15 / 41
振り返ろう、一人で
しおりを挟む「ハア、疲れた。お昼は朝の残り食べよか。」
そう言いながら、瑞希が部屋から出てきた。
「うん、あっためるよ。待ってて。」
おかずを温めてテーブルに並べる。
二人でお昼ご飯を食べながら、
「瑞希、私高知に行こうと思うの。瑞希の仕事の邪魔しちゃうし、だから住所教えてくれるかな。」
「決めた?良かった!待って今、送る!」
「新しい携帯の方?」
「うん、麻美のはもう使わないでしょ?」
「お母さんとかの移したいから、私の貸して。」
「うん、分かった。急がなくていいよ、落ち着いたらあたしも行くよ。」
「ううん、一人で行けるから。のんびり行くし。」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。瑞希は仕事して。」
「うーん、着いたらちゃんと連絡してよ!」
「分かってる。チケット取れたら行くよ。」
「飛行機、大丈夫?妊婦さんにはあかんのちゃう?」
「そうだね、でも、長時間バスはキツイな…」
「じゃあ電車かぁ~結構乗り換えあるけど、どうする?」
「逆に気分悪くなったらすぐ降りれるから電車にしようかな。」
「じゃあ、切符予約しよう!」
「大丈夫、それくらい自分で出来るし、のんびり行くから、予約はやめとくよ。」
「いいの?大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
明日の朝、出発する事になった。
そして、朝6時に瑞希の家を出た。
瑞希は、何回も一緒に行くと言ってくれたが、大丈夫だからと断り続けた。
「ごめん、子供じゃないから大丈夫だとは思うけど、なんか心配だから…。とにかく着いたら電話してね、絶対だよ!」
と何度も念を押した。
瑞希のマンションを出た後、新大阪までタクシーで行き、新幹線で岡山まで行って、高松行きの快速に乗ったら、あっという間に高松に着いた。
意外と早い…。
お昼には早いが、何も食べていない。
駅の近くのファストフード店に入り、飲み物とポテトを頼み、スマホの電源を入れた。
瑞希からのメッセージがたくさん来ていた。
最近の癖でつい電源を切ってしまっていた。
急いで返信すると、すぐメッセージが来た。
“携帯電話の意味ないし!心配した!”
と短いけど、心配してくれているのが分かる。
ごめんと謝り、今、休憩中だと送ると、
そこからまた電車に乗るけど気をつけてとすぐ返事がきた。
では行くかと、店を出て駅に戻り、目的地までの切符を買い、途中で乗り換え、瑞希の家に着いたのは、お昼もとっくに過ぎた頃だった。
大きくはないが今どきの家だった。
庭もあり、一人で住むには大きすぎるほどだ。
家の鍵を開け、中に入ると、家具には布がかけられ、使っていない事が分かる。
とりあえず、リビングに行き、窓を開け、空気を入れ替えた。
布を外し、ソファに座って、ようやく一息つけた。
あ、瑞希に連絡しないと!
スマホを出し、瑞希に電話をした。
「麻美、着いた?」
「今着いた。高松からが長かったね。」
「そやね、でも良かった、ちゃんと着いたんやね。」
「うん、こんな綺麗な家、汚すん勿体無いわ」
「ええよ、そんなん、勝手にあるもん、使って。」
「ありがとう、少し、疲れたから、また後で連絡する。」
「分かった~」
ホントに休もうと、ソファに横になると、すぐに眠ってしまった。
1時間ほど眠った後は、自分が寝る部屋の換気をし、カバーを外した。
それ以外の部屋は使わないので。
台所に行き、冷蔵庫を見ると、水とビールは入っているが、その他は何もはいっていないので、食料を買いに外に出た。
少し歩けば、スーパーもあるし、コンビニもある。
確かに便利だ。駅からも遠くない。
小学校や公園もある。
子供を育てるには向いてるだろう。
それでも、ここには住めない。
スーパーに入り、飲み物と食べられそうな物を買った。
周りの景色を見ながら、ゆっくり帰り、荷物をしまった後、お風呂に入った。
お風呂を出ても、外の音以外、何も音がしない一人きりの空間にホッとした。
あの日から今日まで、一人になる事がなかった。
側にお母さんや陸、瑞希がいてくれて、安心出来たが、やっぱり一人になりたかったんだと実感した。
いろんな事があり過ぎて、整理がついていなくて、どこから考えればいいのか分からなくなっていたが、ようやく一人でじっくり考えられる。
みんなに心配かけているのに、一人になり、ホッとしている自分は、我儘で勝手な人間なんだなぁと思う。
でも自分で決めたかった。
子供の事も、これからの事も、あの二人の事も。
今夜はあの日の事から考えよう、誰にも頼らず、一人で耐えよう。
でないと、ここから逃げ出せないから。
81
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる