手紙〜裏切った男と浮気を目撃した女が夫婦に戻るまで〜

jun

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許さん! ガウル視点

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孫夫婦に起こった魅了事件がひと段落したと思ったらシャルーナの大怪我と記憶喪失。
シャルーナが落ち着いてきたので心配だったがいつまでもいられないので帰ってきた。

こちらに戻って1ヶ月ほど経った頃、兄上経由でマシューからの手紙を受け取った。
読めば今度はシャルーナの実家が魅了に堕ちたと書かれていた。

「またか⁉︎何をやっとるんだ、隣国は⁉︎捕まえたんじゃなかったんかあー!どれだけ孫夫婦を苛むつもりなんじゃあーーーー!」

急に大声を出したわしに驚いたサランドラだったが、叫んだ内容を聞いて何が起きたのか分かったのだろう、急いでわしの荷造りを命じた。

サランドラも行きたかったらしいが、今回はわしだけの方が動きやすいだろうからと残る事になった。

荷造りが終わると護衛を置き去りにし、愛馬に跨り孫夫婦のいる隣国に向かった。

今回は兄上と隣国国王から正式に魔法行使許可をもらった。
前回、あの小娘に浄化魔法を使った事は正当防衛という事で隣国では目を瞑ってもらったが、兄上には死ぬほど怒られた。
兄上曰く、「ぶちかましてこい!」的な事が手紙に書かれていたので、思う存分ぶちかまそうと思っている。いや、ぶちかます!

わしは“魅了”という魔法が本当に許せん!
好きでもない人間を無理矢理好意を持たせるなんぞ、悪魔の所業だと思っている。

そんな魔法をわしの可愛いシモンに使い、シモンが溺愛する嫁のシャルーナの目の前で浮気を見せつけるような性交をさせ、さらにシャルーナの家族にまで手を出すとは、どれだけわしを怒らせたいというのか⁉︎

どれだけ孫夫婦が傷付いたことか・・・。

その事を思うと泣けてくる。

「うおーーー、シモン!シャルーナ!今行くぞーーーーー!」

次から次から溢れる涙は、馬で駆けるわしの後方に飛び散る。

「許さん!許さんぞーーーーー!」

わしの愛馬の休憩時に自分も仮眠を取り、食事も馬の上で取り、とにかくかっ飛ばし最速でフォックス侯爵家に到着すると、愛馬から飛び降り、屋敷に駆け込んだ。

「シモーーーン、シャルーナーーー、ワシがお前達の仇を取ったるぞーーーー!
シモン、何処におる?何処じゃーーー」

突然現れたわしに皆が驚いておったが、何やら人が集まっておる場所に走って向かうと、男を拘束している奥に、血を流すシモンがいた。

「シモーーーーーーン!」

あまりの怒りに魔力が爆発した。

すると拘束していた男が泡を吹いて倒れた。

そんなものは無視してシモンに近寄ると、シャルーナがパニックを起こしていた。
シモンの名を呼び続け、泣いている。

医者が鎮静剤を打ちすぐに眠ったが、涙の跡が痛々しかった。

シモンを自室に運び、治療をした後わしの“癒し”の力で回復力を上げた。

その間、誰もわしにはなしかけてはこなかった。
自分でも分かる。
あまりにもわしが怒っていて魔力が溢れてキラキラ光っておるのだろう。

滅多にないが、激怒するとこうなる。
クラリスもマシューも知っておるから黙っておるのだろう。

眠っているシモンをしばらく見ていた。
前に見た時より窶れているシモン。
クラリスに似て、整った顔のシモンは窶れているせいか儚げに見える。
あまり浄化したら消えてしまうのではないかと焦り、やっと怒りがおさまった。

「義父上・・・ありがとうございました。」

マシューが後ろから声をかけてきたので、
「何があった?説明しろ。」

来賓室でマシューから話しを聞いた。

何から何まで腹ただしい。

「マルティノ侯爵家に行く。必ずあの屋敷の中に醜い心根の犯人がおる。
見極めに行くぞ、マシュー。」

また魔力が溢れ出すが、知ったことか!

