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夜桜一献

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陰陽庁怪異対策課京都支部

第八話

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 朝倉京子の一族は代々世襲で陰陽庁を統べている。安倍晴明が現れた時からその血筋を貴族が重宝したとも言われ、権力者の側には一族が守護するようになり、それは現在でも続いている。もっとも、重火器を用いる現代においては役割が別れており、呪いや魔術師といったそれらで対抗できない存在のエキスパートとして国家の重鎮を守護している。それから、全国規模で展開して妖怪調伏を行うのも陰陽庁の使命であり、京都に本部を置き夜になると退魔師達が活動を始めるのである。昔から京子の一族は国の重鎮とも親しい間柄でありその財もかなりのものである故に、住んでいる家も荘厳である。庭園が庭師によって管理された美しい空間に観光地と間違えかねない程の広い敷地に和式の建物があり、一流の日本料理の職人を住み込みで雇い、和服を着たお手伝いさんも慌ただしく日や家を綺麗に掃除している光景が日常である。近くには一流の料亭や旅館が立ち並び、世界各国から訪れる観光客に観光地として間違われる事もしばしば。それ故、警備員を玄関に雇っており、家の玄関・・・というより家を囲む堀の門には必ず誰かが立っている。三味線の音が建物の中から響かせているのは、畳の部屋で和服に身を包んだ京子が講師を招いて練習していた。幼い頃から習い事をする時間も多く、三味線もその一つ。美しい旋律を奏でながら、講師と同時に弾き終わると向かいに座布団に座る講師に一礼した。

「上達したわね、京子ちゃん」

「ありがとう御座います。でも、まだまだだと思ってます。ところで紅葉大丈夫?」

「無理、足が痺れて動けない・・・・・・」

この日は、紅葉が遊びに来ており、紅葉も一緒に練習していたのだが足が痺れてしまって悶絶している。

「紅葉さんも、上達したわよ。最初に比べたらすごいわ」

初めて紅葉に三味線を渡した時は、思いきり力任せに引いたせいか弦が切れた。

「初めと比べないで下さい・・・・・・」

足が痺れて動けぬ紅葉が泣きながら訴えた。講習が終わりお茶受けに入ったお菓子とグラスに出されたオレンジジュースを二人は飲んで一息ついた。

「それで、あれから何か進展あったの?」

「うーん、お爺ちゃん達がそれで今日会議開いてるみたい。あのサイトに繋がる品々が出回ってて、同じ物かどうか確かめるんだって」

「ブードゥ教の紙切れがあるかどうかって事?」

「そう。同一人物が画策した事なら陰陽庁としても看過できないって」

「呪術師か・・・妖怪より質悪そうね」

「大丈夫、そんな案件私たちみたいな新人にまず来ないから」

事件解決能力も低ければ、技量もない二人には場違いな相手である事はこの前に痛感したばかりである。あの一件で由紀が来なければどうなっていたか分からない。二人がお茶受けに残った煎餅2枚を二人で同時に手をとって、パキン、と音を立てて頬張った。京都の市役所の地下では、陰陽庁を取り仕切る幹部達で話し合いが行われてる真っ最中であった。12人の幹部が座布団に座って、先日の一件について経過報告を行っている。紅葉の父も幹部の一人であり、この場にて発言権を持つ一人である。主に裏方の取り纏めを行っており、物資調達や裏方の事務員の纏め役でもある。議長でもある京子の祖父水蓮(すいれん)が目を細めて目の前にあるブードゥ教の紋様の紙切れと、使われた呪具を見る。猫のぬいぐるみは無惨にも中から綿が飛び出ており見た者を不快にさせる者へと変わっている。12人全員に違うぬいぐるみが配られ、反応は様々。中には興味深そうに見る若い女性の姿もある。

