
来る気満々! って顔をしてたし。
「お腹の赤ちゃんに触りが無ければどっちでもいいんだけど。」
私の呟きに彼も同意しながら、やっと微かな笑みを口の端に浮かべる。
「……今日の話……どう思った?」
「婚姻の儀が終わったら、一発ぶん殴ってやろうと思います。」
「誰を?」
私の過激発言に、彼は目を丸くした。
立ち上がってお腹に一発入れる練習をしながら「アスタールさん」と答えると、プッと吹き出す。
失礼な。
私は真剣です。
「その、『輝影の支配者』については?」
「ああ。それを今まで教えてくれてなかったのでお腹にパンチ一発です。」
「神の一柱だって聞いた後でも、か?」
「アスタールさんはアスタールさんじゃないですか。」
再び落ちた沈黙の後、ポツリとアスラーダさんが私に訊ねた。
双子の弟が、知らないうちに神様にされてしまっていたとか言われても、『なんだそりゃ』って感じだよねと思っていたら、意外とそれはすんなりと受け入れているらしい。
先代様が神様でも今更なんの驚きも無いと言う位、先代様を信仰しているから?
そのくせ、アスタールさんが神の一柱だと言うのには妙に怖気づくのは何故だろう?
「なんで、そんな事を言い出したんですか?」
アスラーダさんの膝の上によじ登って視線を合わせると、彼は気まずそうに視線を逸らす。
「俺が王都で育ったのは知っているだろう?」
「ラヴィーナさんのところで育てられたんですよね?」
「ああ。祖父が死んで、初めて葬儀の為にグラムナードに戻って来たんだ。……その時、『何だ、生きてるんじゃないか』って思ったのを思い出した。」
「生きてたんですか?」
「いや。祖父だと思った相手は、俺の事を『兄上』と呼んだ。」
「先代様と、アスタールさんを間違えたんですか?」
「気持ちが悪い位、瓜二つだったんだ……。」
確か、アスラーダさんが王都に連れて行かれたのは5歳か6歳の時だった筈だ。
そのまま先代様が亡くなるまで戻っていなかったという事は、10年以上もの間2人は顔を合わせて居なかった事になる。
魔力の高い人は10代後半くらいで成長が止まるから、成人したアスタールさんが先代様にそっくりだったとしてもおかしくはないという訳か……。
あ。
そう言う事か。
アスラーダさんが、アスタールさんが神様の一柱にされてしまったらしいと聞いても、違和感を感じなかった理由は、『先代様』がそうだったなら、そっくりな『アスタール』さんがそうであっても何もおかしくないという先入観か。
「まさかと思いますが、その後、なんとなく加害者意識みたいなものが出来たり……」
そこまで口にしたところで、あからさまに目を逸らされた。
あるのか。加害者意識。
割と仲の良い兄弟だと思ってたんだけど、ここでも先代様か……。
「それに、アイツは 『錬金術師』だし……」
「私も・ 『錬金術師』ですが?」
言い訳じみた言葉への私の返答に愕然とした彼の表情を見て分かったのは、私が錬金術師だって事なんて『考えた事も無かったらしい』という事。
彼にとって、私は『リエラ』でしかなかったという訳だ。
私としてはとても嬉しい事だけど……。
それと同時に、私に対するのと同じ様に、あの人を見てあげてくれれば良かったのに、と思わずには居られない。
きっとあの人は、久しぶりに再会した兄の態度がおかしい事にも、そして、その原因にも気が付いてしまったんだろう。
殆どの情熱を、異世界に振り向けてしまっている彼だけれど、あれで身近な人の事は良く見てる。
多分、『自分』を見てくれる人を探して、だ。
悲しい事に、トールちゃんと私くらいしかそう言う相手は居ないらしいけれど。
アッシェやコンカッセと、もっと交流させてあげたらよかったかなぁと今更ながらに思う。
あの2人がもっとアスタールさんと個人的に交流していたら、もしかしたら少しは孤独感を和らげて上げられたかもしれないのに。
こうしておけばよかったって事は、いつも後になってから思いつくものなんだよね……。
それにしても……。
アスタールさんとアスラーダさんの間にある微妙な溝というか、壁というかの正体は『先代様』か。
ほんと、『先代様』はロクでもない……。
部屋に戻ると、ソファに頭を抱えて座りこんでしまった彼にお茶を用意して、食事の支度に向かう。
アスラーダさんが頭を抱えてしまいたくなる気持ちは分かる。
分かるけど……。
深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、調理道具を用意して材料を刻んで行く。
暫くすると彼もやって来て、一緒にご飯の用意を手伝ってくれる。
ただ、それだけだったんだけど。
これといった会話をする訳で無くても、なんだか気分が落ち着いた。
私も思ったより衝撃を受けていたらしい。
