信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

文字の大きさ
15 / 78

ミレーヌの執着

しおりを挟む


ジャン視点


あの日、リアさんに元婚約者と会って欲しいとお願いした事を後悔はしていない。
でも、もうリアさんと楽しくお酒を飲めなくなってしまうかもしれないと思うと、気が滅入りそうになる。

リアさん…
こんなにも愛おしいと思った人は今までいなかった。
結婚出来なくなったフィリアに対しての気持ちとは違う、いつまでも一緒にいたいと思わせる温かい存在。

フィリアは私を激しく愛してくれた。
それを嬉しく思っていた。
デートもフィリアが行きたいと言う所に行き、欲しいとねだった物をあげた。
そうすればフィリアが喜ぶから。
でも、私から欲しいとねだった事などなかった。
私の誕生日もフィリアが喜ぶ場所で食事をし、プレゼントは私が喜ぶ物ではなく、フィリアが好きな物を渡された。
王都で人気のデザインなのだと言って、高価なカフスや時計。
私の好みとは違ったが、嬉しいよと言って受け取った。
今思えば、美しいフィリアと付き合っているという事に浮かれていたのだろう。
私が求めていたモノと、フィリアが求めていたモノは違っていたんだと、今になって気付いた。結婚していたら幸せな結婚ではなかったかもしれない。

本当に求めていたモノは、穏やかで温かい優しいリアさんのような人だった。

リアさんが幸せになれるのなら、友人のままで構わない。
笑顔が見れるなら、それだけで良い。

でももし、リアさんが私を求めてくれた時の為に、今すべきことをしよう。


屋敷に帰り、両親にミレーヌの様子を聞くと、

「ジャニスがいないと騒いでいるわ。あの子なんなの?ちょっとおかしいわ。ちゃんとした病院で診てもらった方がいいと思うわ。」

と母が言ってきた。

ミレーヌの部屋に行ってみると、急に抱きついてきた。

「ジャニス兄様!何処に行っていたのですか!兄様も私を捨てるのですか?」

「ミレーヌ…私はミレーヌのものではないよ。出産までの約束なのを忘れてはいけないよ。」

「・・・それでも私は兄様の妻だわ…」

「形だけだよ。」

「やっぱり兄様も私を捨てるんですね。」

「ミレーヌ、何度も言っているだろ、ここで出産するまで預かっているだけで、ミレーヌは客人扱いだと。」

「でも、籍は入れたわ!」

「それは両家のためだろ。もう否定すら出来ない状況にしたのはミレーヌだよ。
それでも皆がミレーヌを心配したからこういう形をとるしかなかったと何度言えば分かるんだい。」

「やっぱりみんな私が邪魔なんだわ!」

「誰もそんな事を言ってないと何回言えばいいの、ミレーヌ!」


こうなってはもうダメだ。
毎回こんな感じだ。
もう出産も近い。
病院に入れた方がいいのかもしれない。


「とにかくもう寝なさい。」

ミレーヌは何も言い返さなかった。

そのまま自室に戻って風呂に入ってベッドに横になる。

ベッドサイドのガーベラを見る。

リアさん…貴女に会いたいです…

たった一輪の花を見つめているだけで、気持ちが落ち着いた。


そのまま眠りについた。



次の日の朝、両親にミレーヌを病院に入院させようと思っている事を伝え、ミレーヌの実家に連絡し、一度ミレーヌの今の様子を見てもらいたいと伝えてもらった。

お昼前に子爵と夫人が来て、ミレーヌを見舞った。

ミレーヌは最初、両親を見て喜び、泣いていたが、ミレーヌの為にラインハル家に多大な迷惑と、返しきれない程の恩がある事を忘れてはいけないと諌められると、いつものように泣いて暴れる。
大きなお腹のミレーヌを気遣い、それ以上興奮させてはいけないと、両親ですらミレーヌを落ち着かせる事はできなかった。

夫人を残し、子爵と私だけ部屋を出ると、

「レグリス子爵、ミレーヌを少し早いが病院に入院させて、専門の医師に見てもらった方が良いと思うのですが、よろしいですか?」

「本当に申し訳ない。私もその方が良いと思います。何を言っても捨てられる捨てられるばかりで、話にならない。
あれが病なのか我儘なのか私どもには判断がつきません。
もし我儘ならば許される事ではありませんが、病ならば治るかもしれませんし。」

「そうですね、一度、その筋の方に往診してもらって、それから決めましょう。
その際はお手数ですが、子爵も同席して下さい。」

「お手数おかけしているのはこちらです。
ジャニス殿には本当に迷惑かけっぱなしで申し訳ない。どんなに騒いでも娘が出産しましたら、連れて帰りますので。
本来なら出産も我が家でしたかったのですが…。」

「それは構いませんから。とにかく医者を探しておきます。」

その時、ガシャンと部屋の中から大きな音がして、悲鳴が聞こえた。
急いで部屋へ入ると、夫人が床に倒れていて、ミレーヌが真っ赤な顔で肩で息をして立っていた。

子爵が夫人に駆け寄り抱き起こすと、夫人の頬は真っ赤になっていた。
子爵が、

「ミレーヌ!これはどういう事だ!」

「お母様が悪いのよ!わたしは侯爵夫人なの!何処にもいかないわ!ここが私の家なの!」

「ミレーヌ!お前はなんて事を!ここはお前の家ではない!侯爵夫人だなんて二度と口にしてはダメだ!」

「うるさいうるさい!みんな出て行って!ここが私の家なの!ジャニス兄様は私の旦那様なの!」

ハァ…とにかく落ち着かせないと。

私はすぐに医者を呼び、ミレーヌを診てもらい、横にならせた。

その後、精神科医を医師に紹介してもらうことにし、今日の執務をこなした。

夫人は娘に殴られた事がショックで、別室で休んでもらっていたが、落ち着いた後、子爵と帰って行った。

しばらく様子を見ておく為に付き添っていた医師が私の執務室に来た。

「ラインハル侯爵、ミレーヌ嬢…とお呼びした方がよろしいですか?」

「ミレーヌ嬢で構わない。」

「ミレーヌ嬢は精神的なものではなく侯爵に捨てられる事を恐れているのではないでしょうか?」

「捨てる?そもそも形だけの結婚で出産したら子爵に戻ると最初から納得しての話し。
政略結婚でも恋愛結婚でもない。
いわば契約結婚だ。
ミレーヌも私の事は兄としてしか見ていない。」

「それは本当でしょうか?先程ミレーヌ嬢と話しましたが、侯爵に好意を持っているような話しぶりでした。
子供の時から好きだったと仰っていましたから。」

ザワっと鳥肌がたった。
もしや私達は一番やってはいけない事をしたのかもしれないと。

これからの厄介ごとを考えると頭が痛くなった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...