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倍にして返したい
しおりを挟む義祖父様とお義父様が帰ってきたのと入れ替わりにハーウィン様がマルティノ家に向かった。
マルティノ家の状況と誰の仕業だったのかを聞いて、驚いたよりも怒りしかなかった。
結局はシモンが欲しくて私を排除したかっただけだ。
この数ヶ月、実行犯のリリアから始まり、パトリシアの突撃、そして私の怪我と記憶喪失、そしてアリシアによるマルティノ家洗脳・・・。
「シャル・・・大丈夫?」
私が黙ったまま何も言わない事に心配したのか隣りに座っているシモンが声をかけてきた。
「子供の時からシモンの事で嫌がらせや悪口は数えきれないほどやられたけど、倍にして返したから気にしなかった。
でも今回のこの騒動は倍にして返したくても返せない事が何より腹ただしいの。
リリアのした事は許せないけど、リリアは唆されなければあんな事しなかったと思う。
イザベラは脅されたから百歩譲ってまだ良い・・・許さないけど。
でもパトリシアとアリシアの二人は、洗脳した人を動かして、自分は高みの見物。
最後の美味しいところだけ頂こうとするやり方と性根が許せない。
だから同じ事をしてボロボロのギッタギタにしてやりたくてもパトリシアもアリシアも結婚してないし、二人の好きな人を籠絡しようにもその好きな人がシモンだから籠絡も出来ない。
あ!二人の前でシモンとイチャイチャしまくればいいのかも!ああでもシモンを二人に会わせるのは嫌だなあ~喜ばせるだけだもの。
じゃあ…「待って待って、シャル、少し落ち着こう、シャル、目がヤバいよ、瞬きしようよ、ほら早く義父上を浄化してもらわないと、ね?」
あまりにもの怒りで、瞬きを忘れて思考の海に呑まれて、考えていた事を全部口にしていたようだ。
ハッとして周りを見るとお義父様と義祖父様が驚いた顔で私を見ていた。
「シャルは、記憶が戻ったのか?」
驚いた顔のままお義父様が聞いてきた。
「はい、シャルが怪我したショックで思い出しました。
記憶を失くしていた間の事も全部覚えてます。
ご心配、ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。
そして兄のネイサンがシモンに怪我をさせた事、父もご迷惑おかけしたようで本当に申し訳ございませんでした。
義祖父様も態々来てくださった上、マルティノ家を救って下さりありがとうございました。
このような事になり、どう謝罪すれば良いのかすら分かりません。
マルティノ家との絶縁も致し方ないと思っております。
私共の処遇はお義父様達に委ねます。
離縁も覚悟しております。」
土下座したかったが、足に負担がかかるので座ったまま頭を下げた。
「ダメだよ、シャル!離縁なんて俺はしないし、義兄上だって俺に怪我なんかさせたくなかったのは分かってるよ!
絶縁も離縁もしないから頭を上げて!」
シモンが必死に声をかけるが、私は頭を上げなかった。
「シャルーナ、頭を上げるんじゃ。
マルティノ家もフォックス家も被害者で、シモンとシャルーナは一番の被害者だ。
シャルーナが謝る必要はないし、絶縁も離縁もするつもりもないし、そんな必要はないぞ。
わしは娘のクラリスも、娘の婿のマシューも、孫のシモンも、孫の嫁のシャルーナも愛する大切な家族だと思うとる。
マルティノのモーリスもネイサンもわしのお気に入りだし、嫁さん達はシャルーナの大事な家族だから、わしの家族でもあるのだぞ。
その大事な家族達を守る力くらいはあるのだぞ、シャルーナ。
よく考えてみろ、こんな説明しようがない事件、公にも出来んし、犯人達の事も大っぴらには処罰出来ないのだぞ?
“魅了”や“魔法”は極秘なのじゃ、無かった事にも出来んが、何も無かったように見せねばならん。
だから、ネイサンはシモンや護衛騎士達に怪我を負わせたが、その事を明るみには出来ん。
だから反省はさせるが罰は下せん。
もし、騎士を辞めさせるとかマルティノ家に罰を与えるとかふざけた事になったら、全力でわしと兄上が阻止してくれるわ。
シャルーナの母君側の爺様もブチギレるだろうな。
あやつは短気だからな。
今回知らせなくて正解だったな。
あやつが出てきたら纏まるもんも纏まらん!
そんなわけでシャルーナもネイサンも気にする事はないぞ。
そうだろう?マシュー、クラリス、シモン。」
義祖父様が優しく私を見つめ諭してくれた。
シモンは大丈夫だと言ってくれたが、お義父様や義祖父様はそうは言ってくれないかもしれない、シモンと離縁されるかもしれないと思っていたので、義祖父様の言葉に涙が出た。
「あり、がとう、ございます・・・・」
「泣くな泣くな。何も心配いらん。ほれ、モーリスのところに行くぞ。
さっさと浄化してマルティノに帰さんと、あっちも困っておると思うぞ。」
そしてお父様が拘束されている来賓室に行くと、暴れてはいないが猿轡をされたお父様は私を見つけるとフガフガ何か言い出した。
有無を言わさず義祖父様が浄化すると、お父様は気を失った。
猿轡を外してソファに寝かせた後、地下牢の兄を連れてきて、念の為もう一度義祖父様が浄化した。
兄は土下座してお義父様達に謝り、私と同じことを言ったが、全く同じ事を義祖父様に言われ、私と同じく泣いていた。
「もう一回行ってくるわ」
父と兄を連れて、義祖父様はまたマルティノ家に向かった。
私も行くと言ったが、もう暗いから明日にしろと言われ、義祖父様達を見送った。
色々あった1日に全員疲れきっていたので、夕食は軽食で済ませると義祖父様が帰ってくるまで休もうとなった。
私とシモンはロビンに会いに行き、しばらくロビンに癒してもらった。
ハンスが私の記憶が戻った事をとても喜んでいて、涙を浮かべていた事は内緒だ。
シモンの怪我の治療をしてもらった後、義祖父様を待っていたかったが、もうクタクタだったので寝室に行き、久しぶりに抱き合って寝た・・・かったが、お互い怪我した腕や足の事もあり、手だけ繋いで寝た。
ようやく解決した“魅了騒動”。
まだまだ後処理が残っているけど、一先ず落ち着けた事に私もシモンも、お互いの温もりに安心し、翌日メリルの「お二人ともいい加減起きて下さい!」とドンドンとドアを叩く音に起こされるまで、熟睡出来たのは久しぶりだった。
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