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リジー、実家に帰る
しおりを挟む俺はシリル・シュラスト、元第二王子。
臣下し、公爵を賜った。
最愛の妻ブリジットと天使のようなマクス2歳の息子と幸せな毎日を送っている。
ほんの2年前までは、あんな事やこんな事が山ほどあってリジーに会えない日々は辛かった。
そんな日々を乗り越えての幸せ。
騎士団の皆も討伐は無くなっても鍛錬を続け、森や街の巡回、警邏、辺境領への研修など騎士達の士気も下がりはしていない。
今日もリジーとマクスに、いってらっしゃいのチュウをしてもらい、意気揚々と玄関を開けた瞬間、子供がいた。
マクスより少し大きいが、栄養が足りていないのか、ガリガリに痩せている。
着ているものもボロボロだ。
その子は下を向き、何かを手紙のような物を持っていた。
「お母さんが・・コレを・・・シリル様に、渡してって…」
最初に動いたのはリジーとマクス。
「こんにちは。お名前は言える?」
「にいに?とうと?」
マクスはおそらく年上なのか年下なのかを聞きたいのだろう、それにしても可愛いな息子。
「僕は…シャルル…です。3歳です…。僕のお父さんの名前は…シリルと言います…」
最後の言葉でマクス以外に緊張が走った。
一番冷静だったのはリジー。
「そうシャルルね。さあ、一緒に朝ご飯を食べましょうね。」と言いながら、半目で俺を見ながらマクスと共に食堂へ消えてしまった。
「旦那様、これは由々しき事態ですよ。とりあえず緊急の執務も会議も今日の予定には御座いません。私は騎士団に旦那様が休むと連絡致します。
奥様に出て行かれませんよう、今すぐ対策を。」
とニコリともせず立ち去った。
玄関で立ち尽くす俺。
あの子供の髪色は確かに黒だ。
しかし瞳の色はオレンジに近い黄色。
王族の金色ではなかった…と思う。
俺がリジー以外の女を抱いたのは討伐をしていた頃だけだ。
あの時は専属娼婦とだけ熱を処理したのだ。
リジーを抱くように抱いた事はない。
すでに用意の出来ているそこに入れて出すだけで、極力触らないように気をつけていた。
本当は触りたくも挿れたくもなかった。
でもリジーを殺しかけた一件から、熱を溜める事への恐怖は拭えない。
だから避妊薬を必ず目の前で飲ませてから、事に及んでいたのに、子供なんぞ出来るのだろうか…。
なんとなく俺に似ていたような気もする…ようなしないような…。
とにかく食堂に行かねばとリジー達を追う。
食堂ではリジー、マクス、あのシャルルとかいう子供が楽しげに食事をしている。
さすがリジーだ、緊張していた子供を難なく心を開かせたのだろう。
マクスも同年代の子供にご機嫌だ。
微笑ましくそんな光景を見ていたら、
「旦那様…朝食後、お話しがございます。そのお手にあるお手紙をお読みになりました後に、お呼び下さいませ。」
今までそんな口調で俺に話しかけた事なんかなかったのに、他所の奥さんみたいで悲しい。
「とうたま?まんまよ、おいちよ!」
と俺を座らせようとしているマクスに顔を綻ばせながら、食事の席にもう一度ついた。
俺が座った途端、シャルルという子供は緊張したのか身体をガタガタ震わせた。
リジーがすぐにその子供の側に行くと、
「大丈夫よ、あの人は怖い人ではないわ。
貴方のお父様よ。怖くないからね、大丈夫よ」と優しく抱きしめ、背中を摩ってあげていた。
マクスもいつの間にか、その子供の近くに行き、
「こわないよ、だいじょぶよ」とリジーの真似をしていた。
「待て待て、俺は子供を作った事はない。」
と言うと、
「何故そう言い切れます?あの頃何人の方と夜を過ごしましたか、ご存知?
私は知っておりますよ、旦那様!!
ご親切な方々がご丁寧に教えて下さりましたから!専属の方が30人。ですから30人です。その中に事情があり、やむなく身を落とした貴族のご令嬢もいらっしゃいました。
その中に貴方を慕っていた方が何人いたか知っていますか?
元貴族の方が15人です。15人が貴方の種を狙っていたのです!
なのに子供を作った事がない⁉︎
避妊薬を目の前で飲んだ⁉︎
そんなもん、どうとでも誤魔化せるのだそうですよ!
事細かに教えて頂きました。
笑われながらね!
では、私はマクスとシャルルを連れて実家に帰ります。この件が片付くまでは帰りませんので。」
そう言って、マクスとシャルルを連れてリジーは行ってしまった…。
あまりにも情報量が多過ぎて脳が整理するまでに時間がかかり、反論する事も出来なかった。
「ハア~またですか…。やっと落ち着いたと思いましたが、結局旦那様は年に一度は大事件を起こさないとダメな呪いにでもかかっているのでしょうか…。
一度神殿で聖水を掛けてもらうと良いのかもしれません…」
カーラは俺に呆れた視線を送った後、リジーを追いかけて行った。
リジーは笑われてたのか?
俺が討伐で娼婦を何人抱いて、どんな娼婦かも他人に知らされていたのか?
だからケネスに処理を頼まなくなってからリジーは、討伐に行く時も帰ってきた時も俺の顔を見て苦笑いをしていたのか?
元気のないリジーを休ませる為に父上と母上が勧めたのが“新婚旅行”だった。
俺はそんな事情がある事なんてしらなかった…。
そんな格下の令嬢や夫人達に馬鹿にされていたなんて知らなかった。
元貴族の令嬢を抱いていた事も知らなかったし、俺を慕っていた令嬢だった事も知らなかった。
しっかり調査はされていただろうし、審査を通った娼婦だけだと思っていたから、気にした事などなかった。
あまりの衝撃に俺は食事の席から動く事が出来なかった。
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