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婚約破棄
しおりを挟む「ごめん・・・本当にごめん…。」
「・・・・・・」
「ララ・・・俺は今でもお前が…「今でも好きだなんて言わせない。言い訳も聞かない。
とにかく事情は分かりました…。
・・・彼女とお腹の子とお幸せに。」
床に頭をつけ、土下座していた彼は涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげ私の名を呼んでいたが、振り返らずこの場を後にした。
部屋を出ると、執事のトマスが申し訳なさそうな顔で立っていた。
「トマス、今までありがとう、ノアを支えてあげてね。」
「ラミリア様・・」
そう言って深々と頭を下げた。
二度とここに来ることはないだろう。
今は泣かない。
この屋敷にいるうちは絶対泣かない。
噛んだ唇が切れたのか血の味がする。
ひたすら足を動かし、迎えの馬車までもう少しの所で、
「リアーーー」
その声で足を止めてしまった。
もうすぐ義理の妹になるはずだった、大好きで一番の友達のエリカが私の名を呼んでいる。
何度も呼ぶエリカの震える声を聞いてしまったら耐えられなかった…
立っていられず、しゃがみ込んで泣いてしまった。
涙はもう止まらない。
せめて嗚咽は堪えねばと指を噛んだ。
御者のバートが駆け寄り、
「お嬢様、馬車の中へ。」
私を抱えて馬車に乗せるとドアを閉め、すぐに馬車を出した。
馬車に乗ってからの記憶はない。
気付くと、自室のベッドで寝ていた。
目が覚めてもボォーっと天井を見ていた。
身体が重くて動くのが億劫だ。
「起きたか、リア。」
顔だけ声がする方に向ければ、ベッドの脇の椅子に腰掛けた兄のパトリックが優しく微笑みながら私の頭を撫でた。
「お兄様…私…」
「お前は熱を出して丸二日寝込んでいたんだ。熱は昨日のうちに下がっていたが、なかなか目覚めなかった。心配したよ、先ずは水分を取ろうか。少し待ってろ。」
お兄様は立ち上がり、入口のドアを少し開け、メイドに何か伝えて戻ってきた。
「今、水を持ってくるように頼んだ。あと医者も呼んでもらった。」
すぐにメイドのユリアが水差しと軽く身体を拭くためのお湯やタオルをワゴンに乗せてやってきた。
「お嬢様、お目が覚めてようございました。こちらをお飲み下さいませ、一気に飲まずゆっくりお飲み下さいね。」
身体に力が入らず、お兄様に起こしてもらいユリアからグラスを受け取った。
レモンと蜂蜜が入った水は冷たすぎず、少しずつ飲むと身体に染み込むようだ。
グラスを受け取ったユリアが、
「汗をおかきになりましたから、軽く身体を拭きましょう。サッパリしますよ。」
お兄様を部屋から追い出し、手際よく身体を拭き、新しい寝衣に着替えさせてくれた。
「そろそろお医者様も来られている頃でしょう、呼んでまいります。」
私の髪を緩く編んだ後、廊下に出されていたお兄様に声をかけて出て行った。
その後は幼い頃から診てくれているロビン先生が、
「今はゆっくり休みなさい。身体も心も疲れてるみたいだからね。消化の良い温かいものを食べて、たくさん眠って、たくさん楽しい事をしなさい。」
おそらく私の今の状況を聞いたのだろう。
そんな言葉をかけて帰って行った。
入れ違いにスープ皿ではなく大きめのカップに入れたスープを持ったお父様が入ってきた。
「リア、身体は辛くないかい?」
「心配かけてごめんなさい、お父様。身体は大丈夫です。」
「無理はしないようにね。何か食べたのかい、スープを持ってきからね。具もたくさん入れてもらったよ。」
「…はい」
「食欲はないのかい?でも、少しでも食べないとね、リア。」
お父様からカップを受け取り、口をつけた。
食べやすい大きさにカットされているたくさんの野菜はコンソメスープがしみてとても美味しい。
でも、半分がやっとだった。
「もう良いのかい?」
カップを私から受け取り、お父様は私の頭を撫でながら、
「リア、エリソン侯爵と話しはつけてきたよ。あちら有責の婚約破棄となった。
エリソン侯爵と夫人がリアに謝罪していた。夫人は泣いてしまって途中で退席されたが…。
エリソン侯爵令息は…真っ白な顔色で謝罪していたが、私は許すつもりはないよ。
我が家の大事な娘をこんなに傷付けておいて、あの男、会わせてくれとほざきやがった。
エリソン侯爵家とは距離を置こうと思ってる。でも、リアとエリカ嬢との付き合いはリアに任せるよ。
パトリックはもうノアとは付き合わないそうだ。
ジェニーもしばらくは夫人との付き合いは控えるそうだ。
でも、リアが気にする事はないんだからね。
今までは家族ぐるみの付き合いだったが、
こうなってはもう付き合えないよ。
それに私は、本当に・・・あいつの事だけは・・・許せない…」
「お父様・・・ごめんなさい、私達のせいでお父様とおじ様の仲を「違う!リアは何も謝る必要はない!」
お父様もお兄様も私達の婚約破棄となった原因、
“ノアの不貞の発覚とその相手の妊娠”
を許すことなどあり得ないのだろう。
お母様は寝込んでしまった。
ノアは私だけを一途に想っていてくれてると信じていた。
もう、どんなに愛していても彼とは結婚出来ない。
たった一度の過ちと言われても、子供を身籠ればこちらが身を引くしかない。
泣いても叫んでももう戻らない。
「お父様…私…しばらく王都から離れたい…。」
泣きながらお父様に訴えた。
そして、私は王都からずっと離れた領地へと向かった。
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