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父の断罪
しおりを挟むノアが帰った後、兄が私の部屋に顔を出した。
「リア、大丈夫か?ノア、なんか黙って帰って行ったから…」
「ちょっと、ケンカっていうか、今日は疲れたから帰ってって言ったから…」
「そうか…。リア、あの事でケンカになったって事だよな?」
「うん…」
「とりあえず父上に挨拶してこい、待ってるから。」
兄に連れられ、父の執務室に行くと、
「話しは聞いた。まあ座りなさい。」
「はい…突然連絡もせず、すみませんでした。」
「おかえり、ラミリア。元気になったと聞いていたのに、ここを出た時と変わらないほど顔色が悪いぞ。
ノア君の件でかい?それともエリーの復讐相手が自分だった事かい?」
「どちらもです…。ノアを支えていこうと決めましたから、私に何か出来る事はないかとお兄様からの報告をずっと待っていました。
でも、お兄様の手紙にはノアがあの人を愛するフリをして復讐すると書いてありました…。
そう決めてしまったのは私の為だから。
そして、あの人、エリー様があんな事をしたのは私のせい…。
私は…どうすれば良かったのか…分かりません…。
ノアとエリー様が仲睦まじい姿は嘘だとしても見たくはないですし、エリー様に謝罪もしたくはないです…。」
「ラミリア、自分を責めたくなる気持ちは分かるが、今、ノア君を拒絶すれば折角気力を取り戻したのに、また抜け殻のようになるのは目に見えている。
お前はノア君を立ち上がらせといて、手を離すのか。
お前は誰にも相談もせず、ノア君に連絡し、結果ノア君は立ち直る事が出来た。
エリソン侯爵家全員に希望を与えてしまった。
なのに、自分が嫌だからと手を離すのは無責任だと思う。
覚悟も足りていない。
ノア君だってそんな事したくてすると言ったわけではなかろう。
エリー嬢の悪事を暴いて、結婚を阻止出来ればノア君もスッキリしただろうが、それが出来ないから、お前を傷付ける為だけにあんな事をしたエリー嬢をノア君は許せなかった。だから、“愛するフリをして捨ててやる”となったんじゃないかな。
極端過ぎるが、お前を想ってなのだろう。
なのに、お前は見たくないからと泣くばかり。お前だって、領地にいても調べる事は出来たはずだ。
何か出来た事はあったはずだ。
なのにお前は何をした?
酒飲んで遊んでいただけではないか!
それをノア君を助けた気になって、その後は何もせず、何も考えず、挙句にどうしたら良いか分からない。
お前はノア君を支えると言った。
なら最後まで支えなさい!
見たくない、なんて子供のような事を言うのはやめなさい!
もっと責任をもって行動しなさい!
ラミリア、お前は私に一度でもノア君の事を謝罪したかい?
勝手に手紙を出した事を報告したかい?
私はパトリックや、ノア君、カルロスから聞いたんだ、手紙の事を。父親なのに何のことか分からなかったよ。
それでもラミリアが選んだならと黙っていた。
カルロスとも仲直り出来たことも嬉しかった。
なのに、お前はまた勝手にエリソン家を奈落の底に落とそうとしている、引き上げたのに。
反省しなさい!
泣くばかりはやめなさい!
しばらく外出禁止だ。
戻りなさい!」
どうやって自室に戻ったのか分からないほどショックだった。
いつも優しいお父様があれほど怖い顔で私を叱った事などなかったから。
言われた事全て正論だった。
何も反論なんか出来なかった。
確かに良い気になっていたんだろう。
私がノアを救ったと。
その後の事も、なんとかなると甘い考えで王都に帰りさえすれば、私にも何か出来ると思って何もしていなかった。
領地にいても、どうしてこうなったのかを調べる事も出来た。
最低だ。
恥ずかしい。
本当に子供と同じだ。
お兄様はいつの間にかいなくなっていた。
その日は一睡も出来ず、自分の今までの態度を思い起こした。
アルバート様を助けた時からを思い出していた。発端はそこからだから。
アルバート様がお礼をしに屋敷に来た時、先ず二人で会ったのがダメだったのだろう。
お父様かお兄様に一緒にいてもらっていたら、そこまでアルバート様は私を慕ってはいなかったのかもしれない。
態々お礼に来てくれるような真面目な方だったのだから。
私は、自分が手助けした人がお礼に来てくれた事に嬉しくてはしゃいでいた。
彼には婚約者がいたし、私にもノアがいたのに、二人で会った。
ああ、私の浅はかさが招いた事だ。
やっぱり私のせいだった。
でも、ここで自分のせいだと落ち込み、泣くのは今までと同じだ。
今更やり直しなど出来ない。
なら、今、何をする?
口ではやるべき事をやる、なんて言っておきながら、ちっとも分かっていなかった。
だったら今度はちゃんと考えよう。
いつも誰かを頼り、一人でやり遂げた事がない。
ノアは私が助けたのではない。
ノアは自分の力で立ち上がったんだ。
私は何をしていたんだろう…
恥ずかしい…
暗い方へと考え込むのを止め、これからの事を考えた。
食事もちゃんと食べた。食べなければ頭は働かない。
そして、考えた。
パタンと寝落ちするまで考えて、起きるとまた考えた。
そして、やっと私がすべき事が分かった。
それは…謝罪すること。
屋敷に帰ってきて、一週間経っていた。
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