「日本人の仕業ではなさそうじゃの。販売者と制作者は別か」

幹部の一人が、手を挙げて報告する。まだ年端のいかぬ少女に見える。

「念視で本人を特定しようとしましたが、無理でした」

「まぁ、基本呪術を行使している間しか追跡は不可能じゃしのう」

「ですが、ぬいぐるみがアメリカで売られている事を突き止めました」

「ふむ、犯人は国外。ならば我々が出来る事はその販売ルートを潰すしかないかの。すでに被害は全国で広がっておる。」

「売っていた相手は子供だったという報告も出ていますが・・・本当でしょうか」

「呪術師の縁ある者かもしれぬし、無関係とも言えぬであろう?相手が子供だろうと関係ないわ。これだから分家の者は」

いつの時代の人間なのかと突っ込みたくなる程の格好をした男が嘲笑した。丸く太い眉に、おしろいを顔に塗りたくり、口紅まで着けている。馬鹿にされた紅葉の父は、内心怒りの炎を燃やしながらも、努めて冷静に受け流した。奥に座る3人の男性も嘲笑している。

「まぁ、いずれ犯人も尻尾を出すやろ。んなカリカリせんと前向きに行こうや」

朝倉清治(あさくらせいじ)若干二十歳の実質的トップ。現代の安倍晴明を名乗る青年が場を和ませようと発言するが空回った。彼の仕事は多岐に渡り、国に呼ばれて京都を離れる事もしばしば。起こった事件の全体を見通して暗躍し、時に実力を伴う。歴代の後継者となる子供が生まれると同時に記憶の術式が親から子へと受け継がれ、安倍晴明の術と記憶をストックしての生活となる為、記憶の混同が起こる事がままにある。自分の記憶の中で重要な物をストック出来る為歴代の晴明達の記憶も垣間見る事が可能。彼等の会得した術等も使えるようになり、幅広い知識と経験を持つ。

「あんたは、もう少し緊張感持った方がいいわね」

朝倉 羽津流(あさくら はづる)

京子のおばで京子の母の姉。昔は現役で外に出ていたが甥二人の両親が他界してからは水蓮に請われて幹部に。
      
「では、私は引き続き調査を続けます。朗報を期待して下さい」

泉 命(いずみみこと)14才という若さで幹部を引き継いだ天才少女。人海戦術で情報を集める諜報の役割をもつ。

「つまんないわね、後手に回るというのは癪に触るわ」

魔堂 星蘭(まどう せいらん)性格のきつい30代の女性。実力は歴代の中でも上位に入る実力者。呪いの探知が得意。

「星蘭殿、暫し待たれよ。我らの総力をもってすれば容易き事かと」

月野 彦麿呂(つきのひこまろ)平安時代に生まれていればと本人も思っている。

「警察との連携ならわしらが役目を持とう。呪術捜査官も総動員し情報も共有して対処に当たれば、スムーズに事が運ぶであろう」

釜戸玄府 (かまどげんぶ)幹部の派閥としては2番目に大きい。50歳で恰幅も良く、腹が出ている坊主。警察や国家との橋渡しをする事が多く広くパイプを持つ。呪術師専門の警察組織の部署にも顔が利く一人。水蓮が各々の報告を聞き終えると、重く告げた。

「これ以上後手に回らぬよう情報の網を巡らせよ。相手は相当の呪術師と伺える。これは先程より受けた報せじゃが、米国の首相の孫が何者かによって呪い殺されかけたという話じゃ。そして教会がそれを退けたとも。話が悪い方へ行けば再び教会が日本で動きを見せるやもしれぬ。それは我が陰陽庁としては受け入れ難い事態じゃ」

水蓮は烈火の如く怒りの炎を燃え上がらせる。周囲に熱が発生して畳から黒煙を発生させた。

「畳が燃えとる。怒りを沈めんと」

「清治すまんの、ついつい怒りで我を忘れる所じゃった」

周囲の温度が元に戻ると同時に静寂も戻った。会議は筒がなく終わり、情報収集に奔走する事となった。政府からの陳情と警察の協力もあってすぐに解決に至ると思われたが、販売ルートは霞の様に網からするりと抜けていく。何も掴めぬまま一週間が過ぎた頃新たな事件が始まりを告げていた。



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