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妊娠
しおりを挟む目を開けると、見た事がない場所だった。
身体が重くて動けない。
顔だけ横を向いたら、お母さんとお父さんが目を真っ赤にして横に跪いて私の手を握っていた。
「お父…さん、お母…さん…」
「麻美、良かった…良かった…」
お母さんはボロボロ涙を溢して泣いている。
お父さんはなにか難しい顔をしていた。
「お前は、急に倒れて救急車で運ばれた。
ここは病院だ。何も食べていなかった事と…ストレスからだろうという事だ。
後・・・麻美…お前は、妊娠しているそうだ。」
「妊・・・娠…?」
「ああ妊娠2ヶ月だそうだ。」
「2ヶ月…」
「とにかく、今は眠りなさい。落ち着いたら、帰って良いそうだ。」
「もう…かえる…」
「麻美、もう少し休んでからにしよ、ね?」
「家に帰りたい…」
「分かった、先生に聞いてくる。」
父が病室を出て行くと、母が、
「麻美、家に帰ったらゆっくりしよ。何も考えんとゆっくりしよ。」
「お母さん…ごめんね、いっぱい心配かけてごめんね…」
「心配するんは、お母さんの仕事やもん、良いよ」
「お母さん…私、遠くに行きたいなあ…」
「遠く?何処に?」
「知らない人しかいない所。もう、何もしたくないんだよね、私…少しの間だけ行っちゃダメかな…もう…疲れちゃった…」
「麻美・・・・」
お父さんが戻ってきて、先生の許可が出たから帰ることになった。
足に力が入らない私は車椅子に乗せられて、車にはお父さんが抱っこして乗せてくれた。
家に着いた時も、抱っこされてリビングのソファに下ろされた。
気付けば夜で、弟はまだ帰っていないのかいなかった。
夕食は、やっぱり食べられなくて、スポーツドリンクだけちびちび飲んだ。
「あ、食べられないのは悪阻だからか…」
と私がボソッと言うと、お父さんが、
「麻美…」と私の名を呼ぶが、何も言えないのか、黙ったままだった。
「陸は?遅いね…」
「陸は用事があるって言ってたから、今日は帰らんよ、何かあるん?」
「ううん、陸いないなって思っただけ。
お父さん、明日、式場のキャンセルしに東京行ってくるよ。佐々木の両親にも挨拶してくるから。職場も迷惑かけてるから…。一日で終わらなかったら、ホテルに泊まって次の日にするから。
大丈夫だから、心配しないで、ね?」
「そんなん、お父さんとお母さんがやるから麻美は東京なんか行かなくていい!」
「ちゃんと私がやらないと。明日は平日だから式場に彼が来るとは思わないし、佐々木の家にも昼間は来ないと思うし。」
「じゃあお父さんも行くよ、一緒に行こう。」
「ううん、それだけは私がやるから。引っ越しはお願いしていい?あの部屋に入るのは、ちょっと嫌かな…。
全部捨ててもいいんだけどね…」
「付いていくだけでもダメかな?お父さん、心配で眠れないよ。」
「お母さんも麻美一人では行かせられないな。お父さんも行くならお母さん、安心するんだけど。」
「心配かけてごめんなさい…。でも、一人で行かせて。今、一人でやらないともう何にも一人で出来なくなりそうなの。
お父さん、お母さん、お願い。お願いします。」
と頭を下げた。
「麻美、陸が今東京にいるんだよ。式場のキャンセルは本人じゃないとあかんらしい。
だから、部屋の解約の手続きを今日はしたらしいよ。だから、東京で陸と一緒にいるなら一人で行ってもいい。
仕事はどうする?同じ所では雅彦くんが来ると思う。」
「陸、東京にいるんだ…分かった、陸といるから東京行っていいかな?」
父と母をなんとか説得し、次の日、始発の新幹線で東京へ向かった。
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