私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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こういう時の男達は役に立たない

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臨月になり、予定日も近付いた。
ウチもそうだが、佐々木家もソワソワしているようで、お義母さんからは、メッセージが何度も来ては、「全然まだまだ」と送り続けている。
雅彦は陣痛が始まったら休暇を取るらしく、
暇さえあれば、
「来た?陣痛来た?」
「来ないって何回も言わすな!」
と喧嘩腰で返信している。

実家でも同じで、
「麻美、来たか?まだ来ないのか、陣痛は!」
父から何回もメッセージがくる。
母は落ち着いてるかと思えば、
「男親はダメやね~」
と言いながら、母がコーヒーを飲もうとコーヒーメーカーにコーヒーをセットして飲もうとした物はただの白湯だった。
コーヒー豆を入れていなかった…。

ただ一人冷静な陸も、家族の緊張が移ったのか、大学とは逆方向の電車に乗り、遅刻ギリギリだったとか…。

周りがそんなだから、私は逆に落ち着いた。
予定日当日の朝、それは突然やってきた。

「お母さーーーん、来たかもーーー!」
と階段は危ないと一階の客間で寝起きしていた私は、朝早くから叫んだ。

バタバタと廊下を走る両親と弟。

陸が雅彦にすぐ電話をしてくれた。
おそらく佐々木の両親にも伝えてくれただろう。

今のうちに、と朝食を食べさせられる。

「うーーーー痛いと食べたくなくなる…」

「食べれる時に食べんと力入らんから。」
と母に言われるが、お腹を壊した時のように、時折襲ってくる痛みは、不快だ。

病院に連絡して、心配ならもう来てくれてもいいとの事で、みんなで病院に行った。

父は有給を取り、陸は今日は大丈夫!とか言って付いてくれている。

子宮口はまだまだ開いていないので、すぐではないが、鈍痛は辛い。腰も痛い。

急に眠くなり、眠っても痛みで起きる。
トロトロしてると、病室の外で誰かが怒られている。
嫌な予感がする…

「麻美?」と顔を出したのは雅彦、後ろにはお義父さんとお義母さん。

「何怒られてたの?」

「三人で走ってきたら、廊下を走らないって怒られた。妊婦さんにぶつかったらどうするのーーって…。」

「そうだね、気をつけないとね。」

「麻美ちゃん、どう?どれくらい開いた?」

「まだ全然です。ひょっとしたら今日じゃないかもしれません…」

「初産だものね、2日位かかる人もいるからね~、眠れる時に眠って、食べれる時に食べるんだよ。」

「はい、でも腰と時折来る鈍痛が辛いです・・・」

「腰さすろうか?雅彦、麻美ちゃんがして欲しい事は何でもしなさい!」

「分かってる!麻美言ってね、俺、何でもするから。」

「うん、・・・・・・・・・ありがとう。」

「痛いの?どうすればいい?お腹さする?
お水飲む?どうすればいいの?」

「雅彦…一緒に母親教室行ったのに、覚えてないの?」

「今は何にも思い出せない!心配で吐きそう・・・」

「お義母さんとお義父さんは何か食べたんですか?もうお昼ですけど。」

「俺達は新幹線の中で食べたから大丈夫だよ、麻美ちゃんは何か食べたの?
そういえば谷川家の皆さんは?」

「全員お昼を食べに行ってます。」

「じゃあ待ってたら来るね。」

「麻美、何かしてほしいことある?」

「今はないかな・・・・・ウッ・・・痛い…」

「麻美、痛いの?ど、どうすればいい?どこ摩ればいい?」

「腰、腰・・・」

「腰?腰だね」サスサス…

「違う!押して!」

「押す?何処を?」

「腰!」

「もう変わりなさい、お母さんやるから。麻美ちゃん、気持ちいいとこ教えてね。」

「あ、あ、そこ!そこです!」

「ここね。」

「俺、俺がやりたい!」

「次やりなさい。」

「ハアーーーー痛い、出したい!」

「まだよ、今は力まないでね。」

