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しおりを挟む『親愛なるシャルーナ
君に最後に会ってからもう1ヶ月も経ってしまった。
会う事も出来ず、謝る事も出来なくてすまなかった。
謝っても許してはもらえないことは分かっている。
自分でも自分が許せないのだから。
シャルはもう、俺の顔も見たくはないだろうし、話す事も近寄られるのも嫌なんだろうな。
それでもシャルに謝りたくて手紙を書いている。
シャル・・・
ごめん。
裏切ってごめん。
でも俺が愛しているのはシャルーナだけだ。
シャルだけを愛している。
シャルに捨てられたら生きていけない。
ずっと許さなくていいから、捨てないで…。
シャルはもう俺なんか嫌いになったかもしれないけど、
離婚したいかもしれないけど、
何年掛けてでも償うから。
シャルが許してくれるなら、あそこを切っても構わない。
どうかどうか俺を捨てないで、お願い、お願いします。
あまり長い手紙は読んでもらえないだろうから今回はこれで終わるよ。
もし聞きたい事があるなら、全て話すから。
正直に全て話すよ。
これから毎日手紙を書くつもりだから。
返事は書いても書かなくてもいいからね。
ロビンは元気だろうか?
大きくなったのかな?
季節の変わり目は体調を崩しやすいから二人とも気をつけて。
愛してる。
シモン』
「フゥ・・・」
幼い時からずっと大好きだった夫からの手紙を息を詰めて読んでいたようで、読み終わった時に長く息を吐いた。
手紙を持つ手も小刻みに震えていた。
婚家から生まれて3ヶ月の息子と実家に帰ってから1ヶ月。
それまで考えないようにしていたのに今日義父から渡された、夫シモンからの手紙。
両親は読む必要などないと捨てられそうになった手紙をなんとか渡してもらい、一人時間をかけて読み終えた。
封を切るまでに1時間、手紙を開くまで1時間、夫の字を見ては涙を溢し、ようやく読み終えたのは受け取ってから3時間は経っていた。
ほんの1ヶ月前までは幸せだった。
あの日ほんの少し早く帰っただけなのに、その時から私の中にある、怒り、憎しみ、嫉妬、軽蔑、嫌悪、そして悲しさがいつまでも消えない。
眠れば夢に見、目覚めればあの時の二人を思い出す。
考えないようにと、今はひたすら息子のロビンの世話をしている。
実家に戻ってすぐの頃は、食欲もなく、睡眠もろくに取れず、息子のロビンの世話もろくに出来ない状態だった。
両親と兄夫婦が私の代わりとばかりにシモンに対して激怒しており、今まで聞いた事がないような台詞が飛び交っていた。
でもその言い様が可笑しくて、逆に私が宥めるようになった。
そのおかげで段々落ち着いてきていた。
そんな時に届いたシモンからの手紙。
お義父様とお義母様が昼間実家を訪れた。
義両親は二人で私達に頭を下げて謝罪した。
悪いのは全てシモンで、決定権は私にあるのでシモンとリリアの処罰を決めて構わないと言ってくれた。
一応、リリアは規律の厳しい罪を犯した女性が行く修道院に行かせようかと思っているが、それで納得いかなければ改めて罰を与えても構わないと言われたが、リリアに対してはそれで良いと伝えた。
シモンの事は今は何も考えられないので、もう少し時間が欲しいとは言ったが、今後例え戻ったとしてもこの事を忘れる事はない。
よりを戻しても今までのような関係には二度と戻れない事は分かっている。
でも・・・文句の一つも言わずに離婚なんかしたくない、けど今は会いたくない。
そういう意味で時間が欲しいときちんと伝えた。
ゆっくり決めて欲しいし、シモンに文句を言うつもりだとしても、一度も会わずに離婚にならなくてホッとしたと義父が言った。
父と兄は苦虫を噛んだような顔をしていたが、何も言わなかった。
そして義父は手紙を出した。
「シモンが何度も書き直してやっと書いた手紙らしい。
二度と会えなくなったとしても、離婚だけはしないで欲しいと言っていた…。
決めるのはシャルだとは言ったが、土下座して頼んできた。
別れるとしても一度だけでも何ヶ月、何年経ったとしても会ってやって話しを聞いてやって欲しい…こんな頼みが出来る資格もないが考えてやって欲しい。
お願い致します。」
そう言って義両親は頭を下げて帰って行った。
テーブルに置かれた手紙を、父は顔を真っ赤にして破り捨てようとするし、母は穢れるから触ってはダメだと手紙を叩き落とし踏みつけていた。
義姉は汚物処理するかのように手袋をして拾い上げ、「生ゴミに捨ててきます!」と走って行こうとしたところを、兄が止め、
「アンナ、そんなばっちいもの、私に渡しなさい!私が適切に処理するから!」と兄の手に渡った所で、
「私宛の手紙を勝手に処理しないで!」と奪い取った。
最初は読むつもりはなかった。
どうせ長ったらしく言い訳をズラズラ並べ立て、ひたすら謝っている内容の手紙を今読む必要があるとは思えなかった。
それでも読もうと思ったのは、見慣れてる文字が微かに歪んで見えたから。
震える手を必死に抑えながら書いたような文字を見ていたら、内容が気になった。
悩みに悩み、読み終えた感想は、
“愛しているならどうして”だった。
どうしてああなったの?
止まらぬ涙を止める術は今の私にはなかった。
こんな状況になってしまったあの日、少しでも早くシモンに会いたくて予定よりもかなり早く屋敷に到着した。
それがこんな事になるなんて思ってもいなかった。
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