信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

文字の大きさ
60 / 78

自立するため

しおりを挟む


私が王都に戻ってから、たくさんの事があった。

エリーさんは王宮で軟禁状態だが、尋問にも素直に答え、お腹の子も問題なく育っているとの事。出産までは出られないそうだ。

エリーさんがノアに何をし、何を飲ませ、何故ここまでの事をしたのかが分かった。

アルバス伯爵が何をしようとしていたのか、
何故そうしようとしたのかも分かった。
私にはその理由は教えてもらえなかったが、陛下方が納得し、誰にもその答えを言わないと決めたのなら私が聞いてはいけない事なんだろう。
マスナルダの間諜2人はまだ捕まっていないが、捕まえる訳でもないらしい。
そして水面下ではマスナルダの王位継承第2位の王弟殿下と陛下が、今のマスナルダ国王、王太子から王位、王位継承を剥奪する為になにやら動いてるとかいないとか。

アルバス伯爵に賛同していた貴族達は軒並み降爵された。賛同していたのは下位貴族がほとんどで、アルバス伯爵も高位の人達には声をかけなかったようだ。
あの薬を使われ、婚約を壊された人達には、申告してきた場合にのみ、調査、審査後、話し合いの場を持てるよう、陛下が進言なさった。

そのアルバス伯爵の処遇も決まった。
アルバス伯爵は離婚後、爵位剥奪、アルバス伯爵家は男爵になり、爵位は息子のゲルト様が継いだが、いつまで続くかは分からないそうだ。
領地は没収され、領地収入も無くなった。
問題になった鉱山は国の管理下となった為、マスナルダも手を出せない。
ジャン様の元婚約者のフィリアさんはパタっと夜遊びをやめたそうだ。

でも解決していない事が2つある。
私に白紙の手紙を渡した人は、エリーさんの想い人の“ダリオさん”だったらしいが、何がしたかったのか分からずじまい。
そして、
エリーさんの子供は誰の子か。
生まれるまで分からない。
もし、ノアの子なら・・・。


ノアの事は今でも好きだし、側にいたい。
こうなる前はただそれだけだった。
でも今はそれだけでは駄目なのだと分かっている。
婚約は破棄されている。
すぐにはノアと婚約は出来ないし、子供のこともある。

だったら私はもっと勉強し、経験を積みたい。
愚かで幼い今の私では、また同じ事を繰り返す。
だから私は決めた。
その事をお父様に相談しようと、執務室の前にいる。

トントン、
「お父様、ララリアです。」

「リアか。良いよ、入りなさい。」

お父様の執務室に入り、お父様とソファに座った。

「どうしたんだい?」

「お父様に相談にきました。」

「相談?なんだい?」

「私・・・留学したいと思っています。
今の私は何も知らない幼い子供と同じだと分かりました。
もっとたくさんの事を経験して、1人で考え、行動出来る大人になりたいのです。
成績が良くても何も分からないままでいたくないのです。
もう19で、本当なら結婚しなくちゃならない歳です。
でも、私は変わりたい。
お父様に頼り、お兄様に頼り、ノアに頼るしか・・・それしか出来なかったから…。
我儘な事を言ってるのは分かります。
それでも、どうかお願いです、私が留学する事を許して下さい。
1年で良いです、私に勉強する機会を下さい。」

「リア、今までのように誰かに世話をしてもらう生活は出来なくなるんだよ?
着替え、入浴、掃除、洗濯、食事、買い物、ボタンが取れたら繕わなければならない、それを1人で全てやるんだよ?
リアにそれが出来る?」

「やります。これから毎日やります。
皆んなに迷惑かけてしまうけど、教えてもらいます。」

「今は返事はしないよ。今言ったこと全て自分で出来るようになったら考えてあげよう。
それでいいかな、リア。」

「はい!私、頑張ります!」


それからはユリアや他の使用人のみんなに掃除や洗濯、針仕事、買い物の仕方を教えてもらった。
失敗ばかりで何一つ上手く出来なかった。
でも、諦めず何回も何回も失敗しながら少しずつ出来る事が増えていった。

その間、お母様はボロボロになった指先に泣き、お兄様は手伝うと言って邪魔をした。
ノアは、誉め殺しとばかりに褒めた。
「ララは偉いね、雑巾絞り上手くなって良かったね!前はビシャビシャだったもんね!」
「今日はバケツの水を溢さなかったんだって?凄いよ!水を少なくすれば良いのに。」
「箒も上手になったって聞いたよ、ちゃんとゴミが集められて良かったね!」
「ララ、卵が綺麗に割れたの⁉︎凄いよ、この前は殻が面白いほど入ってたもんね!」

大概、喧嘩になったけど。

着替えは1人で着れる服を用意してもらって、すぐ着れるようになった。
お風呂は身体はいいけど、髪を洗うのが大変だった。
だからユリアの髪を洗わせてもらって練習した。髪を乾かすのが、あんなに大変だなんて知らなかった。
洗濯はいろんな汚れがあって、洗い方もたくさんあった。
素材によって違うし、石鹸も汚れによって変えたりと、学院の勉強の応用だと分かったらすんなり頭に入った。
でも力がなくてしつこい汚れはなかなか取れない。
体力もつけないと思い、馬車ではなく近場は歩いて行こうとしたら、みんなに止められた。
だから庭や屋敷の中で歩き回った。
楽しかったのは、髪を結う事と市場に買い物に行く事。
買い物に行った時、私もユリアもエプロンをつけたまま買い物に来てしまった時、
偶然にもジャン様に会った。
物凄く驚いた後、満面の笑みで、お茶に誘われてとっても恥ずかしい思いをして、2度とエプロンをしたまま出掛けない事をユリアと誓った。

買い物は勉強になった。
野菜、お肉、お魚、果物、市場でいくらで売られているのかすら知らなかったし、お店によって値段も新鮮さも違うし、天候で値段も変わる。“おまけ”や“値切る”事も覚えた。
平民の人達が行くお店にもたくさん行った。
とても可愛らしい物がたくさんあるのに、値段は物凄く安い事に驚いた。
宝石のようなガラスも、精巧な刺繍も素敵なのに安い!
ユリアに聞いたら、宝石の買えない人はそれらを買ってオシャレするそうだ。
刺繍は孤児院や刺繍の得意な平民の方の作品なのだとか。
貴族はそういったものを持っていると馬鹿にされるから買わないとお店の人が言っていた。

そんな事も知らなかった。

本当になにも知らなかった。
何してたんだろう…毎日何やってたんだろう…なんて勿体無い事をしてたんだろう。
ノアと毎日お喋りして、お茶を飲んで、買い物して・・・・。
恥ずかしい。

ユリアが、
「リア様、反省は帰ってからにして下さい!
買い物、終わらせますよ!次は果物を値切って下さい、負けないで下さいよ、毎回中途半端にしか安くなりませんから!」

「が、頑張ります!」


まだまだ自立までは長そうだけど、少しずつ成長しているような気がして嬉しくなった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...