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また出会える日まで
しおりを挟むジャン視点
リアさんから“ジャン様”とまた呼んでもらえるようになってからは、睡眠不足から解放された。
王都に帰る日まで何度かお店のあのカウンターでお酒を飲み、お喋りをした。
その時にお店でリアさんと話した内容を教えた。
2人で悪口を言い合った事、私の誕生日にプレゼントをくれた事、その時のピンクのガーベラをずっと飾っていた事、妻の行動に疲れ切っていた私はリアさんから貰ったポプリを枕元に置き、貰ったハンカチを抱いて寝ていたと教えた。
「あの時、私は既婚者でした。
いくら仮面夫婦だったとしても妻がいる立場ではリアさんを口説く事も出来ませんでした。
そして、リアさんはノアさんとどう向き合っていくかを悩んでいました。
自意識過剰かもしれませんが、リアさんも私に好意を持ってくれていたと思います。
ここでリアさんと知り合い、語り合い、私を癒してくれたのはリアさんでした。
そして、リアさんは信じてくれないでしょうが、私は貴方のことを愛し始めていたんです。」
“愛している”とはっきり言いたかったが、戸惑い始めたリアさんに、それが精一杯の愛の告白だった。
真っ赤な顔で驚いた顔のリアさんは、やっぱり可愛くて、
「驚きましたか、リアさん。」と言うと、更に赤くなった顔はとても愛らしかった。
「ノアさんとリアさんを応援もしていますが、私も諦めてはいないのですよ。」
「あの、私、まだ誰を好きとか分からなくて・・・でも、ちゃんと考えますから。」
と答えてくれた。
その後、王都に戻り、リアさんは留学する為隣国に旅立った・・・はずだった。
リアさんが事故にあったと連絡が来た時、私はまだ王都にいた。
前日リアさんを見送り、次の日に帰ろうとしていた時に至急病院へと連絡がきて、すぐ病院に向かった。
リアさんがいる部屋に入ると、たくさん人はいるのに何の音もしない部屋のベッドにリアさんは寝ていた。
ノアさんがベッドの横にいて、ボォーと立っていた。
私も近くに行くと、いつものピンクの瞳は閉じており、頬を染める事もなく白い顔でベッドに横になっていた。
少しずつ泣き声が聞こえ始めた。
ノアさんは声も出さず泣いていた。
静かに、ただ涙を流していた。
パトリックさんも、アルフレッド様も、そして私も。
昨日だ。
つい昨日は笑顔だったリアさんはもう笑う事もなくそこにいた。
どうしてと呟くと、アルフレッド様が説明してくれた。
馬車の事故だと。
飛び出した子供を避けようとした際、馬車が横倒しになったらしい。
病院で治療される事もなくリアさんは亡くなった。
痛いと、怖いと、思う事はなかったんだろうか。そうだったら良いなと思うと同時に突然の事に驚いてリアさんの魂がまだここにいるようで、思わず気配を探った。
私には・・・そんな気配は分からなかった。
それからの毎日は以前より色が無くなった。
アントンはリアさんの葬儀にも付き合ってくれた。
私は病室で泣いた後、全く泣けず、逆にアントンを心配させた。
「ジャン・・・お前、ヤバいと思う…。
少し休め、な、休暇を取れ!俺が付き合うから!頼む・・・倒れそうなお前を見ていられない・・・」と私の代わりに泣くアントンに説得され、休暇を取った。
そして休暇を取り、アントンと向かった先はレグリス子爵の所だった。
ジャックに会いたかった訳ではない。
ただミレーヌが殺そうとした人が死んだ事を知って欲しかったから。
子爵にそれを伝えると、崩れ落ちるように泣いた。
記憶も奪い、事故とはいえミレーヌの思い通りになったとミレーヌの墓に伝えてやれと言った。
これほど人を憎んだ事はないと、半ば八つ当たりで子爵を責めた。
これから私は他人を信用なんかしない。
私の大切な人以外、誰一人信用もしないし情けもかけない。
愛する人など作らない。
愛する人を失う事がこんなに辛いだなんて知らなかった。
どうしてエリー嬢になんて情けをかけたんだろう。
マスナルダの間諜をどうして助けてやりたいと思ったんだろう。
リアさんを結局殺す事になった奴らをどうして助けるような事をしたんだろう。
死んでしまえば良かったのに。
あ、でも生きているから復讐出来るのか。
そしてアントンを無視し、どう復讐しようかそればっかり考えてた。
そんな毎日を送っていた時、自室の窓辺にピンクのガーベラが一輪飾ってあった。
微かにラベンダーの香りもした。
一気にリアさんとの思い出が頭を駆け巡った。
お酒に強くていつも酔ったユリアさんを介抱するリアさん。
美味しそうに料理を食べ、楽しそうにお喋りするリアさん。
私の顔を見て号泣したリアさん…。
怒っているのですか…リアさん…。
私が変わってしまった事にガッカリしているのですか?
