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優しい声が聞こえた
しおりを挟むお兄様に連れられ、領地に戻ってきた。
お父様は泣いて謝っていたが、謝らなければならないのは私なのに、また私は間違ってしまったのかしら…。
最近はお兄様の声もユリアの声も遠くに感じて、よく聞こえない。
ノアの声だけは聞こえた。
でも、私に謝らせてはくれない。
エリカにも会ったけれど、エリカはずっと泣いていた。
あんなに泣かせてしまって、ごめんね、エリカ。
お母様は私を見るだけで泣いてしまう。
私を見ると皆んなが泣いたり、泣きそうな顔をする。
ノアだけが笑ってくれる。
でも領地に戻ってしまったから、たまにしか会えなくなってしまった・・・
大事な人達を悲しませる私って…もういない方がいいのではないかしら。
ジャン様も私を見たら泣きそうになるのかしら…。
でももう会えないから、ジャン様の泣き顔は見なくて済む…。
会いたいな・・・
「リア様、どうされました?」
とユリアの声が聞こえた。
「・・・ジャン様に会いたいと思ったの…。」
「涙が出ています…」
「大丈夫よ、ちゃんとユリアの言われた通り、もう会わないわ。」
「申し訳ございませんでした…私はリア様を、追い詰めてしまった一人です…本当に申し訳ございません。」
「みんな、私の顔を見ると悲しい顔になるのね・・・・誰も笑ってはくれないのね…」
「皆、心配しているのです!」
「そうね…ごめんなさいね…」
ユリアは俯いて、そのまま部屋を出てしまった。
窓から外を見てもノアが来る事はないだろう…。
「リア、少しいいかい?」
とお兄様の声が聞こえた。
「はい。」
部屋に入ってきたお兄様は、
「リアの友人が、リアに会いたいって屋敷にきてくれてるんだ。ユリアに綺麗にしてもらってから、応接室にきてくれるかな。」
「お友達?誰かしら…」
「リアが喜ぶ人だと思うよ。俺が相手するからゆっくりで良いからね。」
「はい…」
戻ってきたユリアは笑顔になっていた。
「リア様、綺麗にしますからね。さあ最速でやりますよ!」
ユリアに着替えや化粧をしてもらい、髪を整えた後、応接室へ行った。
そこにいたのは・・・
「ジャン・・様・・・」
「はい、私です。お元気でしたか、リアさん。」
いつもと変わらない優しい声。
そして、優しい笑顔。
その笑顔を見て、涙が溢れ、立っていられなくなった。
お兄様がソファに座らせてくれたが、涙は止まらない。
そのうち、懐かしい香りに包まれた。
「リアさん、とても頑張ったのですね、偉かったですよ。
だから、私が褒めてあげましょう。」
そうして私の頭を撫でながら、
「貴方はもう頑張らなくて良いのですよ、我慢していたものは、出してしまいましょう。
パトリックさんに許可を頂きました。
ここには私とリアさんしかいません。
思いっきり大きな声で泣きましょう。
大丈夫ですよ、私にくっついていたら聞こえませんから。」
聞きたかった優しい声と優しい話し方。
命令されたわけでもないのに、大きな声でジャン様に縋って泣いた。
「ア、ア、アーーーーーーー」
「偉かったですね、皆に心配させないように、こんなに我慢していたのですね。
偉い偉い。」
背中を摩られ、ひたすら大声で泣いた。
「可愛いリアさんの瞳が溢れてしまいそうで心配ですが、大丈夫ですよ、私の胸で抑えていますからね。」
「あら、少し痩せてしまったのですね、ダメですよ、私がたくさん食べさせてリアさんを太らせてあげますからね。」
「声が掠れてしまいました…先程までは勇ましく泣いていたのに、今は子猫のようです、冷めてしまいましたが、お茶を飲みましょう。」
大声で泣いてる間も、ジャン様の声はずっと聞こえていた。
少しズレてる話しに、だんだん笑いそうになる。
「ジャン様…勇ましく泣くってどんな泣き方ですか…ふふ」
「あ、リアさんが笑ってくれました。フフ、嬉しいです。」
余りにも大声で縋り付いて泣いた事が恥ずかしいが、酷い顔を見られるのも恥ずかしい。
「ん?どうしました?泣き顔を見られたくないのですか?では、目を閉じますね、どうぞ。」
抱きしめていた腕を離し、手で顔を隠してくれた。
そっとジャン様から離れると、少し寒くて切ない。
化粧も崩れてるだろうし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているだろう顔をどう直そうかと思っていると、
「大泣きしたリアさんの顔も可愛いですよ。」
ジャン様を見れば、手で覆ってるけど、指の隙間から私を見ていた。
「ジャン様⁉︎見ているではないですか⁉︎」
「バレてしまいました。私が拭いて上げます。ほら、綺麗になりました。」
ハンカチで私の顔を優しくポンポンと拭いてくれた。
「リアさん、最後にお鼻をチンしましょう、はい、チーン。」
「嫌です、自分でやります!」
「ではお願いします。私は見ていますので。」
「もう!見ないで下さい!」
「少し元気が出てきましたか?」
「はい。」
「良かった。では、新しいお茶を持ってきて貰いましょう、パトリックさん!」
ドアのすぐ側にいたのか、すぐにお兄様が来た。
お兄様は号泣していた。
「あらあら、パトリックさんもですか、ほらこっち来なさい。貴方の顔も拭いてあげます。」
「やめて下さいよ、侯爵!」
「パトリックさん、リアさんが笑いました。お祝いです、みんなでお茶を飲みましょう!」
お兄様の顔を久しぶりに見た。
毎日見ていたのに、全く覚えていない。
ただ悲しい顔をしていた事しか覚えていない。私を心配し、自分のせいだと自分の事を責めていた。
「お兄様・・・ご心配かけました。ホントにごめんなさい。」
「リア!」と言って私を抱きしめた。
「リアが笑わなくて、怒りもしないし、泣きもしない。心配した…凄く心配した…もうリアの笑顔が見れないと思った・・・・」
「ごめんね、いっぱい心配かけたね、まだ心配かけると思うけど、その時は助けてね」
「分かった、分かったよ、お兄ちゃんが助けるから!」
「素敵ですね~兄妹って。私はユリアさんにお茶を頼みますね。」
ドアの所で泣いているユリアにジャン様がお茶を頼んでいた。
ジャン様はユリアの事も慰めているようだ。
この人はどこまで優しいのだろう…
頭にかかっていた靄のようなものが無くなった。
どうして靄が晴れたのか分からないが、ジャン様のお陰なのは確かだ。
多分、お兄様の事も魅了している。
生粋の人たらしは、出されたお茶をニコニコしながら、飲んでいる。
私と兄はそれを見て、二人で笑った。
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