「うーーー、早く力入れたい!」

「もう少しだからね、頑張れ。」

「俺、お義母さん、呼んでくる!」

「まだ大丈夫だし、もう来るわよ、あんたは麻美ちゃんの気を紛らわしなさい。」

「分かった。麻美、名前どうする?アレでいいの?」

「名前?うーーーーー、名前はー決めたヤツで良い!」

「そうだね、どうしよう、もう何話して良いか分からん。」

その時、助産師さんがが来て、

「ちょっと子宮口見ますね~」
と言ったのでお義父さんと何故か雅彦までお義母さんに廊下に出されていた。

「今3センチですね、全開まではまだかかりますから、眠かったら寝てくださいね。
食事も水分も取って下さいね。」

うわあ、まだまだなんだぁ・・・

ウチの家族も戻ってきたので、病室は満員状態だ。

お腹と腰の痛みを堪えてはトロトロ眠り、バナナを食べ、また痛みに耐えを繰り返し、

「佐々木さん、ほぼ全開ですから分娩室に移動します。」

「麻美、頑張れ!ずっと応援してるから!」

「麻美、頑張りや!もう少しで赤ちゃんに会えるから!」

「麻美ちゃん、頑張ってね、みんな待ってるからね!」

「姉ちゃん、頑張れ!」

「麻美ちゃん、頑張るんだよ、大丈夫だからね、みんないるからね!」

「麻美、頑張れ!頑張れ!頑張れ!」

「頑張ってくるね、待ってて。」






〈家族控室の会話〉

「もう1時間です…大丈夫でしょうか…」

「初産だもの、そんなに早くはないわよ。」

「どうか麻美も子供も無事に生まれてきますように・・・」

「姉ちゃん、きっと分娩室で怒鳴ってんだろうなあ~“痛いって言ってのよーー”とか。」

「あ、言いそう。“早く出てこいやーーー”とか言ってそう。」

「あんた達は麻美を分かってないね~麻美は、“いったーーーーーーーい!”よ!」

「どうか麻美も子供も無事でありますように…」

「麻美ちゃんは普段そんな口調なんですか?」

「いえいえ、そんな事ないですよ、ほら、お産の時は誰でも口が悪くなるから!ねえ、佐々木の奥さん!」

「そうよね、お産の時はそりゃあもう口汚くなるもの。」

「そういうもんなんだ…」

それから2時間経過・・・

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

「順番で休憩しましょうか?」

「そうね、喉も渇いたし、じゃあ私達が先に行きましょうか、貴方行きましょう、ほら、雅彦も!」

「嫌だ!俺は残る!」

「そんな強制しないわよ、行くなら一緒に行こうっては・な・し!」

佐々木夫婦は休憩。

「麻美は大丈夫でしょうか…もう3時間です…」

「何回おんなじ事言ってるん!初産は時間がかかるって何回ゆうた?」

「だって…」

「あんな、私が麻美産んだ時は、12時間かかったの!それでも早い方!私と一緒に入院してた人は24時間以上かかった人もおったよ、途中で陣痛止まったとかで。」

「「「陣痛が止まる⁉︎」」」

「ダメです、嫌です、俺、耐えられません!」

「なら帰れ!」

「麻美…頑張れ…麻美…頑張れ…麻美…」

「お父さん!やめて!呪いみたいだから!」

「ヤダ!やめない!」

「ホンットに血も繋がってないのにあんた達二人はよう似てるわ~~」

「陸、ウチらお茶かなんか飲みに行こ!」

「俺も行かない。」

「え?なんで?」

「なんかあったらやだから。」

「嘘やん・・・陸が?」

「出産なんて初めてやし、見たことも聞いたこともないし、いつ生まれるかも分からんやん!今生まれたら一番に甥っ子見られへんかもしれんし!」

「なんで旦那より早く叔父さんに会わせると思ったん?多分、みんなで新生児室のガラス越しに見るんだよ!一斉に分娩室になんか入れてくれないから!」

「え?そうなんですか?」

「あんたはホントに・・・まあいいよ、もう。」





それから2時間後に産まれた可愛い男の子は2590gだった。













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