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俺達の決まりごと

ダンの事情 その2

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 最初はそいつに話しかけるつもりなんてなかったんだ。
そいつは、ギルドの入り口の階段でしょぼくれた顔をして座り込んでた。
ぼんやりと空を見上げながら腹を鳴らしてるその姿を見て、ちょっと、同情したってのが正直なところだ。
「おい、お前!」
そういって肩を突いて振り向かせると、頬に俺の指が刺さった。
ほんと、不用心だなぁ。
ジョブとか関係なく、冒険者なんてやってたらすぐに死んじまいそうだ。
「…なんだよおまえ…」
ジト目で俺を見るそいつが、受付嬢の言っていたジョーダンAだろう。
「俺はジョーダン。今日、冒険者登録をしたところだ。」
二カッと笑いかけながらソイツに言った。
「ジョーダンってのは俺の名前だ!」
「俺もジョーダンって言うんだよ。」
ビッ!と自分を差して言う、ソイツに俺は苦笑いしながら言った。
「同じ罠師仲間だしさ。奢るから飯でもどうだ?」
ソイツが誘いを断る訳がなかった。
『グ~!』
とは言え、返事は口じゃなく腹から聞こえた。
「どこまでも付いて行くぜ!兄貴!」
「誰が兄貴だ。」
誤魔化す為なんだろう、ちょっと顔を赤らめて言った言葉に即座に突っ込みを入れた。
一瞬の沈黙。
顔を見合わせて同時に吹き出す。

おもしれー!
こういうノリでやってける相方なら、いてもいいかもな。

「ま、行こうぜ兄弟!」
ソイツの肩を軽く叩いて先に立って歩き出す。
背後で慌てて立ちあがって追いかけてくる足音を聞きながら、
少しこれからが楽しみになった気がした。

 食事をしながら分ったのは、こいつは勘も性格も悪くない物の頭が悪すぎるって事だった。
んで、ノリが良い。
うん。ノリが良いのは良い事だ。
こう言っちゃなんだが、頭が悪いのが一番の難点だな。
こいつのギフトの方が俺よりよっぽど使えそうなのになぁ…。
とはいえ、俺のバナナトラップとの相性は良さそうだ。
実験と称して、二人で狩りに出かける事にした。
まぁ、その前にギルドで実験対象になるマジックラットの討伐依頼も請けておく。
これでただ働きにはならないだろう。

 狩りで分かったのは、コイツは戦闘行為が滅茶苦茶苦手だって事だ。
武器がその辺で拾ったらしい棒きれだってのを置いといても、かする事すらないってどうだ…。
俺も得意な方じゃないんだが、それと比べてもひどすぎた。
マジックラットを見つけて、ようやっと倒すとコイツはこう抜かしやがった。
「すげえ!兄貴!!あっという間に真っ二つにしちまった!!!」
いやいやいや。
目が腐ってんのか??
どうみたって、苦戦してただろう…。
真っ二つにもなってないしな…。
運良く飛びかかってきたマジックラットの頭が、咄嗟に盾替わりにし損なった剣にめり込んで自滅してくれたってだけだ。
どう考えてもかっこ良くないだろう…。
取り敢えず、さっさとマジックラットを解体して金になる部分を残してコイツに渡す。
「モンスターホイホイ、使ってみてくれよ。」
「おうともさ!」
コイツは剥き身のマジックラットを手に取るとギフトを使った。
「マジックラットホイホイ」
そうするとマジックラットが発光すると同時に消えて、ネズミの顔の刻まれたコインに変わった。
「これがモンスターホイホイか?」
「みたいっす。この後どうするんさ?」
ほんと、コイツは自分で考えようとしないんだなと、いっそ感心しながら
「ここでやってみるか。」
と言ってバナナトラップを使えるように準備を始める。
「それは手に持ってないとダメだったりとかするのか?」
「いや、コインのところに寄ってくるみたいだから持ってたら危なそうっす。」
「離れてても使えるんだな?」
「10M以内にいれば大丈夫みたいっす。」
俺の質問への答えはまずまず満足がいくものだった。
俺はマジックラットホイホイを軽く埋めると、その上にバナナトラップを仕掛ける。
バナナトラップの良いところが一つだけある。
それは倒れ方と倒れる方向の指定が出来るって事。それから効果時間が長くて1時間位は効果が続くって事だな。時間を短くする事もできる。
問題は、殺傷力がないって事なんだが、それに関しては倒れるポイントに刃を出したナイフを埋めて補えるかどうかってところだな。
取り敢えず、ナイフを刃を5センチくらい突きだすようにして埋めてみた。
この位置に仰向けに転んだネズミの頭が来るはずだ。
「じゃあ、実験開始だ。」
俺の言葉によって実験が始まった。
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