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本当の姿
しおりを挟む全員の注目を集めた俺は、
「とにかく、俺にこの国を背負う力はないって事だ。
お前達が気に病む事ではないし、俺はアーリアと婚約を解消されてから決めていた事だ。
アーリアの側で庭師でも、御者でも何でもやるつもりでいる。
アーリアとどうにかなろうとは思っていない。
ただアーリアの側で死にたい。
俺が望む事はそれだけだ。
出来るならレオンを見続けたかった。
でも何れ乳母のアーリアはここを出る事になる。
それなら俺もここを出ようと思う。
何か文句はあるか?
だから俺は覚悟を決めてアネットと子供を
生そうと思った。
何の憂いもなく出て行けるから。」
「そんなに私との子は愛せないのですか!
そんなに私が嫌いなのですか!
私はこんなに貴方を愛しているのに!」
「これ以上言うと言わなくてもいい事を言いそうだと言ったんだが…お前は余程自信があるのだな…分かった。
俺は何度も言っている…俺はお前と子を生し、二人で慈しんで育てていきたかったと。
最初に私からの愛を完全拒否したのは君だ。
まあ、アーリアを大切に思っていると思わせるにはそう言うしかなかったのだろうがな!
それに初夜にアーリアを送り込んだのも君だ。
俺はアーリアが了承したと聞いたが、おそらくアーリアは正確にお前達に気持ちを伝えきれなかったのだと思う。
でなければ、あんなに涙を流さなかった。
俺はその涙を見ても、拭う事は出来ても何も慰めてあげられなかった…。
愛していると、アーリアだけを愛していると、伝えたかった…。
アーリアは俺が慰めているのは自分にではないと思って、また泣いていた…。
何がアーリアの為だ!
お前は本当にアーリアの為にしていたのか?
俺にはさらに傷付けようとしているようにしか思えないのだが。
本当に結婚してから俺を愛したのか?
アーリアと婚約している時から横恋慕していたのではないと言えるか?
お前はアーリアを絶望へと誘導したのではないのか?
俺は疑わしいと思っている。
君はどんな時でも、アーリアの名前を出した。
アーリアを誉めているようで、下に見ているのがありありと分かった。
違うか?お前、言葉巧みに周りを誘導したんだろう?
特に、優しいギルバートを懐に入れる為に擦り寄ったんだな。
決して俺への恋情には気付かせないようにアーリアを盾にしたんだ。
ラインハルトには、俺がいかに浮気男かを話したのだろうな。
正義感の強いハルは俺に嫌悪感を持っただろう。
アーリアは優しいからお前の話しもきちんと聞いたはずだ、鵜呑みはせずとも徐々に傷付いていった。
それを数年かけて成功させた根性は凄いな。
そして今だ。
俺からの愛情がない事を盾に悲劇のヒロインに仕立て上げたとは、脱帽だ。
ほら、そろそろキレる頃合いだ。
顔が酷いぞ、さっきまでの涙は何処に行った?」
俺の言葉にアネットへ視線は集中した。
唇を噛み、悲しみではなく悔しさで顔を歪めている。
「私は!ずっと王太子妃になりたかった!
貴方の隣りには私が立つべきだと思ってた。
なのにアーリアが選ばれて、毎日泣いたわ!
だからずっと狙ってた。二人をどう破局させるか待っていた。
アーリアはお人好しだから私を疑う事もなかった。ギルは単純だからいつでもアーリアと私の味方だったから落とすのはすぐだった。
ラインハルトだけはアーリアを好きだし、ジェラルドの事も大切にしていたから、気をつけていたわ。
バレないように、気付かれないように。
リーツ様はジェラルドを尊敬していたから、その反動でジェラルドを嫌悪した。
婚約出来た時も嬉しい気持ちを抑えるのが大変だったわ。
初夜は抱かれたかったけど、アーリアを絶望させるのに入れ替わったの。
やっぱり私の思った通りだった。
計算外だったのはアーリアが妊娠した事。
まさかたった一度で妊娠するなんて思っていなかった。
ジェラルドは一度果てたらそれで終わると思ったのに…。
後は何をやっても上手くいかなかった。
だから誰にも気取られず離縁されてここを出るだけだったのに・・・。
やっぱりジェラルドは優秀だったわ…。」
「クソが!」と言ったのはハル。
真っ青になったギル。
怒りで震えているリーツ。
「俺はお前との婚約の話しが出た時、吐きそうになったのを堪えるのに必死だったよ。
それでもアーリアの側に行けるのならと、気持ちを切り替えた。
でも良かったよ、お前を抱かなくて。
お前を抱いていたら途中で吐いていたかもしれない。
お前はキャリーよりも遥かに愚かで醜い女だ。
ここを出る時のキャリーはちゃんと反省していた。
それが分かったから俺はキャリーに俺のせいで済まなかったと謝れた。
お前が最後まで騙しきったら俺は何も言わずに、今までありがとう、ギルと二人で幸せになれと言って見送っただろう。
だが、お前はレオンを愛そうとはしなかった。
典型的な継母の態度だった。
お前は知らないだろう?
