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リアからの手紙
しおりを挟むエリカ視点
突然、我が家はめちゃくちゃになった。
あの女のせいで。
私には大切な親友がいる。
ラミリア・ルーロック伯爵令嬢。
兄の婚約者で大好き友達だ。
もうすぐ兄と結婚して、私の義姉になるはずだった。
ある日知らない令嬢が我が家に来た。
客間にしばらく滞在するのだとか。
誰に聞いても教えてくれない。
まあ、いいかと思っていたら、みるみる兄の様子が変わっていった。
何事だと問い詰めたら、客間にいる女に嵌められて、兄はその女の乙女を散らしてしまったと答えた。妊娠してるかもしれないから、しばらくこの家で預かることになったのだとか。
頭が真っ白になった。
リアは?リアはどうなるの?
とても私には言えない…。
1カ月ほど経った頃、その女の妊娠が確認された。
リアの事を思うと、涙が止まらなくなった。
一旦実家に帰るとかで、その女は我が家からいなくなった。
あの女が来てから、屋敷の中は暗くなった。
ヒソヒソと話す使用人達。
お父様もお母様も食事の時ですら、喋らない。
兄は部屋から出てこない。
仕事にはなんとか行ってるようだが、表情なんてない。
あの女が行ってしばらくすると、玄関ホールが騒がしくなった。
なんだろうと思い、こっそり見てみると、リアのお父様とお兄様だった。
あの女は、リアの所に行って兄の子を妊娠した事、その時の様子を事細かに説明しただけでなく、結婚するのは自分で、リアとお兄様は結婚など出来ないと宣ったそうだ。
なんて女なんだろう!
許せない。
こんな女がこの家の女主人になるなんて絶対認めない。
私がどんな事をしてでもリアとお兄様を守る。
私は、婚約者のギブソン公爵家の嫡男、ジョシュア様に手紙を書いて、時間を取ってもらった。
その日に返事をくれ、明日にでも公爵家に来て構わないとの事なので、早速ジョシュア様に会いに行った。
ジョシュア様に我が家の恥になる話しをするのは躊躇われたが、リアのために話した。
「ノア殿は騎士団の騎士なのに、身体が動かなかったんだね、目が覚めたのに。」
「はい。そう申しておりましたわ。
兄は意識もなかったので、押し倒されたと言われてしまえば、否定しようがなかったのです。証拠も何もないですから…。」
「そうなのか…。兄上はどうしてるんだい?ラミリア嬢も大丈夫なの?」
「リアには会っていません…何を言ってあげたらいいのか…エリソン家とは関わりたくないかもしれないし…」
「そうか…。エリカ、少し気になる点があるから、殿下に相談してもいいかな?」
「殿下って、王太子殿下ですか?」
「そう。ひょっとしたらどうにかなるかもしれない。でも、可能性としては低いからあんまり期待して欲しくはないけど。」
「ありがとうございます!」
少し望みが出て来たと思っていたけど、またあの女が家に来ることなり、うんざりしていた。
お兄様とリアが会う事になっていた日、またしてもあの女がリアを傷付けた。
今度は媚薬を使って、お兄様を傷付け、その現場をリアに見せつけた。
リアとお兄様は婚約破棄となった。
あの日、リアは私の声に足を止めてくれた。
お兄様があんなに呼んでいたけど、足をとめることはなかったのに、私の声にリアは足を止めてくれた。
でも、そこからは見ていられなかった。
ずっと我慢していたのだろう。
立っていられず、蹲ったまま動けなくなり、身体が震えていたから、泣いていたのだろう。
御者に支えられ、馬車に乗って帰って行った。
お兄様は追いかけたけど、間に合わなかった。
その日からお兄様は部屋から出てこなくなった。
仕事は休職した。
リアのお父様が来て、婚約破棄となった。
家との付き合いはもうしないとお父様に言ったという。
あんなに仲が良かったのに。
お兄様とパトリック様も子供の頃からの付き合いで、親友だったのに。
あの女はまた客間に籠り、ドアには我が家の護衛騎士が立ち、許可のない出入りはさせないようにした。
リアに手紙を書こうか…
こちらからの手紙は受け取ってもらえないかもしれない…。
リアから何かリアクションがあるまでは、待っていた方がいいだろう。
それでも心配だ…。
お兄様のことも心配だ。
あんなに仲が良かった二人なのに、もうすぐ結婚式をあげて、この家の一員になるはずだったのに。
お兄様はリア以外になんか興味ないと、他の女性には見向きもしなかったのに、リア以外の女性と結婚するしかなくなった。
どんなに辛いだろう…。
リアもこれからどうするんだろう…
我が家はこれからどうなるんだろう…
あの女のせいで、この家は無くなってしまうんだろうか…
不安でたまらない毎日だった。
2カ月くらい経った頃、リアから手紙が来た。
お兄様あての手紙も一緒に。
「お兄様!リアから手紙がきました!
お兄様あての手紙もあります!開けてください!」
“リア”という言葉に反応したんだろう、中からバタバタと音がした。
ドアを開けた兄は、見る影もないほど窶れてげっそり痩せていた。
それでも、
「手紙、リアから手紙がきたのか?」
「そうよ、お兄様、早く読んで下さい!」
この隙に、部屋の掃除やシーツの交換、空気の入れ替えを総出でやった。
手紙を読み終えた兄は泣いていた。
「ララ…ララ…ありがとう…ララ…俺も会いたいよ…」
「お兄様、リアはなんて?」
リアからの手紙を私にも読ませてくれた。
リアは兄を心配してくれていた。
会いたいと書いてくれた。
会いに来てと書いてある。
そして“大好きな”と書いてくれている。
どんなに嬉しかっただろう、皆に責められ、誰も兄を労る事をしていなかった。
リアも離れていった兄には、もう絶望しかなかった。
リアはあんなに傷付けられたのに、兄の事を考えられるまで気持ちが落ち着いたのだろう。
領地での静養が良かったのだろうか。
とにかく、ほんの少しだけ我が家に光が戻った。
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