信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun

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はじめまして

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ノア視点


ララはまだ起きない。

ジャニス様の屋敷から病院までの道のりは、遠く感じ、少しの揺れも心配で、ララを抱えていてあげたかった。

移送用の馬車なので揺れは少ないが、それでも多少は揺れる。
なのにララは起きない。
途中、休憩した時、ララの息遣いが荒くなった。熱が上がってきてるようだ。
熱はあるのに汗は出てなくて、ハァハァと苦しそうで、点滴で水分は大丈夫って言うけど、カサカサになった唇に濡らしたハンカチを何度もあてた。

「ララ、もう少しだから、もう少しで着くから、頑張れ、頑張れ、ララ」

隣りにいるおじさんは、ずっと布団の上から足を摩っていた。

「おじさん…すみません…俺が近くにいたのに…」

「リアは大丈夫だから。大丈夫、必ず助かるから。」

とにかく早く着いてほしくて、何回もまだなのか聞いた。

やっと病院に着くと、ララは面会謝絶で病室に入る事は出来なかった。


それからは、仕事が終わると病院に行った。
会えなくても、毎日様子を聞いた。

副団長の指導にも挫けそうになりながら、なんとか食らいついて頑張った。
ララが目覚めた時、凄いねって褒めてもらえるように。

ジャニス様とは手紙でのやり取りをしている。
お見舞いもたまに来てくれるが、アントンさんも一緒だ。

ジャニス様はあの女と無事離婚した。
あの日から一度も会ってないそうだ。
あの女は、ジャニス様に会わせろと大騒ぎだったそうだが、アントンさんが行き、煽って、あの女から動機や心情を聞き出し、見事に取調べを終わらせたそうだ。そして処罰が下った。
ジャニス様に対しての長期の付き纏いや嫌がらせ、名誉毀損、そして殺人未遂、更生の余地なしとの判断で処刑が妥当となり、絞首刑となった。
ジャニス様は時折、隠れてジャック君に会いにいってるそうだ。
アントンさんにバレると怒られるからだそうだ。

ララは面会謝絶ではなくなったが、まだ目覚めない。

もう安定しているのに何故か目覚めない。

不安で、毎日話しかける。
ララの好きな花を飾り、今日は天気が良いとか、副団長に怒られたとか、その日あった事を話した。
エリカも来るけど、結婚式の準備で忙しいからたまにだ。
「リア…結婚式に間に合わないよ、起きて。」
と来る度言っている。


刺されてから2ヶ月たった頃、病院からララが目覚めたと連絡がきた。
団長に許可を取り、すぐ病院に行った。
病室の前に行くと、廊下でルーロックのおじさん、おばさん、パトリックがいた。

「ララが目覚めたって聞いた!ララは?なんで廊下にいるの?」

「ノア・・・落ち着いて聞いてほしい。リアは・・・・・記憶がない…」

「え…記憶がない?何の?」

「何もかもだ…」

「俺…の事も?」

「ああ。私の事も、ジェニーの事も、パトリックの事も。私達を見ても分からなかった。
ノアを見たら何か言うかもしれない。
だから顔を見せてやってほしい。けど、混乱している。もし、分からなかったら、驚かず、挨拶してやってほしい…。」

「ララ…」

ノックをし、病室に入った。

ララはベッドに横になったまま、こちらを向いていた。
すっかり頬はこけて、顔色は白い。
でも、生きてる。涙が出た。でも、覚えてないなら、驚く。だから、グイッと涙を拭き、笑ってララを呼んだ。

「ララ、俺が分かる?」

「・・・ごめんなさい…分かりません…」

「ううん、良いよ。初めまして、俺はノア・エリソン。身体は大丈夫?辛くない?」

「身体があまり動かせなくて怠さはありますが、痛いところはありません。」

「そっか、良かった…」

「あの、あなたは私の何ですか?」

「俺は・・・・・友達…かな…」

「お友達なんですね。さっき会った人達は私のお父様とお母様とお兄様で、あなたは友達。覚えました。」

「・・・・・・・ごめ、んね、後で…来るね。」

「…また私は間違えましたか?」

「え?」

「さっきの人達に…初めましてと言ったら…皆さん・・・泣いて…しまった、から…」

「ララはね、あ、俺は君をララって呼んでたんだけど、ララって呼んで良いかな?」

「はい」

「ララはね、大怪我をして、ずっと眠ってたんだ。だからみんな心配してたんだ。
でも、大丈夫だよ、ビックリして泣いちゃったんだよ、気にしないで。」

「私はあなたをなんて呼んでたんですか?」

「ノア、って呼んでたよ。」

「ノア・・・」

「そう、ノア。これからもそう呼んでくれる?」

「はい、ノア。」

ダメだ・・・もうダメだ・・・・

「ララ、ちょっと出るね、後で来るからね。」

病室を出ると、もうダメだった。
「ララ…ララ…」しゃがみ込んで立てなかった。
パトリックが抱えてくれて、ベンチに座らせてくれたけど、身体に力が入らなくて、ずり落ちそうになった。

「ノア…ララは覚えてたか?」

首を横に振った。

「何にも覚えてなかった…俺を見ても分からなかった…」

「そうか・・・」


それからは、いつかは思い出してくれるかもと時間が許す限り会いに行った。
パトリック達も、知らせを聞いたジャニス様も、父上も、母上も、みんな会いに行った。
病室から出るたびみんな泣きそうになった。
ララのリハビリも手伝った。
みんなララが笑ってくれるようにと、くだらない話しをした。

その度、ララは悲しそうな顔をした。
思い出せなくてごめんなさいと謝った。
そして、みんな、切なくなって病室を出る。
それがまたララを悲しませた。
だから昔の話しは一切しないように気をつけた。
それでもララは悲しそうに笑うだけだった。





歩けるようになって、ララは3度目となった領地での静養のため、王都を離れた。





















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