彼と違って、フーガさんからの口伝の内容にではなく、アスタールさんが話してくれていなかったアレこれに対してだけど。
食事が終って、2人でソファに座る頃には、会話をする余裕が生まれた。
口伝の内容については、後回しで、少し気を引き立てる話題を暫く交わす。
「明日は、トーラスが来るんだったか。」
「ミーシャお養母さんも来るって言ってたけど……、大丈夫なのかなぁ……。」
「いや、身重だし置いてくるだろう?」
「……そうだといいんだけど。」
アトモスを発つときの彼女の顔を思い出すと、ちょっと自信が無いかも。
来る気満々! って顔をしてたし。
「お腹の赤ちゃんに触りが無ければどっちでもいいんだけど。」
私の呟きに彼も同意しながら、やっと微かな笑みを口の端に浮かべる。
「……今日の話……どう思った?」
「婚姻の儀が終わったら、一発ぶん殴ってやろうと思います。」
「誰を?」
私の過激発言に、彼は目を丸くした。
立ち上がってお腹に一発入れる練習をしながら「アスタールさん」と答えると、プッと吹き出す。
失礼な。
私は真剣です。
「その、『輝影の支配者』については?」
「ああ。それを今まで教えてくれてなかったのでお腹にパンチ一発です。」
「神の一柱だって聞いた後でも、か?」
「アスタールさんはアスタールさんじゃないですか。」
再び落ちた沈黙の後、ポツリとアスラーダさんが私に訊ねた。
双子の弟が、知らないうちに神様にされてしまっていたとか言われても、『なんだそりゃ』って感じだよねと思っていたら、意外とそれはすんなりと受け入れているらしい。
先代様が神様でも今更なんの驚きも無いと言う位、先代様を信仰しているから?
そのくせ、アスタールさんが神の一柱だと言うのには妙に怖気づくのは何故だろう?
「なんで、そんな事を言い出したんですか?」
アスラーダさんの膝の上によじ登って視線を合わせると、彼は気まずそうに視線を逸らす。
「俺が王都で育ったのは知っているだろう?」
「ラヴィーナさんのところで育てられたんですよね?」
「ああ。祖父が死んで、初めて葬儀の為にグラムナードに戻って来たんだ。……その時、『何だ、生きてるんじゃないか』って思ったのを思い出した。」
「生きてたんですか?」
「いや。祖父だと思った相手は、俺の事を『兄上』と呼んだ。」
「先代様と、アスタールさんを間違えたんですか?」
「気持ちが悪い位、瓜二つだったんだ……。」
確か、アスラーダさんが王都に連れて行かれたのは5歳か6歳の時だった筈だ。
そのまま先代様が亡くなるまで戻っていなかったという事は、10年以上もの間2人は顔を合わせて居なかった事になる。
魔力の高い人は10代後半くらいで成長が止まるから、成人したアスタールさんが先代様にそっくりだったとしてもおかしくはないという訳か……。
あ。
そう言う事か。
アスラーダさんが、アスタールさんが神様の一柱にされてしまったらしいと聞いても、違和感を感じなかった理由は、『先代様』がそうだったなら、そっくりな『アスタール』さんがそうであっても何もおかしくないという先入観か。
「まさかと思いますが、その後、なんとなく加害者意識みたいなものが出来たり……」
そこまで口にしたところで、あからさまに目を逸らされた。
あるのか。加害者意識。
割と仲の良い兄弟だと思ってたんだけど、ここでも先代様か……。
「それに、アイツは 『錬金術師』だし……」
「私も・ 『錬金術師』ですが?」
言い訳じみた言葉への私の返答に愕然とした彼の表情を見て分かったのは、私が錬金術師だって事なんて『考えた事も無かったらしい』という事。
彼にとって、私は『リエラ』でしかなかったという訳だ。
私としてはとても嬉しい事だけど……。
それと同時に、私に対するのと同じ様に、あの人を見てあげてくれれば良かったのに、と思わずには居られない。
きっとあの人は、久しぶりに再会した兄の態度がおかしい事にも、そして、その原因にも気が付いてしまったんだろう。
殆どの情熱を、異世界に振り向けてしまっている彼だけれど、あれで身近な人の事は良く見てる。
多分、『自分』を見てくれる人を探して、だ。
悲しい事に、トールちゃんと私くらいしかそう言う相手は居ないらしいけれど。
アッシェやコンカッセと、もっと交流させてあげたらよかったかなぁと今更ながらに思う。
あの2人がもっとアスタールさんと個人的に交流していたら、もしかしたら少しは孤独感を和らげて上げられたかもしれないのに。
こうしておけばよかったって事は、いつも後になってから思いつくものなんだよね……。
それにしても……。
アスタールさんとアスラーダさんの間にある微妙な溝というか、壁というかの正体は『先代様』か。
ほんと、『先代様』はロクでもない……。
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