隣国の王太子夫妻が、“アネット妃は子供はあまり好きではなのか?”と言われていたのを。
あからさまにレオンを憎々しげに見ていたのを見られていたぞ。
それでもギルやハル、アーリアがいるから俺は耐えた。
お前の側にギルがいるならレオンは大丈夫だろうとも思っていた。
だが、そこまで性根が腐っていたとはな。
いいタイミングだった。
お前は生誕祭のその日まで軟禁。
生誕祭で少しでもレオンに危害を加えようとすれば牢屋入り決定だ。
俺はお前を決して許しはしない。
キャリーには平手ではなく、拳で殴ったぞ。
それ以上をお前には出来そうだ。
一歩でも部屋から出たり、レオンとアーリアに暴言を吐く、傷を付ける、睨む、怖がらせる、その一つでも報告を受けたら、嘘でも本当でも俺が直々にお前の首を刎ねる。
手を挙げたらなら腕を切り落とし、暴言を吐いたら舌を切り、睨んだら目を潰す。
死んでも構わないと思っているのなら、死なないようにしよう。
先ずは喉を潰すか?目を先に潰すか?
どっちが良い、アネット。」
ブルブル震え出すアネットに向ける視線はどれも射殺すほどだ。
俺はドアの外に立つ護衛に声をかけ、アネットを貴族牢に入れるように伝える。
驚く護衛に、妃殿下は心を病んだ、自室では暴れて逃げ出すかもしれないから、貴族牢で療養させると伝えた。
ガクガク震えるアネットを護衛二人が貴族牢へ運んで行くのを俺達は黙って見ていた。
「ごめん・・・・ごめん…ルド…俺は…俺はなんて事を…」と膝をついて泣くギルに、
「お前がアネットを本当に好きなら添い遂げさせるのも良いかと思った。
済まない…このまま放ってはおけなかった…。
俺は…本当に言葉が足りなかったのだな…俺が気付いたこと、思ってる事をきちんと口に出せばこんな事にはならなかった…。
アーリアにもアネットが純粋にアーリアの側にいる訳ではないと言えば良かった…。
結局、俺がもっと上手くやれていたら誰も傷付く事もなかった…。」
「違う…俺もあの女の本性を見抜く事ができなかった…。
済まなかった、ジェラルド…アーリアの側にいたのにアーリアを守れなかった…。」
ハルはそう言うが、結局は俺も今だから分かっただけだ。
それでもギルにアネットを背負わせなくて良かった…そう思う。
俺は残った三人に、俺が何をしようとしていたのかを説明した。
誰でも良いからさっさと結婚して、世継ぎを作って立太子させて俺を廃嫡してもらい、平民になり、アーリアの側に仕えさせてもらおうと思っていた事、アネットの事は注視していたが、俺の邪魔をしないなら誰と何をしようと構わなかった事、ただ誰も俺と婚約する令嬢がいなかったあの時、嫌いな女だが婚約してくれた事は都合がよく、その事だけは感謝していたので侘びとして、何もしなければ俺の有責で離縁しようと思っていた事、アネットが俺を監視していたので、アーリアには決して近付かないよう気をつけていた事、アーリアとレオンを人質に取られている状態でアネットを蔑ろにすれば、二人に何をするか分からなかったので、完璧な夫婦を装っていた事を話した。
「人質・・・それは殺めようとしていたという事ですか、兄上!」とリーツが叫ぶ。
「アーリアには何も確認していないが、レオンには何か仕掛けていたと思う。
アネット付きのメイドのミラは、決してレオンとアネットを二人にしないようにしていたように見えた。」
と言うと、
「ほんの少しの接触しかしないルドでさえ気付いたのに、俺は全く気付かなかったなんて・・・情けないな…」と落ち込むギル。
「俺も情けない…俺はアネットをあまり信用はしていなかったのに、ギル越しに見ていたあの女は、完璧に夫婦関係に悩む可哀想な妻としか見えなかった…。
今考えれば、アーリアを労わる言葉など一つももう何年も聞いていないし、レオン様を抱っこする姿を見た事はなかった。
そんなにも分かりやすい態度だったのに…」
ハルも落ち込み、俯いた。
感情と表情を完璧にコントロールする事が出来る王太子妃や王妃教育を受けたアネットを見抜けないのは仕方がないだろう。
俺でさえよく見なければ気付かないほどなのだから。
アネットがほんの少しでも“慈愛”があったら、あの女は完全勝利しただろう。
だが、一欠片もそんなものはなかった。
まあ、そんなものがあったらあんな女にはならなかっただろうが。
俺は冷たくなったお茶を飲んで、深く息を吐いた。
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