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『正しい』
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「また、例の件を蒸し返されてな…。」
「ああ…。例の件ですか。」
「そろそろ、アスタールのところでも外に出せるレベルの弟子が育ったらしい。来年以降ならば実行は可能になるがどうする?」
「では、母自身に資金の提供をさせながら舵取りをする方向でどうですか。」
灯りを抑えた、豪奢な薄暗い部屋でそんな会話が交わされていた。
公の場では主従の関係である彼等も、私的な場ではただの…と言うと語弊はあるものの、伯父と甥という立場になるのだが、今はその私的な時間だった。
『自分が苦労する訳じゃないと思って…。』
アスラーダは同席はさせられているものの、その場での発言権はなくその歯がゆさに唇を噛んだ。
同席させられているのは、彼等の思惑に沿う様に自分に誘導させるためだと言うのが分かっているからこそ余計に苛立たしい。それを断る事が出来ない自分の立場にもまた腹が立つ。
そして、それを二人とも分かってやっているに違いないのだ。
「王都近辺を希望するだろうが、それではあまり意味がないですね。王都は十分繁栄しているし…。」
「アレは確か、大森林の側の開拓村に良く滞在しているのではないか?」
「確かに。あそこならばあの人も文句は無いですね。」
彼等が話しているのは、片方にとっては実の母親の事であり、もう片方にとっては実の妹の事だ。
彼女の気性を良く知っている彼等は、自分達の思惑に近くなるように事を運ぶ算段に夢中で、その傍らにいる彼の事など歯牙にもかけていない。
ただ、彼が彼等の計画を聞いて、理解させるのが重要なようだった。
「そうそう。王立学園に来てくれそうな教師についてはどうですか?」
「弟夫婦が最近、孤児院から養子をとったお陰で外の町に興味が出てきたらしいから打診しているところだ。」
「奥方も?」
「夫婦揃って、だな。」
「ならば、魔法学科と調薬学科の増強も…。」
「養子の為にと推しておく。」
「ありがたい。」
『セリスの親まで引っ張り出す気か…。』
目的を為す為だと言われても、巻き込まれる人間の側としては納得できるものではなく憤りを感じた。
そもそもが、目的と言うのが良く分からないのだ。
『錬金術を正しく広める』?
『魔法の在り方を正しく広める』?
どちらも、500年もの間たった一人の人間-アスラーダにとっての祖父-がそれを阻み続けて居た事で、学ぶ事が許されなかったモノだ。
それでも見よう見真似で必死に学び続けてやっとの事で今の状態に辿り着いている。
まだ、技術的に見れば未熟かもしれないものの、だからこそ逆に違う進歩の方向が現れている様に思えるて、その方向性が『間違っている』から『正さなくてはいけない』ものだとは思えなかった。
だからこそそれを今さら『正しい』知識、とやらを広めると言う事に、彼は矛盾を感じて仕方がない。
ただ、それらの両方を学んだ立場からすると、片方しか学ぶ機会が与えられないと言うのも不幸なものに感じられ、それが彼を悩ませている。
彼等の思惑に踊らされる事になる叔母が、とても哀れに思えるのもこの計画について納得しかねる理由の一つでもあった。
だがそれ以上に彼の心を苛むのは、この計画とやらによって使い捨てにされかねない『彼女』の事。
彼女がどんなにうまく立ち回ったとしても、矢面に立つ事になってしまう事を思うと胸が押しつぶされる様な心地になる。
彼女に危害が及ぶかもしれないと言うのは、考えるだけでも厭わしい。
そんな事態にならないよう、アスラーダは彼等の計画を理解する事に意識を集中した。
それが『彼女』を守る手段につながる事を期待して。
「ああ…。例の件ですか。」
「そろそろ、アスタールのところでも外に出せるレベルの弟子が育ったらしい。来年以降ならば実行は可能になるがどうする?」
「では、母自身に資金の提供をさせながら舵取りをする方向でどうですか。」
灯りを抑えた、豪奢な薄暗い部屋でそんな会話が交わされていた。
公の場では主従の関係である彼等も、私的な場ではただの…と言うと語弊はあるものの、伯父と甥という立場になるのだが、今はその私的な時間だった。
『自分が苦労する訳じゃないと思って…。』
アスラーダは同席はさせられているものの、その場での発言権はなくその歯がゆさに唇を噛んだ。
同席させられているのは、彼等の思惑に沿う様に自分に誘導させるためだと言うのが分かっているからこそ余計に苛立たしい。それを断る事が出来ない自分の立場にもまた腹が立つ。
そして、それを二人とも分かってやっているに違いないのだ。
「王都近辺を希望するだろうが、それではあまり意味がないですね。王都は十分繁栄しているし…。」
「アレは確か、大森林の側の開拓村に良く滞在しているのではないか?」
「確かに。あそこならばあの人も文句は無いですね。」
彼等が話しているのは、片方にとっては実の母親の事であり、もう片方にとっては実の妹の事だ。
彼女の気性を良く知っている彼等は、自分達の思惑に近くなるように事を運ぶ算段に夢中で、その傍らにいる彼の事など歯牙にもかけていない。
ただ、彼が彼等の計画を聞いて、理解させるのが重要なようだった。
「そうそう。王立学園に来てくれそうな教師についてはどうですか?」
「弟夫婦が最近、孤児院から養子をとったお陰で外の町に興味が出てきたらしいから打診しているところだ。」
「奥方も?」
「夫婦揃って、だな。」
「ならば、魔法学科と調薬学科の増強も…。」
「養子の為にと推しておく。」
「ありがたい。」
『セリスの親まで引っ張り出す気か…。』
目的を為す為だと言われても、巻き込まれる人間の側としては納得できるものではなく憤りを感じた。
そもそもが、目的と言うのが良く分からないのだ。
『錬金術を正しく広める』?
『魔法の在り方を正しく広める』?
どちらも、500年もの間たった一人の人間-アスラーダにとっての祖父-がそれを阻み続けて居た事で、学ぶ事が許されなかったモノだ。
それでも見よう見真似で必死に学び続けてやっとの事で今の状態に辿り着いている。
まだ、技術的に見れば未熟かもしれないものの、だからこそ逆に違う進歩の方向が現れている様に思えるて、その方向性が『間違っている』から『正さなくてはいけない』ものだとは思えなかった。
だからこそそれを今さら『正しい』知識、とやらを広めると言う事に、彼は矛盾を感じて仕方がない。
ただ、それらの両方を学んだ立場からすると、片方しか学ぶ機会が与えられないと言うのも不幸なものに感じられ、それが彼を悩ませている。
彼等の思惑に踊らされる事になる叔母が、とても哀れに思えるのもこの計画について納得しかねる理由の一つでもあった。
だがそれ以上に彼の心を苛むのは、この計画とやらによって使い捨てにされかねない『彼女』の事。
彼女がどんなにうまく立ち回ったとしても、矢面に立つ事になってしまう事を思うと胸が押しつぶされる様な心地になる。
彼女に危害が及ぶかもしれないと言うのは、考えるだけでも厭わしい。
そんな事態にならないよう、アスラーダは彼等の計画を理解する事に意識を集中した。
それが『彼女』を守る手段につながる事を期待して。
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