愛馬は休ませ、馬を借りてマルティノ侯爵家に向かう。

マシューやクラリスが叫んでいたが、

「わしはもう我慢ならん!
こんな醜悪な事件聞いた事ないわ!
自分の欲の為にどれだけの人間を傷付け、どれだけの人間に憎まれたかきちんと分からせてやるわーーーー!」
とマルティノ侯爵家に着くまで怒鳴っていた。

キラキラ光った爺さんが怒鳴りながら馬を駆けさせている姿は、後に『怒った神様が馬に乗って現れた』と大騒ぎになり、目撃者達が教会に駆け込んで祈りを捧げ続けた…という話しは後日知った。


そしてマルティノ侯爵家に到着した。
門番に止められたが、わしの魔力にやられて倒れた。
そこからは近寄る者は悉く魔力をぶつけ浄化していった。

屋敷に入ると、魅了された者はバタバタ倒れていった。
深く魅了されていた者は泡を吹いて倒れた。

「ガウル様、私はマルティノ家の“烏”の隊長をしております、アレックスと申します。
私共“烏”8名、使用人数名のみが“魅了”されておりません。
その中に犯人がおるかと思われますが、まだ確定できておりません。」

「分かった。見極める。アレックス、その使用人をここに連れて来い。」

「御意」

騒ぎに続々集まってくる者達を浄化していった。

夫人やネイサンの嫁など、シャルーナの身内も気付けば倒れていた。

アレックスが連れてきた使用人と“烏”達を浄化すると、一人の使用人が白目をむいて倒れた。

「コイツだ。拘束しろ、アレックス。
ここで倒れている者は直に目覚めるが、泡を吹いてる者は一度ハーウィン殿に診てもらう必要がある。
既に解除されていると思うが、目覚めなければ分からん。
当主家族だけ部屋に運び、各部屋に一人護衛に就け。」

わしは玄関ホールのソファにどかッと座り、“烏”達がモーリス達を運ぶのを見ていた。

まだ奥にいる使用人もいるだろうが、黒幕を押さえたのならマシューが来てから浄化すれば良いだろう。

マルティノ家ほぼ全員を掌握していた黒幕は女。
あの女は前に会っていたので知っている。
確かシャルーナの兄の嫁アンナの侍女だ。
嫁いできた時に唯一連れてきた侍女だそうだ。

この屋敷には侍女がいない。
メイドが侍女の代わりをしている。
以前はいたようだが、シモン狙いの侍女が多過ぎて侍女をつけるのを諦めたそうだ。
フォックス侯爵家も同じだ。
侍女は貴族の令嬢が殆どだ。
年頃も同年代が多い。

わしもそこそこ男前だが、シモンは神がかった美形なので幼い時から狙われていた。
それを守っていたのがシャルーナ兄妹だ。
武に長けたマルティノ家は子供の時から剣を持たされる。
女だからと手を抜かれることもなく、傷だらけになりながらシャルーナは鍛錬を続け、シモンを守ってきた。
勿論シモンも鍛錬しているが、マルティノ兄妹がいてくれたからシモンは健やかに育つ事が出来たのだ。

そんな風に育ってきた二人だ、絆も強い。

そんな二人を引き裂こうとする輩はひっきりなしだっただろうに、シモンとシャルーナは結婚した。

なのに性懲りも無く二人を引き裂こうとする輩達。

うおおおおーーーまた怒りが湧いてきた!

「義父上、またキラキラし始めましたよ、いい加減落ち着いて下さい。」

いつの間に来たのかマシューに声をかけられた。

「マシュー・・・わしは許せんのだ・・あんなに愛し合ってるシモンとシャルーナを引き裂こうとする輩が許せんのだ・・。
こんなにも大勢の人間を巻き込みこんな事をして、其奴は幸せになれると思っておるのか?
なれるわけがなかろう・・・。

あの女はアンナの侍女だった・・・。
目覚めたアンナも、それを知ったネイサンも、シャルーナも誰もかれも悲しむだろう・・・。
何故そんな事も分からんのか・・・。

そういえば怒っておったから気付かなかったが、拘束されておったあの男はネイサンだったのか?」

「はい、ネイサンです・・・。」

「そうか・・・」

皆が悲しむな…きっと…。
なんとかせねばな…。

「さて、マシュー。全部片付けるぞ。そして曾孫と遊ぶのだ!」



「こんな胸糞悪い騒ぎ、さっさと片付けて、娘夫婦も孫夫婦もお気に入りのモーリス一家もぜーーーんぶわしが守ったるわ!

任せておきたまえ、婿殿!」


そしてわしは気を失っている小娘をアレックスに起こさせると、朦朧としている小娘の胸倉を掴み、耳元で言ってやった。

「わしはお前に何をしても良いとこの国と隣国の国王から許可を得ている。
お前が謝ろうが反省しようが、ワシは許さん。」


ようやく自分が拘束されている事に気付いた女はガタガタ震え始めたが、そんな女から手を外し、言った。



「今からこの女を尋問する。連れて行け。」























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