だって貴方はいないじゃないですか・・・。
どこを探してもいないじゃないですか・・・。
会いたいのです…。
貴方に会いたい…
泣けなかったのに、開いている窓から入ってくる風が私の髪を優しく撫でるようにそよいだ。
「リア・・・さん・・貴方に・・・会いたい・・」
言葉にしたら、涙は止めどなく出た。
声を出して泣いた。
いつまでもいつまでも止まらない涙は、私の泣き声に驚いた執事がアントンを呼ぶまで続いた。
アントンが執務室に駆け込んできても、泣くのをやめない俺を、アントンはあの時みたいに抱きしめながら、背中を撫でてくれていた。
「ジャン・・・良かった・・ちゃんと泣けたな・・」
と言って2人で泣いた。
その後、
「ジャン!お前、俺の事完全に無視してただろ!根に持つからな!
危ない目ぇして、ヤバい事考えてただろ!
分かってんだからな!
絶対、俺は阻止してやる!」と叱られた。
「すみませんでした・・・自分でも生まれて初めての感情に歯止めが効きませんでした・・・」
「だな、全く俺の話し聞いてなかったしな。
リアちゃんに怒られんぞ、お前が復讐なんかに走ったら。
リアちゃんは事故で亡くなったんだ。
誰かのせいではない。
飛び出した子供が悪いちゃ悪いけど、子供のせいでもない。
だから誰かを恨むのは違うぞ。」
リアさんに怒られる・・・それは嫌だな。
怒ってる顔も可愛いけど、やっぱり彼女は笑っている顔が一番綺麗だから。
それからの私はレグリス子爵に謝罪に行った。
八つ当たりをしてしまった事、そして…私がリアさんを愛していた事を子爵に告げた。
子爵は、泣き崩れはしなかったけれど、やっぱり泣かせてしまい、申し訳なかった。
毎月一度はリアさんの墓参りに行った。
ピンクのガーベラとお酒を持って。
あの世か、来世か、次に会った時にリアさんに叱られないように、恥ずかしくない人生を送ります。
だから私が寂しくなったらまた風を吹かして下さいね。
そしてまた貴方に出会える事を信じて。
〈完〉
───────────────────────
長い期間続きを投稿出来ず、ご迷惑をおかけしましたが、なんとか完結する事が出来ました。
本当はノアかジャンのどちらかをララリアと結婚させたかったんですが、エリーとダリオの罰を考えた時にこれが一番の罰になるのではと、バッドエンドにしてしまいました。
ジャンも闇堕ちさせようかと悩みましたが、ジャンだけは優しいジャンでいて欲しかったので最後リアさんに助けてもらいました。
ずっと待っていてくれた方々、お目に留めて下さった方々、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
お気に入り登録、エールもありがとうございました。
新作も書いておりますので、今後ともよろしくお願いします。
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