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モヤモヤ
しおりを挟む『楽しいお茶会』が終わって数日後に目覚めたシモンは順調に回復していった。
シモンが普通に生活出来るようになった頃、久しぶりにハーウィン様が屋敷にやってきた。
「いやあ、お久しぶりですね。
何かと忙しくてお見舞いにも来れず申し訳ございませんでした。
シモン殿が回復して良かったです。
今回使われた毒がガウル様のいる隣国で作られた物で助かりましたよ、別の国の毒だったら解毒は難しかったでしょうから。
使われた毒が特定出来なくて焦りましたが、隣国に問い合わせたらすぐに特定されてガウル様が鬼神がごとく駆けつけて解毒薬を届けて下さったそうですね。
噂になってましたよ、『光り輝く鬼神が街道を馬に乗り現れた』と。
毎回毎回、派手にキラキラさせるからちょっとした有名人ですよ、ガウル様。
それに「シモーン」って叫びながら駆け抜けるからシモンって人は何をしたんだって平民達は不思議がってるそうですよ、フフ」
頭を抱えるシモンを皆んなで笑った後、ハーウィン様は話しを続けた。
「今回こちらに伺ったのは、一年前の“魅了事件”が全て終わった事の報告に参りました。
魅了使いのパトリシア・ラッツェや魅了液を作り出した研究所職員、マルティノ家洗脳事件の首謀者、実行者のアリシア、ユリア姉妹は既に処刑され、協力者達は労役留置所や特別修道院に送られています。
発端となったこちらのメイド二人も特別修道院に送られました。
特別修道院なんて名前は聞いた事はあってもどんな所かよく分からないでしょうからご説明します。
戒律の厳しい修道院ではなく何故特別修道院なのか・・・それは魔力の存在を知ってしまった犯罪者だからです。
魔法契約をしても情報漏洩の不安は無くしたいですから、魔力に関する犯罪を犯した者は問答無用で送られます。
独房に入れられ全ての情報から遮断され、何かしらの仕事をさせられます。
刺繍が得意ならば刺繍、裁縫が得意であればお針子の仕事だったりしますが、出来る事がなければ辛いでしょうね。
外には一生出られません。
まああまり長生きは出来ないでしょう。
ろくな運動も出来ませんし、日にあたる事もありませんし、誰とも話せないのですから精神がやられてしまいますから。
それでも心から反省し、悔い改めて穏やかに亡くなった人もいます。
何も反省せず最後まで自分の不遇を嘆きながら壊れてしまう人が大半ですけどね。
今の世に魔法は無用だと私は思っています。
魔法は使う人間によっては危険極まりない力です。
特別な力を持てば使わずにはいられませんから。
だから秘匿する必要があるのです。
危険な力に対応しきれない可能性の方が高いですから。
今回はガウル様がいて下さったから解決出来ましたが、次魅了使いが現れたら私達の力では対処しきれないかもしれない。
だから魅了魔法の処罰は厳しいのです。
便利な力だとは思います。
魔法でできる事を魔法を使わずに出来るようにする為に私達は日々研究しています。
魔法を必要だとは思っていませんが、魔法のような事が出来たら楽しいなと思っています。
空が飛べたら、一瞬で遠くに行けたら、透明になれたら、そんな事を想像するのは楽しいですが、実際それが出来たら犯罪し放題ですよね。
だからいらない力なのです。
今回使われた魅了液の解毒薬も完成しましたので、魅了液に関する書類は全て廃棄しました。
フォックス侯爵家やマルティノ侯爵家の皆様にはご迷惑を沢山おかけしました。
皆様のご協力のおかげで解決する事が出来ました。
ありがとうございました。」
ハーウィン様は私達に頭を下げて帰って行った。
これで全て終わった…。
色々な事が沢山あったけど、一番気になっていたのはリリアの事。
本当は会って話しを聞きたかった。
パトリシアやアリシアよりも私を深く傷付けたリリア。
今でも思い出す。
あの日の二人の姿を。
死ぬまで忘れないだろう、きっと。
だからこそ会って話しをしたかった。
話というか、文句を言いたかった。
恥も外聞もなく詰りたかった。
あの時言えなかった事を言ってやりたかった。
ハーウィン様を見送った玄関ホールから動かない私を心配したシモンが声をかけてきた。
「どうしたの?どこか痛いの?」
私の顔を覗き込み心配気に見つめるシモン。
「思い出しちゃってた・・・」
泣きそうな顔でそう言った私が何を思い出したのか気付いたシモンは私をひょいと横抱きし、自室に連れて行った。
お義父様達が何か言っていたが、シモンは無視した。
夫婦の寝室のベッドに私を腰掛けさせると横に座り抱きしめた。
「ごめん…ごめんね、シャル…」
私の肩に頭を付けて謝るシモン。
「私ね・・今でもたまに思い出すの・・・あの時のシモンとリリアを…。
少しずつ思い出さなくなると思ったんだけど・・・たまにふいに思い出すの・・・。
そして思うの・・・あの時シモンを引っ叩けば良かった…リリアを蹴っ飛ばせば良かったって。
シモンにはもう文句も言ったし謝罪もされたから引っ叩かなくても良いけど、リリアには文句も言ってないし、引っ叩いても蹴っ飛ばしてもないから、いつまでもモヤモヤしたものが無くならない・・・。
なんであの時逃げちゃったんだろう・・・あの時有りとあらゆる罵詈雑言を吐いて、リリアをボッコボッコにしてたらこんなにモヤモヤしないでスッキリしたのかなぁ・・・。
嫌だなあ・・・最後に会わせてくれたら良かったのに・・・」
「俺はシャルがしたいならボッコボッコに殴られても構わないけど、それじゃスッキリしないんだろうな…ごめんね…俺のせいで…。
今でもシャルを苦しめてごめん…。」
二人でしばらく抱き合ったままでいた。
そして閃いた。
シモンの腕からスルッと抜け出し、立ち上がって拳を上げた。
「そうだ!リリアに言いたかった罵詈雑言を文字に認めよう!
口に出すのは相手がいなきゃ意味ないから文字にする!
引っ叩けないけど、とりあえず怒りを文字にしてぶつけよう!
思い出す度文字にしてやる!
うん、凄く良い!凄く良いと思う!
我ながら良い考えだと思う!
やるぞ、やってやるぞーーーーーー!」
拳を上げて雄叫びをあげる私にシモンがボソッと言った。
「シャルの切り替えの早さはすごいよね…。
落ち込んでる俺が恥ずかしく感じるもの…。」
それからの私は思い出す度リリアへの怒りを書き続けた。
私が怒るのも分かると理解してくれた義両親とシモンはハーウィン様に、
「シャルの行き場のない怒りをなんとかしてほしい。どうして最後にシャルに文句の一つも言わせずリリアを送ってしまったのですか⁉︎
眠れる獅子を起こした責任を取ってくれ!」的な陳情書を送り付けたらしい。
そして今回だけ、検閲する事を条件に手紙を送っていいと返事が来た。
返信させるかはリリアの反省次第で決めるそうだ。
検閲後送ってくれるそうだが、それがいつになるかは分からないとのこと。
そうして私の手紙はリリアに送られた。
*次で完結予定ですが、長くなり過ぎたら2話に分けるかもしれません。
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